水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-93- 嘆(なげ)き

2018年01月28日 00時00分00秒 | #小説

 物事をやって失敗すれば、当然、人は嘆(なげ)きを漏(も)らすことになる。ああっ! と大声を出す人もあれば、しまった! と無言で顔を歪(ゆが)める人もあり、その態度には個人差がある。ただ一つ言えることは、嘆きを漏らす前に逆転して失敗しないよう注意できないのか? ということだ。注意して慎重(しんちょう)にコトを進めたり、努力してやったりすれば、必然的に失敗もなくなるから、その結果、嘆きを漏らさなくてもよくなる・・という三段論法が成立する訳である。
 ここは、とある神宮の境内(けいだい)である。どうしても飛べない…と放(はな)し飼(が)いにされた一匹のニワトリが、今日も餌(えさ)を突(つつ)きながら悲嘆(ひたん)に咽(むせ)んでいた。そこへ偶然、木の枝へ舞い下りたのがノバトである。
『ニワトリさん、何をそんなにコツコツ、悩(なや)んでいるんだい?』
『これはこれは、ノバトさん。どうしても飛べなくてねぇ~』
『ははは…そんな、つまらない嘆きでしたか。簡単なことです。では、私が飛法(ひほう)を伝授(でんじゅ)いたしましょう』
『そんなのが、ありますか?』
『ええ、ありますとも。簡単なことです。野生になりなさい』
『野生ですか? これでも、十分に野生だとおもっているんですが…』
『甘いっ!!』
『甘いですか?』
『ええ、甘いっ! 心がけが甘いっ! 努力が足りないっ!』
『甘くて足りないですかっ?』
『ええ、甘くて足りないっ! …一つ、いいヒントを教えて差し上げましょう。ほら、そこにある木の梢(こずえ)から飛び降りる練習をしなさい』
『飛び降りる練習を、ですか?』
『ええ、そうです。飛び降りる練習を、です。その枝よりもう少し高い梢からという風に…』
『それで、飛べるようになると?』
『はい、必ず…。あなたは下から上へ飛ぼうとしている。だから、飛べないのです。逆転して上から下へ下りようとすれば飛べるんですよ。下りることが飛ぶということです。自然と羽ばたきますからね。飛距離も少しずつ伸びます』
『なるほどっ!!』
 それ以降、そのとある神宮のニワトリは修業を重ねた結果、飛べるようになったそうだ。もちろん、人の場合は無謀(むぼう)で、激突死するのが関の山だろうが、努力すれば人として飛躍(ひやく)できることは疑(うたが)う余地がない。

                                 


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