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駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

できるだけのこと、誰のために

2022年01月20日 | 診療
         

 二年前から寝たきりの九十五歳のお婆さん、腎機能も低下し貧血も進行している。認知も高度で娘も付き添い世話してくれる人と思っている。先日、誤嚥性肺炎を起こした。もうこれ以上は無理ですこのままでとお話ししたところ、危篤と聞いて駆け付けた息子と孫たちができるだけのことをしてくれと言い出した。それでは入院しかありませんと申し上げると、折角家で看取ろうと世話をしてきた娘さんと喧嘩が始まった。
 毎日食事に下の世話で、めっきり老けて白髪になられたお嬢さんを知っている身としては、出来るだけのことをしてくれって誰のためにと思ってしまった。
 末期がんや超高齢者を毎日世話していた家族と静かに看取ろうとしていると駆けつけた身内が、点滴をしろ入院だなどと騒ぎだすことは何度も経験した。
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後期高齢者の時間感覚

2022年01月12日 | 診療
            

 半世紀前になるが患者さんの病歴を取る時、日時を特定するように注意されたものだ。この前、ちょっと前、先日からお腹が痛いと言われても三日前か一週間前か一ケ月前かわからない。人によって随分幅があるからだ。日時だけでなく痛みの場所も臍の周りか右寄りか下腹部かなど特定しなければならない。
 痛みの場所はともかく、時間の間隔は高齢になると延びるというか曖昧になってくる。しばしばこの前貰った塗り薬をまた欲しいとか頂戴とか頼まれることがある。爺さん婆さんのこの前は要注意で、一目でわかる過去一年間の投薬の中に入っていないことがある。ひどい時は三年前のことだったりする。
 先日、お久しぶり又診てくださいと高齢のご夫婦が受診された。八十四歳の夫に奥さんが付き添って来られたのだ。懐かしそうにされるが、マスクをしている上に年を取られたので分からずえっ誰としげしげ顔を眺めながら戸惑ってしまった。それも当然で二十五年振り、しかもお見限りで他院に変わられていたのだがその先生が閉院ということで戻って来られたのだ。そんなことで余計に懐かしそうにされたのだろうか。二三分話しているうち漸く、ああ年を取られたと面影が戻り話の辻褄が合ってきた。どうも年を取ると時間感覚が変容するようで手間取ることがある。
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掛かりつけ医の仕事

2022年01月09日 | 診療
           

 暮れに総合病院にMさんを紹介した。二ヶ月ほど前から食欲が減って少し痩せられたので採血検査をしたら軽度の貧血を認めた。八十を過ぎておられるが殆ど認知もなく自力で通院され老化の進行ではなさそうだ、何か胃腸に病気が隠れていると判断したからだ。
 正月明けに受診され、話を聞いて欲しいと言われる。最初の超音波検査で何か異常があったらしく複数の医師で話をしていた。心配になりどうですかと聞いたら後から来た医師に大したことはないと言われたが、次いでCT、カメラ、大腸カメラと立て続けに検査された。暮れだったせいか殆ど連日で毎回朝の九時から夕方の五時までかかった。食事を抜いたり長く待たされたので付き添いの妻共々へとへとになってしまった。大したことないのに何でこんなに検査するんだ。おまけに結果は息子に説明するという、どういうことかとかなりご立腹の様子だった。まだ、精査しますという返事しか貰っておらず、病気のことは説明できなかったが病院でも遠慮しないで納得できないことはちゃんと聞くように、聞けば説明してくれますよとお話ししたことだ。
 十五分ばかりあれこれ繰り返し言いたいことを私に話せたせいか、だいぶん気持ちが落ち着いたようでほっとした顔でお帰りになった。
 こうしたすれ違いは時々ある。患者さんは総合病院だと気後れがするし、見知らぬ医師なので余計にあれこれ聞きにくいのだ。医師の方は患者さんよりも病気に眼が行っているし、多くの場合型どおりの説明で済むので、高齢患者さんの立場心境まで気が回らなかったのだろう。それに医師が三十代と若いということもある。
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訴えが多すぎて

2021年12月16日 | 診療
      

 胸焼けがする膝が痛い眠れない・・と一度に色々訴えられると診る方が付いて行けず、受付から処方追加の電話を貰うことがある。訴えが複数でも関連していれば忘れることはないのだが、ついでと言ってはなんだが湿布も貰っておこうと話の合間に訴えられると聞こえても脳に入らず処方し忘れるのだ。つまり病気にはストーリーがあり、始まり経過反応などから理解するので飛び込みの注文は別口になり外れてしまうのだ。
 微熱咽頭痛咳痰鼻水などの症状は感冒という一つのストーリーで理解できるので数が多くても全く問題ない。これは医業に限らず、人間が作業する時の特徴だと思う。例えば、中華の達人が目にもとまらぬ早業で炒飯を作ることができるのは炒飯を作る作業が一つのストーリーとして頭に入っているからだ。
 勿論、病気には多彩な症状を呈するものもあるが経過を聞けば脈絡があり、知識と経験があればストーリー(疾患像)が思い浮かぶのだが、一カ所で必要な薬を貰ってしまおうとか憂きことはなんでも話そうとかという患者さんのバラバラの訴えには短時間で対応しきれないことがある。医者は聖徳太子ではございません。
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年金暮らしだから

2021年12月10日 | 診療
                 

 医療費についての不満を受付で言われる患者さんは時々おられるが、医師に直接言う人は希だ。
 先日、糖尿病で通院している肥満体のHさんに、間食しないで身体を動かしてますかと聞いたところ、食べちゃってるねえと言いながら体重計に乗られた。88kgと減量の兆しはない。今日も血糖検査をすると告げたところ、
「この頃毎回検査をするけど、検査値は良くなってるじゃないか」と不満げに言われた。えっという顔をしたら、
「年金生活になったんで検査代が懐に響く」と答えられた。自分としては検査は必要最低限なものにしているつもりなので、
「間食していると言われたし体重も減ってないので今日もと思ったんですが、じゃあ今日の検査は止めて次回にしましょう」とキャンセルした。
 本当は血糖値以外にも肝機能や腎機能も数ヶ月に一度は検査したいのだが、やりにくくなった。血糖とエーワンシーの検査でも千円増なので確かに負担に感じるかもしれないが、健康のためだし自分の間食を棚に上げてとあまりいい気はしなかった。もう十年通っている患者さんで退職されていることも知っていたのだが十分な意思疎通ができていなかったらしい。病院へ行けばもっと、外国に行けばもっともっと費用が掛かるんだが、医療費に対する感覚は患者さんによってかなり違うようだ。
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