Con Gas, Sin Hielo

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「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした。」

2023年11月11日 01時05分25秒 | 映画(2023)
夏の終わりは寂しくもあるが、楽しみでもあり。


人生には春夏秋冬があると思う。

幼児から思春期にかけてが春。働き盛りの夏を過ぎて、定年退職を控えて人生の終末を意識し出すころが秋といったところか。

「人生に詰んだ」という言葉にアンテナが反応した。希望がない未来に絶望したり、仕事の一線から退いて生きがいを失ったりするのは、50から60歳代によくある話と思うのだが、本作の主人公はまだアラサーの元アイドルである。

最近はアイドルも多様化していて必ずしも一括りにはできないが、人前に出るということは、ある程度自分はできる人間だと思うところがあったのだろうと推測する。

しかし、主人公の安希子は、アイドルを辞めてからはこれといった成功がつかめず、気がつけば収入も恋人もない生活にはまり込んでしまっていた。

心労で家から出られなくなった安希子に友人が勧めてくれたのが、赤の他人である50歳代のおっさん・ササポンとの共同生活であった。

若いのに「人生に詰んだ」と思い込んでいる安希子が、人生の秋たけなわをリアルに送っているササポンの感性に触れることで、少しずつ浄化されていく様子が興味深い。

ササポンは多くを語らない。ただ、時折発せられる短い言葉は、無駄な飾りがないからか安希子の心の中にすっと入り込んでいく。

年齢を重ねて「諦める」ということができるようになった。「家族でも親戚でもないのに」と言われて、それって関係ないよねと返す。彼の言動に深く相槌を打っている自分がいることに気が付く。

そう、ササポンは僕だ。

56歳男性にふさわしい生き方とは何か。世の中のほとんどの男性は、まだまだ自分は20年前、30年前と同じように働けると思っているのかもしれない。

でも違うような気がするのだ。現役でいることは間違いない。ただ、夏と秋は違うはずである。

今年は特に暑さが長引いて、11月に入っても夏日を記録することが多かったが、やっぱりそれはおかしい。暑い夏の服装をしていた日々から急に気温が下がったら体を壊すでしょう。

いつまでも同じ役職にしがみついて老害と陰口を叩かれるより、自分の身の丈に合った落ち着いた暮らしに移行する方が良いに決まっている。ササポンは様々な経験を経て、その境地にたどり着いたのである。

夏は楽しい。ササポンにとって安希子は夏の日差しのようにまぶしく輝いて見えた。でも、それはそれ。秋の日に夏の楽しさを求めることはない。それは「諦め」ではあるけれど、決してネガティブではなく、秋には秋の楽しさやふさわしい過ごし方を見つけるという、前向きな姿勢でもある。

いいんだよ、適当で。死にたい気持ちになったとしても、死ぬわけではないし。

ササポンを演じた井浦新は49歳だそうで、今までにない少し枯れた中年男性を違和感なく演じている。安希子役の深川麻衣は、元乃木坂46で安希子と同じベースを持つ女優。こちらも、アイドルの名残りと私生活が空回りするくたびれ感が同居する役にぴったりハマっていた。

(85点)
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