青磁釉薬、白磁釉薬、窯変金結晶釉薬を掛け終えた。
いつまで経っても緊張する、この釉薬がけ、何とかならないものかと思うが、
窯に火を入れるまでは私の仕事。
どうかうまく焼き上がって欲しいと願いつつ、
それぞれの作品に、慎重に慎重を重ねて釉薬がけを行った。
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蝶 |
夕方5時前に作業を済ませ、
ホッとした気持ちでいつもの歩きの運動に出かけた。
心もち気温が高く感じた昨日、風の流れも緩やかで、
何となくのんびりとした秋の風情が漂っていた。
名も知らぬ白い小花に蝶がヒラヒラと。
夕暮れ間じかなのに、しきりに蜜を吸っている。
近寄っても飛び立とうとしない蝶、ならばと、思い切り近寄ってみた。
これほど小さい花に、蝶が満足できるほどの蜜があるのかと不思議。
2cmにも満たない蝶のこと、これでも十分な蜜を得ることが出来るかも知れない。
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露草 |
しばらく歩いていると、「 ムラサキツユクサ 」。
夏の頃は姿を見ることがなかったが、この時季になって急に花が咲き始めた。
何気なくやり過ごしてしまえば、ただの雑草。
けれど近くに寄って観察すればするほど魅力的な美しい花である。
子供の頃から「 ツユクサ 」と覚えていたので、梅雨に咲く、つゆ草とばかり思っていた。
確かに梅雨の時季にも咲いているのを見た覚えがあるし、
そんなもんだろうと勝手に思い込み、梅雨くさ → つゆ草 → 露草、と理解したのは
随分と経った頃だった。
同じく童謡の一つ、「 ♪ ウサギおいし、かの山 小鮒釣りし かの川 ♪ 」。
この曲も子供の頃は耳で覚えていたので、「 ウサギおいし 」を、
ウサギが美味しいと、ずっと思っていて、ウサギを食べたことのない私にとって、
ウサギが可哀相と心を痛めていた。
耳から覚える言葉、目から覚える言葉、このような勘違いはいくらでもある。
でも子供の頃の音楽の先生、言葉の説明をしてくれたかは未だに定かでない。
若い頃ヨーロッパの国々を見て周り、そこに住む人々の生活を知る手っ取り早い手段が市場、
あらゆるものが売られていて、その中には皮をはがされたウサギもぶら下がっていて、
「 ウワッ! 何だこれは!」と、ギョッとした事を今もはっきりと覚えている。
文化、習慣の違いだから仕方のないことだが、初めて見たときは本当に驚いた。
それ以後も幾度と取材に出かけ、その都度市場を見て回っているが、
慣れと言うものは恐ろしいというか不思議と言うか、それ程も驚きはしなくなった。
今でこそ日本食は健康にいい、と各国の人たちに認められて食べられているが、
二十歳代、ヨーロッパから帰った時、窯元を訪れた欧州の人たちを招待したいからと、
通訳を頼まれ寿司屋に出かけた。 「 これは何ですか?」の質問に、
「 生の魚を握った寿司 」と説明したら、一切食べようとしなかった。
一週間滞在されていたあの方々、ご馳走である「 刺身 」をどう思ったか。
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白サギ |
そんなことを思い出しながら堤防を歩いていると、白サギが小魚を狙っている。
夕暮れになると活発に動き出す魚達、サギもそれを知っていて川面を睨んでいる。
そして、ふっと疑問がまた一つ。 鳥に味覚はあるのか無いのか、と。
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しずく |
昨日までに釉薬がけが終わった作品達、
今日はそれ等の作品の窯詰め作業。
昨日まで良い天気だったが、昨晩から雨が降り続いている。
素焼き同様、作品すべてに火が均一に当たるように慎重に窯詰めを行った。
窯詰め作業が終わったのが夕刻。 工房前の物干し竿には雨のしずく。
何気ない景色だが、一つの「 画 」と観察してみると、
それなりに美しい「 一服の絵 」。