脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「三密回避」は認知症の温床-脳機能にもフレイルが。

2020年09月12日 | 正常から認知症への移り変わり
「三つの密を避けましょう」という呼びかけが厚労省から発表されたのは、3月末でした。

「うわー大変。これって高齢者に対しては『認知症を作りましょう』という呼びかけに他ならない!」と私は思いました。
エイジングライフ研究所が、認知症に対する地域予防活動を始めてもう四半世紀です。
関西淡路大震災の直後に開催した第一回の研修会の時から一貫して
「アルツハイマー型認知症といわれる認知症の正体は、実は脳の廃用性機能低下でしかない。何らかの人生の転機や出来事をきっかけにして、前頭葉の出番がなくなることから始まって左脳や右脳や運動の脳を十分に使わない日々が続く。使わないから老化が早まる。今まではその極限状態近くまで行って『ボケた』といわれてきたので、対処だけに追われてきた。そこに至るまでの予防や改善の期間を知らなかったからに過ぎない。
従来言われてきたのは完成した認知症。その前の改善可能なレベルが数年間は存在する」と主張してきました。
散歩途中で見つけたキノコ

廃用性萎縮ということばはもともとは医学用語です。筋肉でいうと、病気や骨折などで行き過ぎた安静状態や寝たきりを続けると筋の萎縮や関節の拘縮が起きて上手に使えなくなる。このようにして使わないことで老化が進むことを廃用性萎縮というのです。
廃用症候群やフレイルという表現もよく目にします。
なんとなくフレイルといった方がカッコいいような気分になるのでしょうか、最近はフレイルといわれることが多いようです。

原語のFrailtyは虚弱と訳されることが多かったようですが、衰弱や老衰とも訳され、それでは「回復可能」というニュアンスが伝わらないということで「フレイル」ということばが選定されたという経緯があります。(2016年フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント)
厚労省の資料によるとフレイルの定義は以下の通りです。
「『フレイル』については、学術的な定義 がまだ確定していないが『加齢とともに、心身の活力(運動機能 や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が 障害され、心身の脆弱化が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援に より、生活機能の維持向上が可能な状 態像」
ちょっと珍しい黄色の花ジンジャー

もともと歳を重ねるとそれなりの機能低下は起きてくる。そこに「より使わない、または使えない状況が加味される」と機能低下が一段と進み、生き生きとした生活が送れなくなった状態。ただし回復はまだ可能なレベルというように考えたらいいと思います。
簡単に言ってしまえば、生活習慣病の二次予防に相当するレベルでしょう。
キバナコスモス

加齢とともに、筋肉の衰えから動作がもたもたしてきて転倒しやすくなる。
転倒をきっかけに寝たきりにだってなりうる。
寝たきりは回復させることが困難だが、寝たきりを引き起こす転倒を防ぐことが大切。
そのためには筋肉の衰えを進ませないようにしなくてはいけない。
普段から筋肉の衰えにあらがうような生活が必要だし、万一病気やけがで安静状態を強いられることがあっても(多少老化が進んでも=フレイル)、できるだけ早くからリハビリに努めることで衰えた筋肉の回復を図り、ひいては寝たきりを予防する。
このような説明はわかりやすいためでしょうか、ロコモとかサルコペニア(筋量低下)というような身体運動側面のフレイルが強調されてきているように思います。
ヤブミョウガ

厚労省の説明にあるように、運動機能だけではなく認知機能もフレイルは考慮しなくてはいけませんし、社会的な側面から閉じこもりの弊害を指摘する場合もあります。
「食」からのアプローチもわかりやすいですよ。(⇔は相互に影響しあってより低下するという意味です)
歯周病などで歯の喪失⇔噛めない食品が増え、食べにくさが増し、滑舌低下⇔食べる量が低下、咬合力低下⇒咀嚼できず、食べられない。栄養障害、要介護。ここに至ると回復はできるのかもしれませんが、大変な努力が必要でしょう。その前なら!
いずれにしてもフレイルは筋量だけではなく身体・精神全体であり「認知機能」という面も考慮されているのです。
一番最初に書いた私たちの主張「従来言われてきたのは完成した認知症。その前の改善可能なレベルが数年間は存在する」きれいに重なりますね。
アサガオ

そうなのです。
高齢者を三密回避の状態に置くと、年齢とともに能力低下を起こしている(これは正常です)脳機能の低下が加速されてくる(これは異常です)のです。
前頭葉が「自分が自分らしく生きている」という実感をもって、その人なりにイキイキと生きている日常から、人とも会わない、おしゃべりも楽しめない、趣味の会にも行けない、マスクもあっておしゃれにも気を使わない、当然認知症予防教室の参加も無理。
とにかく家にこもって、「コロナ大変」のテレビばかり見る…
アサガオのうなじ?

「三密回避って、なんだかボケになりそうな暮らしだけど」と思った人たちは多いと思うのですが、といってコロナは怖いし、特に高齢者は危ないといわれている以上、差し当たっては守るしかない。または若い世代からも守るように言われている。
アサガオの中心

そして半年。
昨日の新聞にわが意を得たり!という記事が掲載されていました。9月11日産経新聞。以下介護問題部分を要約。
「コロナの陰に潜む社会的課題」として「1~2年後に大きな社会・医療福祉問題に発展するリスクとして憂慮すべき課題が『フレイルから要介護への悪化』という状況」とし「2025年には団塊世代が後期高齢者となる状況を鑑みればコロナ下でのフレイル対策が急がれる」
「コロナ感染症下での高齢者の行動自粛と密接な関連を持つ課題で、人との交流が少なくなり孤立した状況が続くと認知機能が低下する。筋力は70歳時には20歳時の半分になっているのに、定期的な運動をしないと筋力低下のスピードは増す」
私たちの持っているデータでは、前頭葉機能のうちの注意集中・分配力はピークは20歳代、60代後半になると、ちょうどその半分になるのです。期せずして一致!
何度も掲載の図です。脳機能からみて認知症を説明しています。
小ボケ・中ボケが回復可能な期間でフレイルと重なります。ここでいう「大ボケ」は回復が困難なレベルになったという意味で、大体世の中で「ボケちゃった」といい始めるレベルです。つまり従来の区分でいうとまだ軽い認知症レベルということにご注意。

この半年何人かの保健師さんとお話ししました。
当初から、三密回避が認知症予防にとっては大変な状況ということは、皆さんの共通認識でした。
最近は、「一番わかるのは中ボケの人が進んでしまってること。もちろん小ボケに足を踏み入れている人も多くなったことも感じられます」ということが言われます。
そして先日「三密に注意して、認知症予防教室を再開しました」という報告もいただきました。ちょっと光が。うれしかったです。

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