水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-83- 安定力

2018年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 人には不安定な人と安定した人の二種類が存在する。その安定感の違いは、生まれ持った個人の安定力によって決定される。不安定な人は結果を逆転されやすく、安定力がある人ほど社会に信用されることになる。
 とある社内の事務室である。隣席同士の二人の社員が残業をやっている。
「ははは…塩釜(しおがま)さんは相変わらずマイぺースですねっ! じゃあ、お先に…」
 そう言いながら隣りのデスクに座っていた真鯛(まだい)は、処理を終えたファイルを閉じながら椅子から立ち上がった。真鯛は仕事が速く、課内での処理量も群(ぐん)を抜いていた。そこへいくと塩釜は仕事が遅(おそ)く、仕事の処理量も今一で、鳴かず飛ばずの無能社員・・といったところだった。ところが、実態は、そうではなかった。というのも、真鯛は仕事が速く処理量も多かったが、その半面、凡ミスが多く、結果として上司の評価はマイナス査定だった。逆に塩釜は仕事が遅い半面、間違いがほとんどなく、安定力に恵まれていた。当然、上司の評価はかなりのプラス査定だった。
「お疲れさんでした…」
 塩釜は課を出ていく真鯛の後ろ姿に声をかけた。
 次の日の朝、二人のファイルが課長席にあった。
「これじゃなっ! やり直してくれたまえ、真鯛君」
 真鯛は課長の蟹崎(かにざき)に叱責(しっせき)され、渋面(しぶづら)でファイルを突き返された。それから数分後の逆転場面である。
「ごくろうさんでした。ははは…やはり、安定力が違いますな。よく出来てましたよ、塩釜さん。これで部長への顔も立ちます」
 蟹崎は笑顔で塩釜を褒(ほ)め称(たた)え、握手を求めた。
 安定力は仕事の処理量、速さとは別のものだということだ。 

                                


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