水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-67- 纏(まと)まる

2018年01月02日 00時00分00秒 | #小説

 見解の違う両者が歩み寄り、話が纏(まと)まるのは並(なみ)大抵(たいてい)のことではない。主張し合う両者は言いたい放題(ほうだい)だからそれでいいが、纏まるよう纏める者は、両者の言い分をそれなりに得心(とくしん)させなければならないから難しい。逆転して考えれば、両者以上に大変な作業なのかも知れない。 
 [1]と[3]は見解の相違で、もめていた。両者の代表が数十年に渡り和解を試(こころ)みたが、思うようには進展しなかった。
「いや、そのお考えは、絶対にいかんですよっ! 遺憾(いかん)に思いますっ!」
「なにをおっしゃる。私の考えこそが私どもとあなた方の関係を改善する一歩になるはずですよっ! あなたの、そういう考えこそ憤慨(ふんがい)ものでいかんですっ! 遺憾に存じますっ!」
 [1]に反発し、[3]も言い返した。このままで両者の言い分が纏まるのは困難かと思われたその時である。
「まあまあ、お二方(ふたかた)。ここは私の顔を立て、お二方の言い分どおり、双方(そうほう)の言い分を認める・・という融和(ゆうわ)案を了承(りょうしょう)願えないですかなっ!」
 [1]と[3]に割って入ったのは、両者の仲裁(ちゅうさい)役を買って出ていた[2]である。
「… [2]さんがそう言われるのなら、あなたの顔を立てましょう!」
「ええ、私も依存(いぞん)はありません。[2]さんの顔を立て、了承しましょう!」
 拗(こじ)れていた数十年にも渡る[1]、[3]の見解の相違は逆転し、あっけなく決着したのである。[2]の顔は立ち、どういう訳か目出度(めでた)く笑顔でVサインの記念撮影となった。
 まあ、話が纏まるときは、逆転して嘘(うそ)のようにあっけなく纏まるようだ。

                               


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