今日は、私が指導した側頭葉性健忘の方のはなしをしましょう。
ミカンの花
もう2~3年前に年賀状をいただいて、その直後のお手紙に「主人もそろそろ兆候が・・・でも80歳を超えた主人ですから、二人で頑張って生きていこうと思っています」と書かれていました。
年賀状の写真があまりにもおしゃれではつらつとしていらっしゃったものですから、何が起きているのか電話でお尋ねしました。
「とにかく忘れて、忘れて。
こっち向いたらもう全部なくなってるみたいなんです。
町内会の世話人会の寄合でも、言われたことを忘れてしまうものですから、私が出席している方に尋ねて、ミスの無いように気を付けてます」
「町内会の世話役をされているのですか(小ボケでも無理です!)」
「はい。昔からやってきてますし、私から言うのも変ですが人望があるというか、主人のやり方やアイディアがいいらしくて80歳を超えても呼ばれるんです」
脳機能から見ると答えは出ました。 エリカの花
世話人ができる。人望がある。アイディアが評価されている。世話人をやめさせる動きがない。つまり前頭葉機能が生きている証拠です。
そして、こっち向いたらすぐ忘れるほどの記憶障害がある。
はい。側頭葉性健忘ですね。
言葉を選びながら、認知症ではないこと、でも覚えることはできない状態になっていること、そしてそれはたぶん改善できないこと、だからノートを使って補うしかないこと、などを説明しました。側頭葉性健忘用の”メガネ”
こういう場合、できないと訴えられることを理解した後で、できることの確認をしていきます。
ハンカチノキの花
・おしゃれである。毎朝洗面所でキチンをひげや髪の毛の手入れをする。
・洋服の好みも、昔から一家言持っていたが、今も変わらない。
・食事の作法もきちんとしている。
・ユーモアがあって、いつも笑わさせられる。だから、他人から好かれるのかもしれない。
・気が利く。言われなくても家事を手伝ってくれる。とても役立っている。(けれども、後になると自分がやった仕事かどうかわからない)
・居眠りすることがなく、いつも何かやっている。これも昔から変わらない。自室もきちんと整頓できている。
・物忘れの失敗があると恥ずかしがったり、落ち込んだりする。
・外出先で、景色や花や子供なんにでも感動する。(けれども帰宅後には一切覚えていない。)
・新聞やテレビのニュースもよく見聞きして、適切な解説をしてくれる。(けれども、後で聞いても覚えていない)
この列挙した事々が、前頭葉機能が働いている結果です!
ペネロペ
前頭葉機能の説明をして
「物忘れを見るとボケているようですが、ほんとにボケている人は、いくら軽い段階でもここに挙げたことは何一つできません。
なぜ、これだけの記憶障害が起きたかはわからなし、治す方法もありません。
ちょうど脳卒中で後遺症が起きたみたいですね。
記憶障害という症状に負けないで使い続けることが大切です。それが前頭葉機能を守ることになるからですよ。
そうしないと、本当のボケになってしまいます」かなり熱心にお話ししました。
先日奥さんからお手紙が来ました。
「ー略。おかげさまで生活には支障なく、あっても許せる範囲。今年も少し手伝いをしてもらい作品づくりをがんばろうかと思っています。(奥さんは趣味の域を超えた制作をしていらっしゃいます)入浴は近くの温泉へ。イベントがあれば二人で出かけて楽しみます。用事は一か所ずつと工夫しながら安心の生活をしています。今まで神経がとがったのは、私自身病気に対して正しく向き合う姿勢が足りなくてイライラを起こしていたのですね。これからは一呼吸おいて向かい合っていくことにしたら、楽になることがわかりました。ー略」
このまま、側頭葉性健忘のままでいらっしゃってくださいね!