脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「母はしっかり者なんです」・・・ちょっと疑ってみる

2018年10月01日 | 正常から認知症への移り変わり

パソコンがネットにつながらなくなって大騒動。修理センターに入院ということになり、様々なファイルの保存に汗をかきました。たまたまドキュメントの中に面白い文章を見つけました。これはブログ用の原稿だと思いますが、「正常から認知症へ」のカテゴリーには70を超える記事がありますのでアップします。
写真は10月1日、台風24号が通過した伊豆高原いがいが根(この地面が既に海面から7~8Mの高さ)の波の様子です。
久しぶりの友人が来ました。

「母が入院してるんです。昼食を食べるときに、椅子に座ろうとして、椅子の引き方が足りなかったので空座りになってしりもちをついてしまって・・・
その時大腿骨の上のほうが折れたんですけど、それでも我慢強い人だから『大丈夫』というものだから、夕方まではどうやら家にいたんですが、普通じゃないので病院に行くことにしました。そのときには負ぶって連れて行く有様で」

私「転んで骨を折るときって、大腿骨頸部って多いんですよね。手術はすぐにできたのですか?」
「幸いにも、二日後にやっていただきました。経過もすごく良くて。今はリハビリ病院に転院してます」

私「リハビリ嫌がらずになさってますか?『絶対歩けるようになって退院!』って思っていらっしゃるかしら」
とても頑張ってます。母はしっかりしてるものだから、病院スタッフの方からも親切にしていただいて。ホラ、話がよくわかるでしょ?したらいけないことはしないし、しなくてはいけないことはするし。自分でちゃんとリハビリ予定のメモを取ったりしてますし。
他の方は、いろいろみたいで、母は結構世話も焼いているみたいです」

ここまでの会話はどこででもありそうなものですね。
しっかり者のお母さんが、骨折をしたけれども病院でも何の問題も起さずリハビリをがんばっているというのです。

でも、ちょっと待ってください。
高齢者が骨折をするとき、もちろん不可抗力で致し方ないこともありますが、ちょっとした不注意で・・・というようなこともよく聞きます。
注意を集中したり、状況を判断したりするのは、脳のどこでしょう?
そうです。前頭葉なのです!

前頭葉が実力を発揮できない状態(小ボケ)の時、こんなことでとびっくりするような状況で骨折してしまうことがあることを覚えておいてください。

それで念のために質問しました。
(繰り返しますが、ほんとに仕方がない状況の時だってありますよ)

私「お母さんですが、ここ3年くらいの間に生活が大きく変わるようなことはありませんでしたか?」
「私が常勤職で働いているので、母がまだ家族の食事つくりは全部してくれるし、洗濯とかの家事もやってくれます。何しろしっかり者で通ってきた人ですから。あら、そういえば畑は、最近は父がやるようになりましたけど。もともと母がやってたんですけどね」

尋ね始めた以上、「ナイナイ尽くしの生活をすることで引き起こされる脳の廃用性機能低下は起きてない。脳の老化は絶対加速されていない。生き生きとした生活実態が継続されていた」という確信が得られるまで確認を続けます。
このことは逆に、「加速されていた」という仮定を立てて、それをはっきりと否定できるまで質問するということなのです。このようなアプローチがアルツハイマー型認知症の早期発見には必須です。

私「畑はなぜお父さんに?」
「若いころから、腰痛があって整体とか整形とか通っていたんですけど、2~3年くらい前からひどくなって、それで父が母に言われてやり始めたんですが、父も凝り性なので最近では勝手にいろいろ工夫して楽しんでるみたいです。それで母もすっかり畑は卒業したということですね。
腰痛がひどくなったので、流しの前で移動できる椅子を用意してあげました。それで炊事もしてくれたんですよ」

私「ということは、最近はあまり炊事はされない?」
「そう言われると最近は、品数も減ったし、たしかに前とはちょっと違ってきてる・・・」

1.2~3年前から腰痛が悪化!これは老化を加速させる「きっかけ」になりうる!
→その後の生活がそれまでの生活実態と違ってないか詳しく聞く必要があります。
2.「可動式の椅子」からは家族関係の良さが伺える!
→この家族からなら正確な情報が得られるし、生活指導の実が上がるはずです。

私「腰痛がひどくなってから、畑をやめたほかにやめたことはありませんか?」
「毎日買い物には自分で行ってたのがちょっと無理になったですね。
そうそう生協をやっていて、週一度近所のおばさんたちが玄関に集まっておしゃべりが盛んだったんですけど、だんだんやめる人が出てきたことと、それまでは届けてあげたりしてたのも無理になったので、生協をやめてしまったこともありましたね。
それから、孫をとてもかわいがってたんですけど、孫も中学生になって帰宅時間が遅くなり触れ合う時間も減ったかな」

「買い物をやめたこと」と「生協をやめたこと」と「孫との触れ合いが減ったこと」
この三つのことが、お母さんの生活にどのくらい影響を与えたか?生活を変えていったかどうか?を聞き取ることがカギになります。
(ご本人ではないのですが、この家族なら正しく理解できていると思います)

「自分で家族の生活を全部みているというのが誇りだったんですよね。面倒がらずに買い物だって新しいものを毎日買いに行ってくれてたんです。
畑もそう。家族からおいしいといわれることがとてもうれしそうだったけど、今は父だから・・・
生協をやめたのも、リーダーっぽい母だったから結構痛手だったかも・・・
孫との触れ合い時間が減ったことは、たしかに寂しそうですね」

3.「腰痛の悪化は『きっかけ』になった可能性が大きいことが判明」
4.「骨折の前に、すでに小ボケだったことを症状を通じて確認する」

アツハイマー型認知症の正体を解説しました。
私「腰痛がひどくなって、お母さんが生きがいと感じていた生活ができなくなっていった。近所の仲間やお孫さんとの触れ合いも減っていった。その生活が2~3年続いていけば、前頭葉の出番が少なくなって元気を失うことになるんです。二段階方式で言うと小ボケ。
献立が単調になったでしょ?出来合いのお総菜を買ってくるようになったでしょ?手際が悪くなったでしょ?」
全部納得してくれましたから「♪今日もコロッケ、明日もコロッケ・・・」を見せました。
「これも、これも」と最後は笑い出す始末。

細かく話を聞いていくうち、正しい理解に到達できました。

お母さんは、腰痛の悪化によりそれまでの生活ができなくなったことで、次第に意欲をなくし小ボケ(脳機能の老化が加速されて前頭葉機能のみ不合格状態)になっていき、そのために転倒骨折した可能性が高いのですが、入院生活が逆にお母さんにはよい環境になったのです!
・いつも気にしてくれ、声もかけてくれるスタッフがいる。
・目を配ってあげることが必要な人たちがいる。
・「歩いて退院」というはっきりとした目標がある。

このような環境で、お母さんの前頭葉は出番が増えてきたのです。入院前よりもたしかに元気になっていることを確認し、退院後の生活で分担してもらう家事を確認して今日のおしゃべりは無事に終了しました。

注)二段階方式では、まず最初に脳機能検査をします。その結果と現在の生活実態、そして直近の生活歴を聞いていきます。今日の記事は脳機能検査はしていませんが、生活歴を丁寧に細かく聞いていく大切さをお伝えしたかったのです。


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