真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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信濃川水力発電所虐殺事件と関東大震災 朝鮮人虐殺事件

2011年12月04日 | 国際・政治
 「信濃川水力発電所虐殺事件」は、関東大震災前年の出来事である。「不逞者」宮崎学(角川春樹事務所)によると、この事件後、在日本朝鮮人労働者状況調査会が結成され、「在日同胞」が置かれている状態についての調査活動が始まったという。そして、その調査活動は、東京朝鮮労働同盟会や大阪朝鮮労働同盟会の結成へと発展していった。そうした朝鮮人労働者の労働環境改革のための組織的活動は、当然のことながら日本の労働運動や社会主義者の活動と関わりを深めていく。

 その展開が、米騒動や三・一運動、五・四運動等のような民衆蜂起つながることを、日本政府や官憲が恐れていたことは、いろいろな局面で認められる。例えば、「信濃川水力発電所虐殺事件」の調査は、朝鮮の諸団体から派遣された調査員や在京朝鮮人の代表調査員に東亜日報の特派員なども加わって実施されたが、警察や暴力団がいろいろな手を使って妨害したようである。したがって、調査は極めて難しかったという。その他の朝鮮人労働者の日常状況調査でさえ難しく、やむを得ず自ら現場労働者となって飯場を渡り歩き、調査にあたった人間もあったというほどである。
 また、下記の「信濃川虐殺事件問題大演説会」での弁士中止ヲ命ズ」や「…次ニ白武カ登壇スルヤ又々不穏ノ言動アリ同9時2分直ニ解散ヲ命セラレ同時ニ騒擾ノ言動アリ検束セラレタルモノ白武、富岡誓、元九碵、鄭在旭、沈洪局、李鎬林、李海炯、姜大見ノ8名ニシテ目下取調中ナルカ…」などの文面の中にも、何とか運動の広がりを押さえ込もうとする姿勢が認められる。

 さらに、関東大震災直後、政府自ら「主義者と不逞鮮人」を常套句として「放火・略奪・強姦・爆弾投擲・井戸への毒薬投入」などの恐怖を煽る流言蜚語の伝搬に一役買い、震災は自然災害であるにもかかわらず、違法・違令の戒厳令や徴発令を発令し、戦時武装を整えた軍隊を動員して多くの朝鮮人や中国人を虐殺するとともに、社会主義者や無政府主義者を次々に検挙し中心的人物を虐殺した理由も民衆蜂起を恐れてのことであろう。
 
 「信濃川水力発電所虐殺事件」などを切っ掛けとして、虐殺事件の背景にある,
監獄部屋」に閉じこめられた朝鮮人労働者の労働実態が明らかにされ、それを打破しようとする組織が結成され、さらに、その組織の活動が、日本の労働運動や社会主義者の運動と結びつき発展して大きなうねりとなり、民衆蜂起にいたることを、日本政府や官憲が恐れていたが故に、震災を利用し先手を打って、そうした運動を潰そうと計画的に虐殺におよんだのではないか、というわけである。

 下記の読売新聞の記事と「信濃川虐殺事件問題大演説会開催ノ件」という「朝鮮総督府警務局資料」は、そうしたことを物語る資料の一つであると思う。下記は、「朝鮮人強制連行の記録」朴慶植著(未来社)からの抜粋である。
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 資料

           (1) 信濃川水力発電所虐殺事件

 読売新聞(大正11年7月29日)

    信濃川を頻々流れ下る
     鮮人の虐殺死体
     「北越の地獄谷」と呼ばれて、
       附近の村民恐ぢ気を顫ふ
        信越電力大工事中の怪聞

 〔新潟特電〕 信越電力株式会社では昨年から向う8カ年計画で信濃川の水力を利用して、遠く関東地方まで送電し、東洋第一の発電所とする空前の大工事をその水源の新潟県下に起したが最近
工事に使用されている鮮人の溺死体が下流各所に発見され次第に工夫虐待致死という奇怪至極の風聞を伝えられて来た。然も命知らずの工夫頭の多い事とてうっかり口を滑らすと直ぐ襲撃を受ける恐れがあるため附近の町村民は悉く秘密裡に葬り去っているがこの人道を無視した虐殺問題は今や「北越の地獄谷」として喧伝され、所轄十日町警察署では工事地である大割野巡査出張所を駐在所と変更して警官の増派方を請い徹底的取締りをなすべく現に県警察本部に申請中である。

    逃げ出すと嬲り殺し
     山中にも腐爛した死体が転がって居る

       ……目撃した人の話
 〔新潟特電〕 一目撃者は恐れおののきながら今の世にあり得ない次の物語をした「地獄谷というのは妻育秋成村大字穴藤という作業地でここには1200名の工夫がいて内600名は鮮人です。始め雇い入れる時は朝鮮からのは1人40円位前貸し1ヶ月69円の決めですが、山に入ったが最後規定の8時間労働どころか、朝は4時から夜の8、9時頃まで風呂にも入れず牛や馬のように追い使う、仕事といえば食事を除けば1分間も休まずにトロッコを押し、土掘り、岩石破壊から土木、材木かつぎまでやるのだから心臓は悪くなる。体は極端に弱る、堪えきれないから罷めたいといっても承知して呉れない。冬は雪国だから丈余の雪中に埋もれてピョウピョウ北風に身を切られ、夏は四方の山に風が遮られて、蒸し殺されるよう、そこへこの苛酷な労働です。始めとはまるで約束違いの待遇に夜に入って逃げ出そうとする者の多いのは何の無理がありましょう。私は逃げようとして捉えられたものをもう十何度となく見ています。中にもなまけものといわれている朝鮮人が多いのです。逃走者に対する処罰、それは両手を後に縛り上げて3、4人の見張り番──見張り番は一名決死隊と呼んで七首や短銃を懐にしている、──が杉の樹に吊し上げて棍棒で打つ、なぐる、この月の始めでしたか県下東頸城郡松の山の尾身某というのがやはりこの伝でやられた。3日間絶食させられ、3度気絶した、その後どうなったか。


 地獄谷の後に当たる苗場山か岩菅山に逃げたというのですが、まだ生死不明です。そして恐ろしい事にはよくこの山中で逃げ出した鮮人の腐爛した残死体が発見される。私の聞いた丈でも川の下流だけでさえ死因不明の鮮人7、8名の死体が漂着しています。恐らく働かぬといって虐められ、逃げ出したといっては前のように嬲り殺しにされたのではあるまいか。」

    身体に大石を結び着け断崖から
     此儘には済まされぬと官吏語る
 〔新潟特電〕 更に同郡の一官吏は「2、3日前4、5名の土方が下穴藤の高さ1450尺の断崖から1名の鮮人に石を結び付けて投げ込んだのを見た村民が来て内々知らせて呉れたので、もうこの儘には済まされない」と記者に単なる噂でない事を裏書したのも恐ろしい

 
 東亜日報(1922年8月1日)略

 東亜日報(1922年8月20日)略

 朝鮮総督府警務局資料
  鮮高秘乙第623号 大正11年9月5日


    信濃川虐殺事件問題大演説会開催ノ件
 来ル7日神田区美土代町基督教青年会館ニ於テ首題演説会開催ニ関シ既報ノ処其後左記ノ如ク弁士及宣伝文ノ幾分ヲ変更シ入場者ヨリ金20銭ノ徴収ヲ廃止スルコトト為シ宣伝文一万枚印刷方註文セルカ昨日印刷出来セルヲ以テ朴烈、金若水等ハ之ヲ同志ニ配布シ而シテ市内各所ノ電柱ニ貼付或ハ内鮮労働者等ノ多数集合セル場所ニ於テ撒布スル等ノ計画ナリシヲ以テ電柱ニ貼付云々ノ件ニ付テハ厳重注意ヲ与ヘ置キ彼等ノ行動警戒中ノ処彼等ハ基督教青年会館ヘ借間代金トシテ金60円ヲ支払ヒ残金ノ分及宣伝文印刷費其他ノ費用後日有志ノ寄附ヲ仰キ之レヲ支払フベキ計画ナリト

     左記   
  ◎信濃川虐殺事件問題大演説会
 文明国と云われて居る今の日本に土木工事のある所全国到る所に多くの兄弟共は生き乍らの地獄で痛い笞に鞭たれつつある愛があり血があるべき人々よ! 来れ来れ此の戦慄すべき殺人境打破の叫を聞きに!!


 弁士  鄭 雲 海    白   武    松本 淳三
      羅 景 錫    金 鐘 範    李 康 夏
      朴   烈     山道 襄一   金   燦
      中浜  哲    申   焰    堺  利彦
      小牧 近江    中野 正剛    大杉  栄
      鄭 泰 成    金 炯 斗

 時日   9月7日(木) 午後7時
 場所   神田美土代町青年会館
 主催   信濃川朝鮮労働者虐殺事件調査会


 右及申(通)報候也
   申(通)報先 
    内相  次官  局長  
    朝鮮警務局長殿 
    拓殖局長官
    新潟 長野  京畿道各知事



 鮮高秘乙第627号 大正11年9月7日

    信濃川虐殺事件問題演説会ニ関スル件


在京鮮人金若水、朴烈 申栄雨等ハ首題ノ演説会開催ニ関シ曩ニ宣伝ビラヲ印刷ニ附シ内鮮労働者其他同志等ニ配布シ頻リニ聴衆吸収策ニ奔走中ナルコトハ既報(法相、次官、局長ヘハ未報)ノ処本日午後7時ヨリ神田区美土代町基督教青年会館ニ於テ開会スルニ入場者一千名中内地人ハ約500名、鮮人約500名ノ割合ニシテ其主ナル者左記ノ通リニ司会者金若水ノ紹介ニテ鄭雲海開会ノ辞ヲ述ベタルニ亜テ羅景錫、朴烈、金鐘範、申栄雨、小牧近江 金炯斗順序ニ出演セルカ金炯斗ノ演説中不穏ノ点アリテ中止ヲ命セラルヤ次ニ白武カ登壇スルヤ又々不穏ノ言動アリ同9時2分直ニ解散ヲ命セラレ同時ニ騒擾ノ言動アリ検束セラレタルモノ白武、富岡誓、元九碵、鄭在旭、沈洪局、李鎬林、李海炯、姜大見ノ8名ニシテ目下取調中ナルカ演説ノ要旨左ノ如シ而シテ入場料金拾銭ヲ徴シタルカ総額金93円余アリタリ

    左記
1 出席者ノ主ナル者
 李 如 星(甲)    黄 錫 禹(甲)    徐 相 一(要注意)    
 鄭 雲 海       羅 景 錫       朴   烈(甲)
 金 若 水(甲)    李 康 夏(甲)    朴 治 鎬(要注意)
 柳 震 杰(要注意) 張 祥 重(要注意) 申 栄 雨(申)
 卞 凞 瑢(申)    李 周 和(〃)    金 炯 斗(乙)
 高津 正道       中名生幸力      小池  薫
 浦田 武雄       望月  桂       渡辺 満三
 長島  新(埼玉編入)坂野 八郎       橋浦 時雄
 伊藤 逸郎       富岡  誓
                         (以上)

 申報通報先
 内相  次官  局長
 法相、 次官  局長
 検事総長 検事長 検事正
 朝鮮警務局長
 拓殖局長官
 京畿 新潟 長野 埼玉各知事


第一席  無題  鄭 雲 海
吾々朝鮮人ハ生命ノ糧ヲ得ル為メ遙々此ノ日本ニ渡来スルノテアルガ此等ノ人々ハ無産者デアルト共ニ鮮人ナルト云フ偏見ノモトニ幾多ノ暴虐敢テ受ケツツアルノテアル今回ノ信濃川事件ノ如キモ又其一例テアル斯ノ如キ問題ハ吾々朝鮮人ハ勿論又日本ノ無産者モ之ヲ対岸ノ火災視スル事ハ出来ヌト思フ而シテ
監獄部屋ノ如キ不平等ニシテ且ツ人道ヲ無視スル弊風ハ一時モ早ク吾々ハ此ノ血ト腕トヲ以テ解決セサル可ベカラス

第二席  無題  羅 景 錫  (略)
1、無題   第三席   朴  烈
監獄部屋組織ノ不完全ナル事其待遇ハ非人道的ナリト難シ斯如キ反人道的行為ハ常ニ親方連中ノ饗応ヲ受ケツツアル三名ノ巡査ニヨリ助長セラレツツアルノテアル斯カル無秩序ナル状態ニ対シ日本政府ハ何等ノ救済策ヲ講シナイノテアル此ノ悪制度ハ現在ノ資本家的社会組織ノ結果ナルカ故ニ此ノ社会制度ヲ根本的ニ破壊スル必要カアルト私ハ思フ云々


2、無題   第4席   金 鐘 範  (略)

1、無題   第5席   申 栄 雨  (略)

1、無題   第6席   小牧 近江
朝鮮ノ文化ハ総督府ノ手ニ依リ破壊セラレントシツツアリ新潟県ノ監獄部屋取締ノ巡査ハ請負師ニ買収セラレ居ルノ状況ハ資本家並ニ特権階級ノ横暴ヲ遺憾ナク発揮セルモノト云フヘシ


1、無題   第7席   金 炯 斗
諸君ノ兄弟姉妹ノ血ヲススリ吾々同胞ヲ道傍ニ餓死セシメ居ルノハアノブルジョアト云フ悪魔テアル諸君ノ自由言論ノ自由ト称シナガラ健全ナル思想ヲ攪乱セントシテ居ル斯ノ革命的ナ宗教的ナ迷信的ナ倫理観ヲ以テ凡ユル利権ヲ得ントスルハブルジョア此ノ悪魔ノ奴テアル諸君此ノ狂暴ナル悪魔ノ奴カ諸君此ノ悪魔カ日韓合併ニ依ッテ日本ノ無産者ト朝鮮民衆
(弁士中止ヲ命ス) 

1、無産(ママ) 第8席   白   武
先般ノ弁士ハ到頭横暴ニモ中止ヲ喰ッタノテアリマス私ハ斯ウ云フ事ヲ前提トシテ置カウト思フ貴様等虐ケレハ虐ゲウ打タハ打テ最後ニ殺セト言ヒタイノダ(
弁士中止ヲ命ズ)殺シテコソ……反逆ハ(弁士中止ヲ命ズ)(更ニ解散ヲ命ズ
   
http://www15.ocn.ne.jp/~hide20/"に投稿記事一覧表および一覧表とリンクさせた記事全文があります。一部漢数字をアラビア数字に変えたり、読点を省略または追加したりしています。また、ところどころに空行を挿入しています。青字が書名や抜粋部分です。赤字は特に記憶したい部分です。

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