駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

AIにも弱点

2018年06月11日 | 世の中

      

 人工頭脳(AI)で東大合格を目指した数学者の新井紀子さんが、五年ほど取り組んだ結果、どうもAIで東大に合格するのは難しいという結論を出された。AIに進歩がなかった訳ではなく、全国の大学の八割には合格できるレベルまでは達したようだ。何故トップクラスの大学に合格するレベルまで行けなかったかというと、AIは読解力が不十分で、その力を付けることが出来なかったからだ。

 なぜ読解力が付かなかったかというとか、それはAIを作り上げている数学に限界があるからだというのが新井さんの説明だ。論理、確率、統計という数学の言葉では表記できない能力を人間は持っている。AIは意味を読解するのが苦手で、碁や将棋は強くなれても玄妙飄逸な落語は演じられない、古今亭志ん生や柳家小三治には取って代われないというわけだ。それに以心伝心や恋愛といった数式に落としにくい能力が足りないらしい。

 成る程、人間の独自性が保たれて一安心というという気もするが、実際の所AIは一部のトップクラスの知能を持つ人間の総合解答力には及ばなくても大多数の人を越える解答力を持つようになっているし、計算ではどんなに優れた人間をも遠い昔に凌駕している。そして応用実用化は着実に進歩しており、多くの仕事が十年二十年後にはAIやAI付きロボットに取って代わられると予測されている。それはとりもなおさず、職を失う人達が数多く出てくるということで、新井先生はそれを憂慮し、そうした社会変化に対する準備や対策が必要といくつかの提言をされている。

 彼女のこうした言明にAI研究者やマスコミからの反応は少ないようだ。AI研究者は言われなくても分かっているのか討論する時間が惜しいのか、マスコミは難しい話景気の悪い話は嫌うのか避けるのか正面から取り上げない。

 私には門外漢ではあるが新井さんのお話は腑に落ちた。田中角栄は頭数と喝破していたようだが、民主主義は単純な多数決ではないと考えるようになった。敬意や尊重のない尊重すべきものを吟味できない頭数は間違うと予言したい。新井さんのお話は傾聴すべきもので、誰もが考えてみた方がいいと思う。

コメント
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