水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-78- 考える葦(あし)

2018年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 パスカルは、━ 人間は考える葦(あし)である ━ だとかなんとか、小難(こむずか)しいことを言ったそうだ。本人から直接、聞いた訳でもないから詳しい意図は分からないが、別に葦ではなく、水草でもいいようには思える。物事を理解して、新しい発想で事物を作り、発展させることの出来る最たるものは、確かに人間である。ただ、逆転して、この能力は毒にも薬にもなり、危険この上ない代物(しろもの)だ。例(たと)えば多くの生物を絶滅させたり、地球破壊兵器を作ったり・・と、枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がない。
 閉店が近づいた、とある店である。
「今日はもういいですよ、霧川(きりかわ)さん」
「そうですか? じゃあ、お先に、あがらせてもらいます…」
 熟練店員の霧川は店長の霜林(しもばやし)にそう言うと店奥へスゥ~っと消えた。いつもよりは数十分、早かったから、この時間をどうしたものか…と霜林は考えなくてもいいのに考える葦のように考えた。すると、やっておきたい買物があったことを、ふと思い出した。霜林は着替えて店を出ると、ソソクサと目的の店へと向かった。
「いやぁ~、昨日まではあったんですがねぇ~。売れちまったんですよ。どうします?」
「どうします? って、無いものは買えないでしょうが…」
 霜林は少し怒り口調で返した。
「いやっ、そうじゃなくって! お取り寄せしますか?」
「出来るのっ?」
「ええ、まあ…。出来るような出来ないような…」
「煮え切らない! どちらなんですっ!」
「ええ、ですから、あればっ! の話です。たぶん、ないとは存じますが…」
「もう、いいですっ!」
 霜林は店をあとにしていた。早くあがった数十分は、疾(と)うに過ぎ、霜林は考える水草のようにプカプカ街頭を歩いていた。
 考える葦も逆転して考えれば、大した存在ではない訳だ。

                                


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