脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「上手」と「下手」を超えたもの

2018年01月17日 | 左脳の働き・失語症


何の能力でもいいのですが、上手な人と下手な人がいますよね。
運動能力がわかりやすかと思います。普通に走っても早い子と遅い子がいる。もちろんうまく指導してやると、それぞれに結果がよくなることは確かですが、どう見ても早めの子と遅めの子がいる事実は残るでしょう。どの子でもすばらしい指導者や環境を整えたら、例えばオリンピック出場ができるかというと…それはあくまでも遺伝的素因が関与しているだろうとみんな思っています。
音楽の世界でもしかり。創造的な世界でもしかり。

上の図は、右によるほどその分野の能力にたけているということを表しています。
左によるほど、下手or苦手(というか、できない)ということです。
そして、だいたいの人たちはちょっと上手なレベルから、ちょっと下手なレベルまでの幅の中にいます。そこを外れて「それにしてもすばらしい!」とか「並じゃないよね」といわれる人達がちょっといて、そのさらに上をいく、天才といわれるほんの一握りの人たちがいる。
西伊豆新名所 馬ロック(1月10日)

今は、右の方向で話しましたが、当然左の方向でも同じです。こちらはほんの一握りの人たちのことを「天才」とは言いませんけどね。
(実はこの図は、小ボケ(前頭葉機能がうまく働かなくなった状態)になった時に、性格が先鋭化したり問題行動が目立つ人たちの解説のために使っているものです)
伊豆市東府や(1月10日)

さて、エイジングライフ研究所の二段階方式では脳機能を決められた手技で測定して数値化します。テストの方法も採点基準もキチンと決められているのです。
テスト時間は20分以内を目標にするという短さですから、ほんの少しだけ採点基準が甘いところも設けています。
例えば「文を書く」という課題があります。失語症の本格的なテストだと厳密に採点するところを、偏や旁の誤りは-1/2点。一字以内の誤りはノーカウント。送り仮名や濁点などの誤りもノーカウント。かな・漢字交じりでも問題はないなどとしてあります。
ほとんどペンを持つことがない高齢者が検査対象にいらっしゃることも考慮してあります。つまり最初にあげた図の左に寄っている人たちもいることを前提にしてあるのです。

「べんきょうしてます」→「ベンきョます」2字の間違いです。
どんなに贔屓目に見る判定基準であっても、これは不合格ですよ。「下手」なのではなく「書けない」ことをわかってあげるべきです。
「平成」→「干セう」になってますね。
この人は「書くのが下手」なのではなく「書けない」のです。そこを見つけてあげるために検査をしているのです。

テストをする側に、「この人はできない」ということをなるべく認めたくないという気持ちがあります。「できてほしい」とか「できて当たり前」と思うものだから「なんだかちょっと変だけど、まあ、とにかく一応書いてあるし。字を書かない生活かもしれないし」とできない事実から目をそらしてしまうのでしょうね。
「下手」ということを通り超えている、はずれのはずれということに気づいてください。

半年後。
4月のテストの時に「」をきちんと書けていることにも注意してください。今回は最初と次の2画は縦つながりではなく横つながりです。すると「」と書くつもりより「」と書きたかったのかもしれませんね。3画目は下からですから「」の可能性が高くなりますけども。
どっちかはわかりません。書かれた直後に読み上げてもらってもよかったかもしれません。
「町のテスト[ツorシ]トる」これが「町のテストスシトる」ならば「ス」を「ヲ」の一字の間違いととらえると(失語症検査ではこれははっきりまちがいにカウントしますが)この文は書けていることになります。
「町のテススツトる」これだと2字の間違いがあって文にもなっていませんから、文は書けないことになります。
それ以上に、日付を見ると「書く」ことそのものにとても困難があることがわかります。書きたかった日付は「平成29年12月1日」だったのです。とにかく書けないことに困り果てている状態がこの結果からわからないといけません。
点数化する時には、客観的に正確に評価しなくてはいけませんが、「目の前に示される情報のすべてはその人の脳が働いた結果である」ということを、謙虚に時には感動しながら受け取りましょう。

ケアマネさんからの情報として
「うまく書けないので、書く内容はご本人が考えて、実際に書くのは奥さん。という状態がずーと前から続いていた」そうです。
確かに書くことそのものが苦手な人はいます。でも書かなくてはいけない状態になったら、下手でも苦手でも書くのが社会人としての生き方です。
この方は社会人として、人並みに生活してこられなかったのでしょうか?そんなはずはありません。
書くことがとても苦手で書けないのだとしたら、それだけで普通の社会生活は無理だということになるのですよ。
病気かケガか。この方の人生のどこかで、「書く」という脳機能にダメージが起きたに違いないのです。とこの検査結果は訴えています。

12/7に「0点と1点の間」というブログをあげました。
二段階方式を使いこなすには、やはり経験も積んで、その人を理解できるツールだと自信を持たなくてはね。
がんばってください!

 

 

 


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