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庭の雪景色 |
こまごまとした雑用に追われ、じっくりとロクロに向かうことも出来ずにいた今月、
この頃になってなぜか次々とデザインが浮かんできて、忘れないうちに一気に紙などに書き写し、
そして時間が出来たらすぐにロクロに向かって作品の制作。
修業をしていた頃は朝から晩までひたすら同じものを作っていた。
九谷作家からの依頼の小物や大物、そして卸問屋からの大量の九谷焼きの素地。
それでも何割かは作品として、又商品として取り上げられずに土に戻されていた。
現在のように除雪も行き届いていなくて、雪に埋もれながらも窯元に通っていた。
でもそれを苦痛とは感じなかった、若さと夢あふれる年頃だった。
ロクロをまわすためには水が必要、冬の時季には水道管までもが凍って水が出ない。
出たとしても氷のように冷たい水で、手もかじかんで思うように品物を作れず。
しかしこれも辛いと思わなかった。
ただ一つ、どうしても困ったのが手のしもやけ。 泥が付いた手の甲がパリパリになり、
乾燥した泥に引っ張られて皮膚までもが裂けてしまうことだった。
注文はしもやけに関係なくドンドンと入ってくるし、見本を納めなくてはならない時季でもあった。
モタモタしていると九谷作家達がきて早く作れとせかすし、問屋は見本提出期限に間に合わない、と
文句を言ってくる。
先日の夜のこと、ロクロ師・K氏 から電話が入ってきた。
「どうまえちゃ~ん」 が彼の第一声。 そしてかなり酔っている。
「どうしたん?」 と聞けばそれから1時間ほど彼の話しに付き合うことになる。
彼は一流のロクロ師である。 彼ほどさまざまな種類の素地を作れる人はいない。
久しく電話が無かったので、どうしたのかと気にはしていたものの、
やはりこの時季になると九谷作家や卸問屋などから見本の注文が多く入ってきて、
彼のペースを乱してしまうのだ。
仕事だから仕方ないものの、と言えばそれまでだが、形あっての九谷、
その形を作れる職人さんが殆どいなくなっている九谷業界、これから先、一体どう進むのだろう。
「アホらしくてやめたくなった」 とK氏。
彼に相槌を打ちながら、近々彼の職場に行かなくてはと思っている。
うっすらと積もった雪を眺めていたら修業時代のことを思い出し、
受話器から聴こえてくる酒に酔ったK氏の話しで何となく複雑な気分に。
しかし今の私は作品作りに没頭しなくてはならない。
タップリと時間があったのに、気持ちばかりが焦ってアイデアも浮かんでこなかったが、
今は時間と競争しつつ次々と湧いてくるデザインを、ロクロを回して形にしている。
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