禁じられた家族。
本作を一緒に観に行った母がまず口にしたのが「禁じられた遊び」を思い出すということだった。検索してみると、立川志らくも同じことを言っている。
確かに、不幸な生い立ちからめぐり会った血のつながらない疑似兄妹という設定が重なる。そして、彼らがよろしくないことをしていたことも。
「禁じられた遊び」では宗教的に不道徳だった「遊び」が本作では社会的に許されざる「犯罪」となり、兄と妹の関係は疑似家族を形成する6人へと広がっている。
リリーフランキー演じる父。安藤サクラ演じる母。樹木希林演じる祖母。これに息子と同居人を加えた5人は、ちょっと見る限りはありふれた普通の家族に見えた。
しかし彼らは訳あって一つ屋根の下に暮らしているまったくの赤の他人。普通に働くこともままならず、万引きをしてかろうじて生計を保っている状態だった。
一部では、万引きをする主人公を肯定的に捉えるなどもってのほかだというような声が上がっていると聞く。
是枝裕和監督の社会的な姿勢をよく思わない人たちからの中傷にも近い物言いと思われるが、あまりに近視眼的でがっかりさせられる。
ちゃんと映画を観れば、肯定はもちろん、仕方がなかったとも言っていないことがすぐに分かる。彼は政府に批判的かもしれないが、映画では線引きをして偏りのない目線で物語を作っている。
事情があって居場所がなくなった者たちが寄り添ってできた疑似家族。これは決して日本社会の批判などではなく、世界のどこにでも起こり得る話として描かれている。だからこそカンヌ国際映画祭の審査員たちの共感を呼んだのであろう。
パルムドール受賞で大きな話題となったこともあり、最初からこの家族は偽者と知った状態で観てしまったのだが、映画自体はまったく説明がされないまま進行するので、本来であれば、普通の家族に見えた人たちが実は・・・という驚きを得られたはずである。そこは少し残念だった。
社会からこぼれてしまった人たちはどうやって生きていけばいいのか。やっと見つけた居場所で、父として、母として、一瞬だけでも輝きを持ったことを微笑ましく思う一方で、それが万引きという犯罪の上に成り立っていたという絶望的な事実が立ち塞がる。
貧困の連鎖という社会問題に対する残酷な一事例という位置付けの中で、必ずしも暗い気持ちで終わらないのは、祖母がニセとはいえ家族に見守られて旅立つことができたことと、息子が自ら区切りをつけて新しい世界へ踏み出そうとする場面が描かれたことにある。
妹の境遇だけはなかなか希望を持ち難いところがあったが、父も母も含め、それぞれが間違った家族体験から何かを学んで次のステップへ移っていくことは感じられた。
この非常識な家族の設定に共感できたのは、脚本とともに演者の現実感を追求した演技によるところが大きい。中でも印象に深く残ったのは安藤サクラである。事情聴取で見せる涙の力強さに圧倒された。
(90点)
本作を一緒に観に行った母がまず口にしたのが「禁じられた遊び」を思い出すということだった。検索してみると、立川志らくも同じことを言っている。
確かに、不幸な生い立ちからめぐり会った血のつながらない疑似兄妹という設定が重なる。そして、彼らがよろしくないことをしていたことも。
「禁じられた遊び」では宗教的に不道徳だった「遊び」が本作では社会的に許されざる「犯罪」となり、兄と妹の関係は疑似家族を形成する6人へと広がっている。
リリーフランキー演じる父。安藤サクラ演じる母。樹木希林演じる祖母。これに息子と同居人を加えた5人は、ちょっと見る限りはありふれた普通の家族に見えた。
しかし彼らは訳あって一つ屋根の下に暮らしているまったくの赤の他人。普通に働くこともままならず、万引きをしてかろうじて生計を保っている状態だった。
一部では、万引きをする主人公を肯定的に捉えるなどもってのほかだというような声が上がっていると聞く。
是枝裕和監督の社会的な姿勢をよく思わない人たちからの中傷にも近い物言いと思われるが、あまりに近視眼的でがっかりさせられる。
ちゃんと映画を観れば、肯定はもちろん、仕方がなかったとも言っていないことがすぐに分かる。彼は政府に批判的かもしれないが、映画では線引きをして偏りのない目線で物語を作っている。
事情があって居場所がなくなった者たちが寄り添ってできた疑似家族。これは決して日本社会の批判などではなく、世界のどこにでも起こり得る話として描かれている。だからこそカンヌ国際映画祭の審査員たちの共感を呼んだのであろう。
パルムドール受賞で大きな話題となったこともあり、最初からこの家族は偽者と知った状態で観てしまったのだが、映画自体はまったく説明がされないまま進行するので、本来であれば、普通の家族に見えた人たちが実は・・・という驚きを得られたはずである。そこは少し残念だった。
社会からこぼれてしまった人たちはどうやって生きていけばいいのか。やっと見つけた居場所で、父として、母として、一瞬だけでも輝きを持ったことを微笑ましく思う一方で、それが万引きという犯罪の上に成り立っていたという絶望的な事実が立ち塞がる。
貧困の連鎖という社会問題に対する残酷な一事例という位置付けの中で、必ずしも暗い気持ちで終わらないのは、祖母がニセとはいえ家族に見守られて旅立つことができたことと、息子が自ら区切りをつけて新しい世界へ踏み出そうとする場面が描かれたことにある。
妹の境遇だけはなかなか希望を持ち難いところがあったが、父も母も含め、それぞれが間違った家族体験から何かを学んで次のステップへ移っていくことは感じられた。
この非常識な家族の設定に共感できたのは、脚本とともに演者の現実感を追求した演技によるところが大きい。中でも印象に深く残ったのは安藤サクラである。事情聴取で見せる涙の力強さに圧倒された。
(90点)
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