時間があるようでいて、なぜだか時間に追われている今、
白磁釉薬作りを終え、窯変金結晶釉薬作りを始めた。
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今回は、薪を焚いて作品を焼き上げる方法の一つを紹介いたします。
薪を焚き、火力が上がると同時に薪の灰が作品に付き、
その自然な炎の働きによって焼きあがる焼き物、備前などがその一例である。
当然ながら、窯のどのへんに作品を置くと灰が付くかと考えて窯詰めを行う。
それまでは普通の燃えた灰だが、高温で焼き上げると同時に灰が溶け、
様々な文様に流れたり、灰の色が変化したり。
その景色をビロードと呼んでいる。
時には稲わらを塩水に浸して焼く前の作品に巻きつけ、
灰が掛からないように窯に入れて焼く焼き方を「 火だすき 」と言う。
30年ほど前、珠洲焼きをしている知人の頼みで何回か珠洲に出かけた。
知人の窯は穴窯といって、カマボコのようなトンネル式の窯であった。
ゆるい斜面に縦にカマボコがある、を想像していただければ窯の形が分かると思う。
下にある焚き口に薪をくべ、温度が上がると同時に順々に上も温度が上がるように、
カマボコの途中にある焚き口に薪をくべ、全体に目的の温度が上がるまで焚く、
その作業を数人がかりで数日間、昼夜火が絶えないよう交代して薪をくべ、窯焚きは終了。
知人が窯の中に作品をどのように入れたかは見ていないので分からないが、
くべた薪の灰が作品全体に降りかかるように作品を詰めたと思っていた。
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準備 |
20歳代、車で各地を取材していた時の昼下がり、
たまたま偶然にも、薪窯で作品を発表している超有名な作家の窯場に行き着いた。
その窯が有名な作家の窯場とは知らずに、その窯を近くから眺めていた。
声を掛けたが、昼時で誰もいなく、おまけに窯場は人家から遠く離れた場所。
何気なく見ていて、見てはいけない物も見てしまった。
それは、溶かした灰が一杯入っている大きなポリバケツと、
溶かした灰を作品に吹き付けるガンとコンプレッサー。
加えて窯詰めの途中だったか、
いかにも灰が溶けて流れているような細工をしてあったり、
灰が溶けてビロードが出るように分厚く灰を掛けてあったり。
また、一部分だけ灰が掛かったように細工してあったり。
見てはいけない物を見てしまったと、急いでその場から立ち去ったが、
あとから考えてみると、それも作品を100%焼き上げるための策かな?と思ってもみたり。
作品発表する時は、「 燃えた薪の灰が自然に作品に付いた、」と説明するのだな、と。
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原料準備 |
薪を焚いて素晴らしい焼き上がりになるのは数えるほど。
焚き口の近くならば、薪を次々とくべるから灰も作品に付くが、
窯の他の場所では灰がまんべんなく作品に付くことは到底考えられない。
それは知人の薪窯焚きを手伝っていて、実践で分かったこと。
窯に作品を入れる前に、故意的に灰を作品に吹き付けて窯に入れなければ、
あれほど沢山の自然釉の作品が焼きあがるはずは無い。
それも作品つくりの一つといえばそれまでだが、・・・。
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少しずつ混ぜる |
釉薬作りは単なる作業の一つではあるが、
ここにたどり着くまでは大変な時間と労力が掛かっている。
まず目的とする焼き上がりになるよう、調合を変えて何度も試験を繰り返し、
その焼き上がりを確かめる。
希望する焼き上がりになるまでは、本当に気が遠くなるような時間が掛かった。
調合を行うのはいつも夕食後。 計算した原料を1~10の乳鉢に入れ、
細かくなるまでゴリゴリと磨り潰す作業を繰り返した。
・・・・・薬局で薬を混ぜ合わせている白い鉢が乳鉢・・・・・
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基礎原料を加えて |
窯元ではないので、続けて何回も窯を焚くことも出来ず、
作品を焚く時までに出来る限り様々な調合した試験をためて置き、、
作品焼成を行った時に焼き上がりを確かめ、希望と異なっていれば再度調合する、
それの繰り返しを何回も繰り返し行ってきた。
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着色剤を加えて |
一度決めたら途中で諦めるのを好まない私。
その偏屈な性格のお陰か、それぞれ何百種類の釉薬が出来上がった。
青磁はもとより、白磁、窯変鉄耀(天目、結晶釉薬)、窯変紅彩(辰砂)、窯変金結晶、等々。
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窯変金結晶 |
いま製造している釉薬は、「 窯変金結晶釉薬 」。
とても繊細な発色をする作品だが、嫌味の無い品のある釉薬と自負している。
作品全体に金粉を散りばめたような美しい発色をする釉薬である。
ただ、この釉薬も気まぐれで、試験で合格したような焼き上がりにならないこと。
いつも同じように釉薬を掛けているが、一つとして同じものが焼きあがらない。
だからこそ、「 窯変=ようへん 」と名づけている。
窯に入れるまでは私の仕事、どのように焼きあがるかは窯にお任せ。
若いとき、偶然見てしまった薪窯の現場、
故意的に、希望通り作品すべてが焼きあがるように手を加える方法もあれば、
窯の火がどのように作品を焼き上げてくれるか、ハラハラ、ドキドキで焼いている私、
いずれにしても後世に残せるような良い作品が焼きあがればと願い、
今日も釉薬を作っている。