水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-88- 安(やす)らぎ

2018年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 強い国と住みよい国は違う。わが国は第二次世界大戦で多くの尊い犠牲(ぎせい)を出し、敗北した結果、修羅から解き放たれ、有史以来の、安(やす)らぎを得た。敗北したことは、逆転して勝利したことに他ならない。
 ご近所同士の二人が話し合っている。
「ははは…よかった、よかった! あんた、あの弁当、買わなくてよかったよっ!」
「ええっ! そりゃないよぉ~。お宅(たく)は買えて美味(おい)しく食べたんでしょうけどっ!」
「いや、それがさぁ~。並んだまではいいけど、今、一歩のところで売り切れて終わりっ!」
「そうでしたか。用事で買えず、よかったんだ。ははは…」
「ははは…じゃないよ。まあ、それでも、いい方(ほう)なんだけどね」 
「いい方って?」
「実は、3日後に知ったんだけどさ。買った人、軒(のき)並み食中毒!!」
「ええ~~っ!!」
「買えなかったから、ひと安心! っていうのも妙なんだけどね…」
「すると、私が一番、ラッキーってことになりますよね」
「そうそう。あんたが、やすらぎでは一番っ!」
「やすらぎ・・ですか」
「ええ、そうですよ。やすらぎ! 寒い中、並ばずで、食べなかったから食中毒にもならずっ!」
「はあ、まあ…。食べたかったんですけどねぇ~」
「ある意味、あんたはノロウィロスに勝ったんだから大したもんだっ!」
「ははは…そうですかねぇ~」
 用事で買えなかった男はそう言われ、したり顔をした。
 やすらぎとは、かくも単純明快(たんじゅんめいかい)な気分なのだ。

                                 


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