駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

往診で知ること

2008年04月11日 | 医療
 週に十二、三軒往診している。開業当初は数軒だったが、数年で現在の数まで増加した。それ以後は他にも往診される医師が出てきたので横ばいになり、だいたい現在の数で推移している。往診の多くは脳血管障害あるいは重度の痴呆症による寝たきり患者さんだ。その半数は意志の疎通はできず失禁状態で、その又半数が経管栄養を行っている。
 家庭では90%の割合で女性(妻、嫁あるいは娘)が世話をされている。訪問看護やヘルパーの援助があっても、年間300日以上の拘束と介護は大変な負担である。無償の労働だから、多大の医療費を家庭で肩代わり負担していることになる。
 介護者から不平や愚痴を聞くことは少ない。正直なところ、介護の手厚さには微妙な温度差がある。こんな事を書くのは気が進まないが、時々、息子や嫁さんの場合がやや多いようだが、細やかさがどうかなと感ずることがある。それには家族の歴史が反映され、医師が介入するのは憚かられることが多い。恐ろしいことなのだろうか、細やかさは余命にいくらか関係しているようだ。
 全く反応のない、元気な時とは似ても似つかぬ患者さんに、普通に呼びかけて家族の一員として世話をされている場合は、驚くほど長く生きられることが多い。何の反応がなくても、聞いているのだと思えてしまう。
 こうしたことを書くのは、たとえ匿名化してあっても好ましくないと思われる方もおられるかもしれない。そうした感覚もわかるが、私は現場で実際に診療に携わる者として、事実の一端を間接的に伝えることは許されると考えている。医療に対する浅薄な批判や軽々しい批評には、なによりも事実を示してゆきたい。
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