脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

認知症の友人をどのように支えるか?give upしかない。

2024年09月07日 | エイジングライフ研究所から

遠くに住む友人から、電話がかかってきました。(9月2日)
話を要約すると
・退職後も仕事仲間5人で、ランチを楽しんだり時には旅行したりするお楽しみ会をずっと続けてきた。全員70歳代。
・そのうち一人のメンバーの様子がおかしい。
多分一番賢くて、立派な仕事をして、両親も夫も息子も優秀で地区では有名な家庭。当人は一人っ子。早くに父親と夫を亡くし、子どもたちは県外在住。3年前に母を見送る。
・話すときは普通。もちろん徘徊も夜中に騒ぐとかもないけど、やっぱりボケてるんだと思う。
・火事でも出したら、ご近所に申し訳ないと心配になる。
・どうにかして、治せるならば治してあげたい。
・5人組の中でも特に関係が深い人は、困り果てる事件が繰り返し起きてきて、心配になるというか、実際には困らされることが頻出している。

この一番密に付き合っている人のお話は中ボケレベルの脳機能(前頭葉機能はほとんど働いていない。脳の後半領域の機能はMMSE満点が30点で19点を切ったところ)になった人の生活をよく見ていると思いました。また聞きですがまとめておきました。
・一緒のジムにも通っていたが、日時の間違いなどがたびたび起きたためか最近辞めた。
・楽しませてあげようと、計画を立てるとても喜ぶのに「都合が悪くなってキャンセルさせて」または「(来るはずのない)客が来るかもしれないので家を空けられない」
「じゃあ、あなたが自分の都合最優先にした予定を立てて、私がそれに乗っかる方法にしよう」と提案すると、自分で予定を立てたのにやっぱりキャンセルしてくる。
(実はここにはちょっと疑問があって、この脳機能の人が「予定」を立てることはそもそも無理。もし予定を立てたとしたら3年以上前の話のはずです)
・「お金がない」と訴えるので通帳を見ると確かに数百円しか残金がない。他の通帳にはたくさんあるので、銀行に行ってこの手続きをするといいと書いてあげても行った様子はない。
・駐車場に停めた車をたびたび探しているらしい。
・「しばらく東京に行ってくる」といっても新幹線チケットの日付がつじつまが合わない。行ったかどうかも不明。
・前から気になっていたこととして、わざわざ追加してくれました。
みんなで会話を楽しんでいるときに、いかにも興味なさそうに周りや窓の外を見たりしているかと思えば、突然勝手な話題で会話に参入してくる。もちろん言っていることはおかしくないが、あまりにも唐突。

私は、浜松医療センター勤務時代に電話相談を受たことがあります。一日中電話が鳴りやまない状態が10日間は続きました。
その時に、最小限の時間で対応ができるようになりました。
まず「何が一番困っていますか」と尋ね、そのことが起きるのはどのような脳機能状態かを類推します。相談者が相談した領域とかけ離れた領域で、その脳機能なら起こりうることを具体的に伝えると、一致すれば「あ、わかってくれた」という反応を電話越しに受け取ることができます。一致率は高かったですよ。
例えば「洋服は着られますが、前後、裏返し、重ね着。デイサービスに行く前にやたら手がかかるんです」これは中ボケの症状ですから、同じ脳機能で起きてくる「お薬も一人ではのめないでしょう。そこにも手がかかりますよね」「はい…そうなんです(どうしてわかるんですか?)」というような展開です。
脳機能から認知症を見るということの実際例ですね。

今回は、同居している家族からの話ではないですから、突っ込んで聞くことができませんでしたが、4年くらい前に生活が大きく変わる「きっかけ」があっただろうと予測して、少し確認してみました。
案の定、母親を施設に入れたのが3年前。思い余っての入所だということだったので、入所の前から目が離せない状態であった可能性が高いですね。単調で展望のない介護生活は、介護している人の脳機能の老化を早めます。
多分お母さんの入所時には、前頭葉がうまく働けていない小ボケになっていたでしょう。その状態で、一人暮らしに突入。介護負担がなくなったとき、イキイキした変化ある楽しい生活への見直しをするようなタイプではないし、小ボケではもともと生活のチェンジは無理。引っ張ってくれる人が必須です。
その後、家族内でのトラブルもあったりして老化の加速がより一層はっきりしてきたのでしょう。



私のアドバイスは「中ボケというのはね。前頭葉機能が働いていないうえに生活遂行能力はちょうど幼稚園児くらいです。幼稚園児を一人きりで生活させませんよね?つまり一人暮らしはもうできないのです。
何を食べるか?消費期限が過ぎた食べ物がわかりません。日付が曖昧だし、そもそも日付けを確認できません。火が使えるでしょうか?
どうお風呂を使うか?
ちょうど幼稚園児を見守るように、 3人で8時間ずつ交代でその方のお家に詰める覚悟がいります。可能性すらないでしょう?
中ボケの真ん中を切ったら治すことは一緒に暮らす家族でも難しいのに…今の状態で家族以外が通ってきて治すことは不可能としか思えません。それ以前に一人暮らしはもう無理。
家族がいらっしゃれば家族。それができないなら、責任は行政に移ると思います。詐欺に引っ掛かるかもしれません。ちょっと大袈裟に言えば、生死に関わることだって起きるかもしれません。心配しているように、火事を起こして近隣に迷惑をかける可能性だって否定できません。
そんな時、誰が責任をとるのですか?
つまり気持ちがあっても物理的に離れている友人ではできることはしれています。どうにか息子さんにお話しして身を引く方がいいと思います」
そういうと電話をくれた友人が「じゃあ、現状をお伝えしてみます。最後に『私たちにできることがあったら遠慮なくおっしゃってください』って言って切ります」
慌てて私。「最後はいりません。できることはもうないのです。前頭葉だけ元気がない小ボケなら、いくらでも働きかけはできたんですけどね」

その話を報告すべく、翌日久しぶりに3人で集まったそうです。
「親族に任せるべき、友人たちが支えるのは無理」という私の意見を聞いて、一番気にしていた方が、「本当にほっとした。実はこのままでは友達がいがないと思って、とても気になって私どうかなりそうだった。手放してもいいのね~」と表情まで明るくなったような反応をされたそうです。
徘徊も、不潔行為もまだ全然見えていない中ボケでも、真ん中を切ると対応が途端に難しくなってくるのです。

何というタイミングでしょう。9月3日の産経新聞の記事で政府が認知症施策の基本計画案をまとめたという報道がありました。

何度か取り上げた、割りと若年で発症する側頭葉性健忘症を若年性認知症という分類にして、ここにターゲットを当てた全く的外れな施策です。
去年続けて書いてあります。この法案を受けて計画案が出たということですが、私の友人たちがどれほど共生しようと思っても共生できないのが、認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症です。
一番軽い段階の、前頭葉機能だけに問題が起きてきている小ボケまでならできますが。



4人の会の結論は「自分のこれからの道を示唆してもらった気がする。日々下降線をたどっている、この時のつっかえ棒は自分!つまりいかに上手に気持ちの切り替えをするかということだし、スイッチの切り替え上手になろうね。そして友だち同士で手助けしあおうね」ということで盛り上がったそうです。私はこれでちょっとはいい気分になりました。

by高槻絹子


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