何を優先すべきは当然理解しているつもりだ。
時間配分を考え、頭に浮かび上がってきたデザインを一気に画き溜め、
デザイン画をロクロの前に張り、ひとつふたつと確実に作品を創り上げている。
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壷用耳作り |
先日から作っていた壷、「 祈り 」の気持ちを表す作品の形、
一つのことにこだわらず、全てにおいて心穏やかに、静かに、そして平穏にと、
私の心の中を表現し、形に仕上げた。
この時季、急激に冷え込んだりして壷の水分が凍ってしまうことがある。
作品に損傷が出ないよう、夜分の冷え込み対策用にビニールなどでおおい、
時間を掛けて少しずつ水分を飛ばしてきた。
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面取り |
触っても大丈夫なくらいになった頃合に、削りを始めた。
当然ながら、削っているときにも万事上手くいくようにと祈りをこめ、
丁寧に、慎重に削り上げた。
本体は何とか祈りが通じたのか、無事に仕上がった。
次は品格を持たせるための耳作りを行わなくてはならない。
加えてデザインを決めたときと同じ形に仕上げなくてはならない。
デザインを決めた時点が、私の祈りの頂点である。
作っている最中に形を変更することは殆ど無い。
祈りが届くよう、耳作りも慎重に行った。
あと2作品にも耳をつけなくてはならない。
デザイン画通りに、寸法をきっちりと測って耳つくりを行わなくては。
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まん丸トラちゃん |
日中、工房の中で仕事をしていると、
トラちゃんが工房入り口でしきりに鳴いている。
「 私も中に入れて、ニャ~ン 」と鳴き続けている。
工房の、私が座っているロクロの横にはトラちゃんの寝床も設置してある。
甘えて入ってきてくれるのは可愛いが、いつでもトラちゃんが出られるよう入り口の
隙間を開ける必要がある。 もう20歳を越えているはずなのに、
中々家ネコになってくれない。
工房の中に入ってくると、自分の寝床に入って毛づくろいを始めたり、
私の仕事をジッと見つめていたり。
視線を感じ、「 トラちゃん 」と声をかければ、「 ニャ~ン 」と必ず返事をくれる。
しばらくトラちゃんの様子を見、再び仕事取り掛かった。
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工房で |
ずいぶんと時間がたった頃、
ぐっすりと眠っていたトラちゃんが起き出してきて、早く家に入ろうよ、と催促。
時計を見やれば午後5時を回っている。
「 そうか、そうか、お腹がすいたのか、ちょっと待って 」と片付けを始めた。
その間、私の足元にまとわり付いて甘えてくる。
こんなに甘えてくるのに、家の中には入ってこない。
ネコの習性って、気持ちってなんだろうか?
家に入り、勝手口を開けるとトラちゃんが待っている。
でも、この頃のトラちゃんの目の様子が変。瞳孔が大きく開いている。
時々、S氏が仕事の手伝いで我が家に来ると子供をあやすように、
トラちゃんにご飯を与えてくれていたが、ここ一月以上、それが無い。
トラはS氏を探すような目つきで台所の中を覗き込み、
なんともいえない切ない声でS氏を呼んでいる。
「 大丈夫だよ、さあ、ご飯を食べて、」とトラちゃんをなだめ、背中をなでている私。
「 大丈夫だから、大丈夫だから、」と自身にも言い聞かせ。