真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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帝銀事件と米軍(GHQ)と731部隊

2023年04月10日 | 国際・政治

 帝銀事件は、1948年に東京都豊島区の帝国銀行(現在の三井住友銀行)椎名町支店で、行員ら12名が毒殺され現金と小切手が奪われた銀行強盗殺人事件ですが、「日本の黒い霧」(文春文庫)の著者松本清張は、膨大な資料を集め、緻密な分析を重ねて、その恐るべき真実を暴いています。

 私は、日本人が忘れてはならない、戦後日本の重大事件の一つだと思います。 
 下記は、同書の一部抜粋です。
 「8」は当時の捜査当局が、全国の警察署にあてた「帝銀事件捜査要綱」で、「9」は、捜査の過程で、それに追加されたものです。犯人が旧軍関係者、特に石井部隊(731部隊)の関係者である可能性があることを考慮していたことが分かります。
 だから、捜査当局の手が、石井部隊関係者を抱きこんで進めているアメリカの最高秘密作戦に及ぶことを恐れ、GHQが手を回し、その回避のために動いたということです。捜査当局が全国の警察署にあてた「帝銀事件捜査要綱」に基づく全国的捜査で、警視庁は、犯人に迫っていたのです。だからGHQは、「帝銀事件捜査要綱」に基く捜査の打切りに動き、毒殺に使われたと思われる「ニトリール」のニの字も知らない平沢貞通画伯が犯人されてしまったのだと思います。
 こういう犯罪は、関係者が謝罪や反省をしない限り、現在につながる犯罪であり、忘れられてはならないと思います。だから、こうした犯罪を踏まえて、ウクライナ戦争や台湾有事をとらえる必要があると思うのです。

  先日(4月6日)アメリカのブリンケン国務長官が、独メディアのインタビューで、”一部の人にとって、停戦というアイデアは魅力的に見えるかもしれない。私もそれを理解している。だが、もしそれが、ロシアがウクライナの領土の大部分を掌握するということを事実上認めるのと同然となるのであれば、それは公正で永続的な平和とはいえないだろう”などと述べたことが、報道されました。
 同時に、国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官もまた、ウクライナ危機を現時点で停戦に持ち込むことはロシアによる新たな領土の獲得を確定することとなり、国連憲章の違反につながるということで、アメリカは、”現時点での停戦に反対する”と表明したことも伝えられました。
 さらに、ゼレンスキー大統領は、G20のサミットで、”「ミンスク3」(新たな停戦合意)はありえない”と、コメントしたといいます。
 こうした主張は、誰が戦争を欲しているかを示していると思います。


 最も大事なのは、領土ではなく人命であり、先ず、殺し合いを止めることなのに、停戦・和解の話が進まないのは、それが、アメリカの覇権や利益の維持ではなく、逆に、喪失につながるからだ、と私は思います。アメリカは、覇権や利益の維持や拡大のためには、人命が失われることを厭わないのです。
 日本の主要メディアは、毎日のようにウクライナの人たちの悲劇的な様子や、ウクライナの人たちに対する同情をさそうような報道を続けていますが、それが、停戦・和解の話に向かう様子はありません。アメリカの戦略に沿うかたちで、悪いのはロシアだという方向に向かっていると思います。

 帝銀事件は、戦後三大ミステリ事件といわれる「下山事件」や「松川事件」、「三鷹事件」などと少し趣を異にしますが、アメリカの謀略であることは間違いないと思います。

 だから、無実の平沢貞通が罪に陥れられた事実は、忘れられてはならない、と私は思います。
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                        帝銀事件の謎
    8
 ここで、私は捜査当局が、全国の警察署にあてた「帝銀事件捜査要綱」を書いておくことにする。これを読むと、捜査当局が考えていた、最初の帝銀犯人のイメージがどのようなものであったか、はっきりすると思う。

   刑捜一第153号の6。昭和23年2月7日。
                                 刑事部長」
「帝銀毒殺事件捜査要綱一括指示の件
 帝銀毒殺事件については、数次の指示に基き、鋭意捜査中のことと信ずるも、更に認識を深め、捜査の徹底を期するため、左に捜査要綱を一括し一部を付加した。
一、都庁、区役所の衛生課、防疫課(係)、各保健所、病院、医師、薬剤師、その他医療、防疫関係者で、松井蔚または山口二郎の名刺を受けた者がいないかを調査すること。
ニ、次の者から更に似寄人相者を物色すること。
① 医師、歯科医師、獣医師、生命保険会社保険医師、薬剤師、または各種医学、化学、薬学研究所研究員及び学校の先生、生徒、薬品製造人、または販売会社、もしくは薬品のブローカーに従事し、またはその経験のある者。
② 進駐軍の通訳、事務員、雑役などに従事し、またはその前歴のある者。
③ 銀行員、またはその経験のある者。
④ 水害地の防疫に従事したる者。
⑤ 引揚者、または帰還将兵中、医療の心得のある者
⑥ 病院、医院、薬局等より青酸塩類を入手し、またはせんとしたる者、または職務上これらを扱う者、並びにこれらの工場、製作所に出入りする者」
 これらの捜査要綱や指針はたびたび出されているが、更に捜査当局はこれらの事件を検討して、その「共通点」を発見している。それは、次のような通告である。
「右三件を検討すると、左の諸点と一致し、同一犯人の所為と推断された。
一、犯行の場所。  三件とも都心を離れた焼け残りの住宅、または商店街にある小規模の銀行である。
ニ、犯罪の日時。第1回は火曜日、2回、3回は月曜日を選んだ。月曜日は、前日が休日の関係から銀行取引が多いので、犯人はそこを狙ったのではないかと考えられる。時は、いずれも閉店後の残務整理中で、これは一般人の出入りもないし、現金も比較的多い時で、犯行の好機であった。
三、犯人の扮装。  表面丸出しであるが、いずれも左腕に、東京都防疫班、消毒班等と毛筆で達筆に墨書し、東京都マーク、または角印を捺した白布腕章を付け、相手を信じさせようと図った。
四、職権を肩書した名刺の使用。 前述の厚生省技官の肩書がある松井蔚及び山口二郎の名刺を使用し、相手を信じさせた。
五、犯人の言動の一致点。  (A)自分は水害地の防疫から帰って来た。。 (B)銀行付近に集団赤痢が発生した。 (C)進駐軍に報告され、パーカー、マーカー、ホーネット、コートレー中尉の命により消毒班が自動車で来た。 (D)患者を調べると、同家の者が今日、この銀行に金を持って来たことが分かった。(E)それゆえ、この銀行の一切のものを消毒せねばならぬ。(F)消毒班がやってくるから、すべてのものはそのままにしておくように。(G)今日、現送があったか。(H)消毒班が来る前にみな予防薬を飲んでもらわねばならぬ。(I)薬は二種類を、最初飲んでから一分後に第二を飲まねばならぬ。(J)薬が歯に触れると琺瑯質を害するから、こうして飲むのだ。(K)犯人が各自の茶碗を集めさせて、スポイト様のもので、所持の薬瓶から薬液を注ぎ、犯人自身その一つを取り範を示した」
 ところが、帝銀事件が起って犠牲者の57日目を迎え、巷間には、この捜査の迷宮入りが伝えられて来たのである。捜査当局は「資料潤沢」のこの事件にその懸念はないと、本部や各署を督励している。そして、この頃から「軍関係」が見えてくるのだ。

   9
  「刑捜一第154号の9 昭和23年3月22日。
                               刑事部長」
「帝銀毒殺事件については、全国官民の絶大なる協援を得て、57日間に亙る継続捜査を推進して来たが、未だ犯人に対する決定的資料を掴む域に達しない。巷間伝うるところによれば、本捜査はすでに行詰りに達し、係員岐路に迷う、の説をなす者あるやに聞くが、およそ本件の如くに資料潤沢にして滋味豊かな事案に対し、僅か数旬の捜査をもって悲観的観測を下すが如きは、断じて首肯しえない」
 と鼓舞し、捜査要綱を新たに左のように加えた。
「(一)、薬学、または理科学系学歴、もしくは職歴、知識、技能、経験のある者より容疑者を物色すること。
(ニ)軍関係薬品取扱特殊学校、同研究所及びこれに付随する教導隊、または防疫給水隊、もしくは憲兵、特務機関に従属する前歴を有する者(主として将校級)より容疑者の物色」
 これが6月25日になると、捜査はいよいよ追込状態となった。…
 ・・・
 ところが、この6月25日付の指示から二月半ほどした9月14日付の刑捜一第887号は、「平沢貞通に対する捜査資料蒐集についての指示」となり、局面は平沢画伯の登場となるのだ。
 即ち、平沢に対する逮捕状が出たのが8月10日で、平沢が北海道の小樽で逮捕されて東京に着いたのが、帝銀事件が発生して210日目であった。

    17 
 ジープといえば帝銀椎名町支店の近所にある相田小太郎方に来ていたジープも、もっと研究する必要があるのではないか。このジープは、相田宅に疑似発疹チフスが起って、その消毒に都の衛星課員が進駐軍軍人と来たものだが、そのチフスは集団発生ではなかった。平沢がこのジープを見たという自供は時間的に合わないという弁護人側の主張は別にしても、ただ一軒に伝染病が発生したからといって、わざわざ進駐軍の軍人が来るものだろうか。そんなことは都の衛星課員に任してよかったのではないか。しかも、それに同乗して来たのは、アーレンという軍曹だった。
 それが、例えば、上野の地下道に浮浪者が屯(タムロ)していてDDTを撒布する、といった大仕掛けの消毒ならともかく、一個人の家に発生したというだけで、進駐軍の軍曹がわざわざやって来たという事実は、もっと考究されてよいと思う。
 更に、犯人が口にしたというパーカーとコーネットの両中尉は、帝銀捜査が旧軍人関係に指向されていた頃、帰国転属になっているのだ。前にも述べたように、犯人は、偶然にこの両中尉の名前を口にしたとは思えない。犯人と、この防疫係の両中尉とは、それが直接的でないにせよ、何等かの関係はあったと思う。だから、両中尉の周辺から洗ってゆけば、或は真犯人に到達する可能性はあったかも知れない。ところが、何ゆえか、防疫担当のこの両中尉は転属を命ぜられて、日本から去ってしまった。
 帰国と云えば、平沢のアリバイに関係のあるエリーと云う軍人も同じように転属になっている。
 当時平沢の次女は、このエリーと親密であったが、1月26日(帝銀事件の日)、エリーは中野の平沢宅に遊びに来ていたが、ボストンバックにタドンを入れた平沢の帰宅をその日の夕方迎えている。このことが証言されると、平沢が帝銀に行く筈のないアリバイが証明されるのだが。
 エリーの勤務表を調べてみると、1月26日は、確かに公休になっていた。だから、エリーが遊びに来たのは、日付に思い違いはないのである。ところが、このエリーも、平沢が逮捕されてからすぐに、本国へ転勤となっている。エリーの証言を日本で得る機会は、それで無くなってしまった。
 そこで、弁護人側は、アメリカにいるエリーの国際公証を申請したのだが、裁判所は、これを却下している。このエリーの帰国も、前に述べたパ-カー、コーネット両中尉の転属と、どこか同じような狙いが感じられるのである。
 それなら、私の想像による犯人は、GHQのどのようなところに所属していたであろうか。
 それは、三つの仮説がたてられる。
 ① 犯人は、現役のG3(作戦部)所属機関の極秘石井グループの正式メンバーであった。
 ② 関係は皆無とは云えないが、上級グループではなく、また、戦後の秘密作業(細菌戦術)の進行には直接タッチしていなかった。
 ③ 曾ての第731部隊(関東軍防疫給水部、石井部隊)か、または第100部隊(関東軍軍馬防疫廠)に所属した中堅メンバーであり、ニトリールのような毒物の存在を知り、かつ、それを使用しうる立場にあったが、戦後の秘密作業は知っていたものの、関係は公的にはなかった。
 という三つの仮説である。
 その内、実際に考えられやすいのは、第三のケースだが、この方面の警視庁の洗いに対し、GHQやG2のCIC、またはPSD(CIEの世論・社会調査課)が、日本側にある種のサジェスチョンを行った、という想像は空想ではないと思う。
 実際、警視庁は、最初の捜査要綱に基いて、本格的に軍関係方面にむかって捜査を行っていたのだし、事実、警視庁本来の実力をもってすれば、遠からず真犯人の身辺近いところに進み得たであろう。しかし、この犯人が分かることは、同時に、現在進行中のG3直属の秘密作業を日本側に知らせることになるので、この捜査方針の切換えの必要を米側は切実に感じたであろう。そこで、捜査要綱に基く本筋捜査の打切りにGHQが大きく動き出した、というのが想像に泛ぶ状況である。
 当時、日本の北や南の涯、或は日本海の沿岸の、しがない開業医や、また医者をしていた者でもその前歴者には、警察機関の内偵が進んでいたのである。
 GHQが、犯人の身辺に捜査の手を伸ばしてもらいたくない理由は、GHQのセクション(作戦参謀部)の、最高44444秘密作戦の一つであるCBR計画のC項(細菌)における石井作業の完全秘匿にあったと思う。この作業内容が日本警察の捜査によって暴露すると、甚だ困ったことになるからだ。
 もし、その存在が少しでも漏れたら、忽ちそれは新聞、報道関係、特に東京駐在のUPやAPなどによって世界に打電される危険があった。実際、その頃、GHQとしては、前代未聞のこの残虐行為を早く解決すべしという慫慂ではあったが、実の肝は、捜査の手が軍部に伸びない前に、何でもよいから早く「犯人」が検挙されることを望んでいたのではあるまいか。
 恰も、そこに、警視庁主流派からは冷眼視されていた居木井名刺班が、北海道から平沢忠通を捕まえて来たのである。もともと、コルサコフ氏病にかかって精神に錯乱を来していた気味の彼は、検事の取調べに対して、それでも30日間の抵抗を試みたが、遂に半分発狂状態になって落ちてしまった。GHQとしては、最も望むべき事態に解決が向かったのである。
 更にGHQに幸いしたことは、この平沢貞通に日本堂詐欺事件の過去があって、そのために、人権問題まで起していた平沢に対する世間の同情が急激に黒説の印象に変わったことであろう。ここで再度云う。詐欺と殺人とは全く異った犯罪質なのである。それを犯罪前歴者という概念のもとに状況が作られ、平沢貞通は敗北したのであった。


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