脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

正常から認知症への移り変わりー時の見当識から類推可能な重症度

2008年06月19日 | 正常から認知症への移り変わり

ボケ始めはどういうことがおきてくるのか、続けていろいろ書いてみました。

研修会でも強調するように、生活していく時、その原点をなすものは「見当識」(特に時)です。
見当識には三つあります。
「今何時か」「ここはどこか」そして「私は誰で、あなたは誰か」この三つの見当識が確実でないと、安定した生活は望むべくもありません。
今日はその見当識の中でも、MMSの成績と相関が大きい「時の見当識」の落ち方についてまとめてみます。

見当識が低下していく順番は、時→所→人ですが、最初に低下が始まる「時の見当識」ですら、実は小ボケの状態ではまだあまり影響は出ていません。
我が家のグラナダ
                     
小ボケの終わりごろになって、今日の日付がややあいまいになってきます。
関心が薄くなったり、一日二日間違えたりしますが、指摘されるととてもよく納得してくれます。
我が家のルノアール

中ボケになると、まず本人がしつこいほど聞くようになりますが、いくら教えてあげても「ざるに水」状態になって今日の日付はあいまいなままになります。
つまり見当識の中で最も早く低下し始める「時の見当識」ですら、いくら注目していても、ボケの早期発見はできないということになります。
トケイソウ

大切な情報を! 時の見当識の低下順です。
まず日付があやふやになります。ちょっと間違えても修正できるまでが小ボケ。日付があやふやになって、すぐに修正できなくなったら中ボケに入ったことになります
それも一日二日の間違いから、上旬中旬下旬程度はわかっている状態、何日かまったくわからない状態まで幅があります。
日付がすっかりわからなくなってから、今年が何年かわからないということがおきてきます。
でも、そのときなら今が何月かはわかっているのです。ここまでが中ボケの真ん中で、改善の可能性がとても大きいレベルです。

次に、今が何月かすっかりわからなくなってくるのですが、そこまでいくと中ボケの真ん中を越えて下限に近づいてきていますから、なかなか改善は難しくなります。

年と月の関係と同様に、今何月かがわからなくても、今は夏とか冬とか季節はちゃんと分かっている状態が、まず起きてきます。

そしてその後に季節感が無くなるのです。
そのレベルになると今の季節が何なのかはっきりしませんから、夏なのにセーターを着たりマフラーを巻いたりし始めます。冬なのに夏の格好をすることもあるにはありますが、頻度は夏に冬の格好をするほうがはるかに多いのです。
中ボケの下限ということになります。ここまでくると維持を図るのが精一杯でしょう。
そしてここまでくると「ボケたんじゃない?」と囁かれるようになりますよね。
去年のダリアが咲きました
  

大ボケになって、昼と夜を取り違えて、夜中に電気をつけて回ったり、騒いだり、果ては会社や田んぼに行くと言い張ったりします。
そうすると、そう「気の毒にボケた」って言うんですよね?

「時の見当識」に注目しても、小ボケは発見できませんが、大ボケの症状を見せる前に、いろいろなレベルや段階があることを知っておくことも大切でしょう。

「時の見当識」に関連して、北海道K町のK保健師さんの話が面白くて忘れられません。               
「教室に来るのに、十分時間をとって来る人はまあまあです。
ほんとに元気な人は大体駆け込んできます。だって皆さんすることがたくさんあって忙しいんですから」
「あまりにも早々と来る人は事情をよく聞かなくてはいけません。家人の都合で、『ついでがあるから早いけど送っていくよ』というケースがあるからです。
そういう時は本人は何か持ってきて時間つぶしをしています。本とか手芸とか俳句ノートとか」
「1時間も早く来るときは、友達と会うのが楽しみでついつい早く来たという場合もあるし、時間を間違えているのかもしれません。
時間を間違えているときは、持ってこなくてはいけない物を持ってき忘れたりというようなトラブルが他のシーンで起こります。そしてまた、その手のトラブルを繰り返すのです。こういう人が小ボケ」
ホテルの七夕飾り

「中ボケの人は、教室開催日を間違えてしまって、一人だけ別の日に来ます。
何度も『今度の教室は何日だったでしょうか』と電話がかかってきたりすることもよくあります。そういう時は、結論的にはほとんど間違えてしまうんですけどね」
インパチェンス
 
このように、症状は、興味深く聞くことができるでしょうが、保健師さんたちは専門家なのですからその次の段階が大切なのです。
この症状は、どういう脳機能レベルなのかを類推する癖をつけてください。
もちろん繰り返しお話しているように、まず、脳機能テストが必要条件ですよ。
自分の中で、この脳機能ならこのような行動(症状)という物差ができるためには、脳機能テストの実践と生活実態の聞き取りが不可欠なのです。

早くその物差を身につけていただきたくて 、軽い症状からの推移を書いたのです。