水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-91- 地力(じりき)

2018年01月26日 00時00分00秒 | #小説

 地力(じりき)とは土地が農作物を育てる生産力という意味だが、相撲界では力士が持っている本来の力・・となるらしい。
 新月(しんげつ)は、夕方前、畑の除草作業をしていた。すると、ポッコリと掘られて土が盛り上がった部分が目についた。
『また、モグラか…』
 新月は除草しながら、ボソッと独(ひと)りごちた。二年ほど前から、畑のところどころが盛り上がり、モグラの活躍した痕跡(こんせき)が見られていた。除草を終えて家の中へ入った新月はテレビのリモコンを押した。画面は始まった大相撲の中継をやっていた。
『ええ、黄金華(こがねはな)は、かなり地力ができてきましたねぇ~』
『どうでしょう? 来場所の大関は?』
『私からは何ともいえませんが、優勝には絡(から)んで欲しいですよね』
『ああ、なるほど…』
 担当アナウンサーは、解説者にあっさり納得して頷(うなず)いた。画面を何げなく見ていた新月も、なるほど、地力か…と頷いた。新月の頭の中では畑にいた黄金虫が浮かんでいた。そして、ニタリ! と思わず笑った。
『関取は、すごい地力だからなぁ~!』
 新月が思った関取とはモグラである。新月の頭の中ではモグラ華という関取が地力がついて活躍していた。新月としては逆転した発想で、余り活躍はして欲しくなかった。

                                 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする