水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-89- 雑食性

2018年01月24日 00時00分00秒 | #小説

 人ほど雑食性の動物はいない。えっ! こんなものまでっ!?  というものまで食べてしまう。ある意味、人は他の動物以上に下世話(げせわ)な生き物なのかも知れない。他の動物は必要な食物(しょくもつ)は本能に従い残虐(ざんぎゃく)なまでに獲(と)って食べるが、その種類は限られている。そこへいくと人は雑食性で、珍味だっ! とかなんとか屁理屈(へりくつ)を捏(こ)ねて何でも食らうのである。
 とある飲み屋のカウンターで会社帰りのA、B二人の客が話しながら飲み食いをしている。AはBの上司だ。
「えっ! アレ、食べますかっ?」
「食べるよっ、もちろん! 美味(うま)いよっ、どうだい、一度?」
「有難うございます。機会がございましたら是非、一度…」
 Bは早や逃げをした。これが、いけなかった。
「そうかい! じゃあ、これからどうかね? ちょうど、いいのが入ったって聞くし、ここから近いからさぁ~」
「はあ…」
 Bはあっさりと土俵を割っていた。なにを隠そう、アレとはカラスのステーキで、雑食性のAが誘ったのはカラス料理専門店だった。すでにAはカウンターを立っていた。
「あっ! これから約束がありましたっ! 次の機会ということで…」
「そうかい? それじゃ…」
 Bは雑食性のAから、かろうじて食われずに(のが)逃れられた。
 ほうほうの態(てい)で家へ逃げ帰ったBは、ホッ! と一息(ひといき)つき、冷蔵庫へ向かった。
「疲れたときは、コレがいいんだよな、コレがっ!」
 Bが冷蔵庫から取り出したもの、それはスズメ蜂(ばち)の蜂蜜煮だった。
 雑食性とは、ものすごく野蛮(やばん)なのである。

                                 


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