真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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日米地位協定と日本の主権

2024年03月02日 | 国際・政治

 ”2月初め、朝日新聞は、「時時刻刻」という欄に、”基地発PFAS汚染「例外」の日本”と題する長文の記事を掲載しました。”調査に応じない米側■対策費住民負担”という副題がついていました。
 そして、
発がん性が指摘される有機フッ素化合物(総称PFAS)が日本国内の米軍基地周辺で検出され、住民生活への影響が懸念されている。米国で問題が広がり、米政府は国内向けに規制を強め、大規模な対策予算を投じる。だが、日本国内では対策に積極的と言えず、住民は不信感を強めている。
 というサマリーがついていました。
 また、記事の脇に、”化学物質PFASなにが問題? 体内に長く蓄積され、発がん性も指摘されている”と題する化学物質PFASに関する具体的な説明も付けられていました。
 かなりの長文で、実態や問題点をきちんと把握し、告発するような思い切った記事だと思いました。
 でもこの記事は、”どうすべきか” ということには踏み込んでいません。朝日新聞の中枢は、これ以上踏み込んだことは、日本政府の批判、そして、米軍の批判、さらにはアメリカ政府の批判につながるので書かせないのではないかと想像します。
 だからそれが、現在、朝日新聞を中心とする日本の現場記者の記事の限界になっているような気がします。実態や問題点は指摘しても、”どうすべきか” ということには踏み込めないということです。

 先日、朝日新聞社説は、ウクライナ侵攻2年ということで、”長期化見すえ持続的支援を” と題する記事を掲載しました。この記事は、前記の「時時刻刻」の記事とは対照的に、”どうすべきか” ということが、そのまま「見出し」になっているのです。
 それは、アメリカや日本の政府に抱き込まれた朝日新聞中枢の、政治的立場を示しているのだと思います。

 社説は、下記のような書き出しで始まっているかなりの長文です。
ロシアが国際規範をふみにじり、隣国ウクライナへの全面的な侵略を始めて、きょうで2年になる。 ロシアが一方的に始めた戦争を終わらせられるのは、ロシアだけだ。プーチン大統領に改めて求める。直ちに停戦し、ウクライナ領土から全軍を撤退させよ、と。
 私たちも、認識を新たにしたい。
 この戦争は今後も長く続く可能性があること。その結果、侵略者が得をする事態に至れば、模倣する勢力が後に続き、力と恐怖が支配する世界が現出しかねないこと。私たちの未来のためにも、息長くウクライナを支えていく責務があることを。
 この書き出しでわかるように、朝日新聞中枢は、完全にアメリカの戦略に基づいた考え方をしていると思います。「停戦協議」を求めるのではなく、「全軍撤退」を求め、撤退しない場合は、戦いを続けるべきだというアメリカの戦略です。
 ロシアを敵視しつつ、ウクライナに関わっていたアメリカやNATO諸国の動きを隠し、戦争の経緯を完全に無視して、100パーセントロシアが 悪いという主張であり、また、話し合いではなく、アメリカを中心とするNATO諸国の主張に従わなければ、戦争(殺し合い)を続ける必要がある、という恐ろしい考え方だと思います。これが民主主義を掲げるアメリカや日本の姿勢なのです。 


 私は、”侵略者が得をする事態に至れば、模倣する勢力が後に続き、力と恐怖が支配する世界が現出しかねない” などというのも、くり返し軍事力を行使し、覇権や利益を維持・拡大してきた西側諸国、特に、アメリカの政治家や軍の高官の利己的な妄想だと思います。そんな「妄想」に乗せられて、攻撃的な姿勢を見せるから、抵抗する国や集団が、次々に出てくるのだと思います。
 また逆に、日本のように、主権を放棄して、アメリカに追随する国も出てくるのだと思います。
 
 下記は、「日米地位協定逐条批判」地位協定研究会著(新日本出版社)から、”2 「排他的使用権」を容認する反国民的規定──第三条” の”2 「排他的使用権」国土と環境破壊”と”3 日本の法令による規制の排除”を抜萃しました。有機フッ素化合物であるPFAS(ピーファス)の問題は、同書では、まだ直接扱うに至っていなかったようですが、米軍駐留に基づく、深刻な「環境破壊」や「人権侵害」が、PFASの他にもいいろいろあることが分かります。

 アメリカでは、PFASの環境汚染対策に5年間で、90億ドル(1兆3000億円)の予算を投じる方針だといいます。日本でも、嘉手納基地厚木基地、横須賀基地、横田基地、三沢基地などで、PFASが検出されたリ、流出が分かっているのに、なぜ放置されるのか、なぜ、その費用を住民が負担することになるのか、きちんと受け止めて対応すべきだと思います。

 記事の片隅に、”他国で調査・浄化進む”と題した記事があり、”ドイツの米軍基地では米軍負担でPFAS汚染の調査を実施し、浄化作業も実施している”とあります。また、米軍の環境汚染を取材する英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェルさんは、日本の状況は「例外的」との認識だといいます。
 その理由は、日本の政治が、戦後まもなく、アメリカの公職追放解除のおかげで、第一線に復帰しすることのできた戦争指導層によって進められてきたからだと思います。常に、アメリカ追随で、当たり前のことも、アメリカ相手の場合は要求しないからだと思います。だから、現在の自民党政権は、自ら主権を放棄していると言えるのではないかと思います。
 相手がアメリカであっても、きちんと要求すべきは要求し、拒否されたり、理不尽な対応をされたりしたら、それなりの対応をすべきだと思います。
 また、いつまでも軍事同盟など維持しないで、主権を取り戻すために、日米地位協定や日米安保条約の解消・破棄も検討すべきだ、と私は思います。

 日本の米軍基地は、下記のような日米安保条約の条文に反し、くり返しアメリカの利益と覇権のための戦争に使われてきたと思います。ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争をふり返れば、分かると思います。日本国の安全に寄与し、極東における国際の平和及び安全の維持に寄与してはいないと思います。

   日米安保条約

第一条 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。”
 

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            2 「排他的使用権」を容認する反国民的規定──第三条

 2 「排他的使用権」国土と環境破壊
<基地の造成>
 アメリカは、田畑をつぶし、町を破壊し、山林を崩し、海を埋め立てるなどして基地を造成し、分厚いコンクリートを敷きつめて滑走路を設置したり、その他さまざまな施設を築造してきた。それ自体、重大な環境破壊をもたらすものである。
《実弾演習による国土と環境の破壊》
 演習場では、米軍は無数の実弾を打ち込み、山林を焼きつくし、数え切れない不発弾を放置してきた。たとえば、キャップ・ハンセン演習場では、1972年の本土復帰から95年12月1日までの間に、256日、163回の155mm榴弾砲などの実弾演習が実施され、着弾数は40,823発と膨大な数にのぼっている。このような実弾演習は、県道を封鎖して、住宅地から700mというすぐ近くで実施されておりものすごい発射音や炸裂音、そして激しい振動が周辺住民に多大な不安と恐怖、生活妨害など、さまざまな被害を与えている。現に、実弾演習による被弾・流弾事故は、金武町の記録だけでも、復帰後17件も発生しており、89年にも高速道路のサービスエリアの給与所やトイレの窓ガラスなどの被弾事故が起こっている。のみならず、着弾区域となっている恩納連山は山肌が一面削り取られてハゲ山となり、山林火災もたびたび発生している。演習場内の自然が破壊され、赤土流出による河川や海域汚染の原因となっている。そして、漁業にも多大な被害をあたえている。(金武町の報告 前掲『調査報告 沖縄の米軍基地被害』)。
 沖縄本島北部の山岳地帯は、世界的にも貴重な動植物が数多く生息する自然の宝庫といわれている。国際鳥類保護会議(ICBP)や世界野生動物基金(WWF)から「絶滅の危機」にある種に指定され、その保護が国際的にも求められている特別天然記念物のノグチゲラ、国指定の天然記念物のヤンバルクイナ、リュウキュウヤマガメなどが生息している。この山岳地帯である北部訓練場では、海兵隊がジャングル戦や掃討戦、陸海空にまたがる総合演習をくりかえし、自然破壊を続けている(安仁屋政昭ほか著『沖縄はなぜ基地を拒否するのか』新日本出版社、96年参照) 

 《有害物質の不安と被害》
 他方、基地からは、毒ガス、廃油、ジェット燃料、排気ガスや放射能などさまざまな有害物質が放出・流出されてきた。
 たとえば、沖縄では、屎尿などの汚染やオイル、廃油などの流出は、復帰以降1994年までに65回発生し、県民の飲料水を取水している河川や海域が汚染された。嘉手納町では、復帰前、基地内のジェット燃料が地中を伝わって民家の井戸に流入「燃える井戸」として大問題となったり、キャンプ端慶覧をかかえる北谷町では、海域に流出した廃油が養殖漁場を直撃し、大きな被害を出した。東京・横田基地の周辺、昭島市や立川市などでも、ジェット燃料が住宅の井戸から発見されるなど同様の問題が発生している。さらに、PCBが嘉手納基地に大量に野積みされ、漏出していたなどの問題も発生している。(前掲『沖縄はなぜ基地を拒否するのか』、「東京横田基地」編集委員会編『東京横田基地』連合出版86年参照)
 なかでも横須賀基地、佐世保基地、沖縄県ホワイトビーチは、原子力艦の寄港地であり、寄港時に、通常以上の放射能が検出されたりして、周辺住民らに大きな不安と被害を与えている。横田基地でも核兵器の貯蔵庫の存在が確認され、核事故たいする特別訓練が行われている。
 97年2月には、沖縄の鳥島射爆場で米海兵隊の攻撃機が1500を超える劣化ウランの機銃弾を撃ち込んでいた事実が明らかになった。米側は「誤射」と説明しているが、この劣化ウラン弾は放射能を帯びているものであり、米国内の特定の射撃爆場以外での使用は禁じられているという。しかも、これを使用した事実が一年間以上も秘匿され、日本政府にすら報告されてこなかったのである。日本国民を無視する米側の無法ぶりはここでも明らかにされている。

《騒音被害》
 基地に離発着する航空機騒音やエンジンテストなどの地上音による被害も深刻である。耳をつんざくようなジェット機による金属音をはじめ、100デシベルを超える騒音に四六時中悩まされ続けている。これは、地下鉄の構内で電車が発する騒音以上のものである。そのような爆音が一日に100回、200回と頭上からたたきつけるように、建物を振動させ、住民に襲いかかる。その都度、墜落事故などの恐怖に襲われるのである。
 基地周辺住民が受け続ける被害は、夜間飛行による睡眠妨害を始め、会話・電話・だんらん・育児など日常生活の妨害、学校の授業の中断、自宅での学習の妨害、イライラ・ストレスさらには難聴や高血圧など健康被害にまでおよんでいる。これらの騒音被害をもたらす米軍機の飛行などは違法であり、日本政府が被害住民に損害賠償責任を負うことが横田基地の最高裁判決で確定している(1993年2月25日、第一小法廷判決)。嘉手納基地や厚木基地でも、それぞれ同様の判断が裁判所で出されている。
  ところが、裁判所は、米軍が基地の管理権を有すること、日本政府が米軍に対して基地の管理運営権限を規制し活動制限する権限がないことを理由にして、夜間飛行の差し止めを認めず、せめて夜だけは静かに眠らせてほしいという住民の要求をしりぞけてきたのである。(前記横田基地公害訴訟最高裁判決など)。日本政府は、最高裁判所が判決を出したのちに、ようやく厚木基地と同様に横田基地についてもアメリカ政府との合同委員会で、夜10時から朝6時までの飛行を規制する合意を行った。しかし、この合意も遵守されておらず、騒音被害は改善されていない。しかも、たとえば、横田基地についての東京都環境保全局の調査では、1994年に環境基準を達成した日は、年間わずか14日に過ぎないと報告されている。
 これに対して95年3月1日に発表した「アメリカと日本の安全保障関係にかんする報告書」(国防省)では、在日米軍施設は、アメリカあるいは日本のいずれかのきびしいほうの環境基準を満たしていると報告している。米軍は、日本の最高裁の確定判決をも無視し、違法な騒音被害をみずからまきき散らしつづける実態をいつわり、公然と虚偽の報告を行っている。これでは、騒音被害が改善されるはずがない。

   3 日本の法令による規制の排除
 米軍基地においては、日本の法令による規制は排除され、ないがしろにされている。たとえば、建物を建築する場合でも、宅地造成法や建築基準法などの適用はされず、弾薬庫の設置にも火薬類取締法は適用されず、埋め立てにも公有水面埋め立て法などの適用されず、米軍は勝手に日本の国土を利用してきた。騒音規制法その他さまざま環境基準なども、無視しつづけてきた。
 普天間基地の「返還」に関連して、基地機能を維持し、移設するため、嘉手納弾薬庫地区での1500メートルの滑走路を有する基地新設が提起されたが、そこでも自然環境の破壊がいっそう拡大される点が指摘された。環境保護という視点は、日本の政府にはまったく考慮されていないのである。その後、この基地の新設は、同規模の海上ヘリポート建設案に変更されているが、その場合でも、海洋汚染や漁業への被害など深刻な問題が発生することが予想され、地域住民が強く反発している。
 このように日本政府は、本来適用されてしかるべき日本の法令の遵守を米軍に求めず、地位協定上、明記されている制限(地位協定第三条第三項「公共の安全に妥当な考慮を払う」など)すらこれを遵守させようとしていないのである。 
 前述のように米軍基地の航空機騒音が基地周辺住民に多大な被害をあたえつづけているにもかかわらず、夜間飛行の規制すら米軍に要求せず、また、沖縄での実弾演習を初めとするさまざまな被害についても、これを放置しつづけてきたことに、日本政府の姿勢が端的に示されている。
 沖縄県は、地位協定第三条を見直し、「地域の住民に大きな影響を与える航空機騒音および環境保護に関しては、施設・区域内でも国内法を適用すること」を政府に要請している。県民の生活と権利を守る立場からの当然の要求である。これに応じようとしない日本政府の態度には、国民の生活・権利を犠牲にして日米安保や軍事・米軍の利益を最優先させる反国民的姿勢が露呈されている。 


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