Con Gas, Sin Hielo

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「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

2023年12月16日 20時42分22秒 | 映画(2023)
ぼくらは失った何かを取り戻したいらしい。


物語の舞台は昭和31年。終戦から10年が経ち、国全体が立ち上がろうとしている時代である。

製薬業を営む大企業のトップであった龍賀時貞が急死したとの報せを受け、グループ会社と懇意にしていた銀行員の水木は、跡取りに取り入ってのし上がろうと考え、龍賀の一族が拠点にしている哭倉村を訪れた。

龍賀の屋敷では、まさに時貞の遺言状が公開されるところ。親族だけでなく、龍賀の仕事で生計を立てている村じゅうの人々が集まって行方を見守っていた。しかし、一族の権力は、大方の予想に反し表舞台に現れていなかった長男・時麿へ譲られることになり村は大混乱。その後、時麿をはじめ一族の者が「犬神家の一族」のように次々に無惨に殺されていく事件が起きる。水木は、ふらりと村に現れた謎の男とともに呪われた村の真相へと迫っていく。

水木しげる生誕100年を記念した作品だという。観に行った日の客席は満席。客層は女性、それも比較的若い年代の人たちが多く来ていた。ホラー的な要素を多分に含むこの漫画がなぜここまで国民に愛される存在になったのか。鬼太郎の前日譚は少しだけその秘密を教えてくれる。

水木と行動を共にする謎の男の正体は鬼太郎の父親である。今回初めて知ったのだが、鬼太郎は幽霊族なのだそうだ。となると馴染みのある鬼太郎のお話は、人間と妖怪の中間で橋渡しをしている役回りになるというところか。

本作では、幽霊族は絶滅寸前という設定になっている。生き残りである鬼太郎の父は、行方が分からない妻を探して哭倉村へやって来たのだが、龍賀一族こそが幽霊族を利用して金を稼いだ張本人であったことが判明する。

妻は人間を信じ、人間社会の中に溶け込んで生きてきた。しかし彼女は裏切られた。一方で、銀行員の水木は、かつて戦地で大義のためと言い聞かされて無駄に命を散らした同志たちを目にしてきた。そして更に龍賀一族の中にも、一族の繁栄のためだけに消費されようとしている若い命があった。

信じてきたものや希望を打ち砕かれた者たちの悲しみと怒りが物語全体を包む。

鬼太郎の父が、時貞の孫である時弥に、これからの日本は栄光と繁栄の道を歩むのだと説く場面がある。その後、村のどす黒い秘密が明らかになり、その権化との死闘を終えてしばらくしてから、二人は大きく変えた姿かたちで再会することになるのだが、そこで鬼太郎の父は申し訳なさそうに、今の社会が希望したようになっていないことを嘆く。

一生懸命生きてきたのに、それなりの成果を上げているのに、世の中はちっとも良くならない。怒りたくなるし、諦めたくもなるけれど、それより早く時間が流れていく。

だから立ち止まる必要がある。悲しみや怒りに向き合うのは怖いことかもしれない。しかし、その先に進んで初めて何が大事であるかが、自分の進むべき道を確認することができるのだと思う。

先日のゴジラもそうだったけど、歴史を持つシリーズというのは奥が深い。

(90点)
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