無意識日記
宇多田光 word:i_
 



『Simple And Clean (Re-Recording)』の最大の魅力は、いうまでもなく25年(CubicUから数えると27年?いやU3から数えると3以下略)に亘る宇多田ヒカルの歴史上過去最大密度と言いたくなるバックコーラス・ハーモニーの完成度だろう。これの出来栄えが私たちの得る感動を更なる未知の領域にまで導いてくれた事実に揺るぎはないと思われるが、ではこの分厚いスタジオワークがこのトラックの総てなのかというと、それについてはまず否を唱えておきたい。

コーラスワークの豪華さに耳を奪われるトラックに遭遇した際、メインのヴォーカルラインだけを取り出すと意外に質素でそんなに凄いわけでもないのだなと気付かされるケースがある。裏を返せば、声の重なりを活かすためにひとつひとつの音の運びはシンプルにして和声自体の魅力を中心に据えようという作曲思考だとも言える。それはそれでとても素晴らしいのだが、『Simple And Clean (Re-Recording)』についてはそのタイプではないという話。

リリースして2日でいきなり「じゃあこのトラックのバックコーラスを取り除いたバージョンを想像してみて」と問うのも無粋な気がするのでちょっと違う例を挙げてみると、2023年リリースのライブEP『40代はいろいろ -Live From Metropolis Studios- 』がちょうどいいのではないかな。

というのも、ここでの『First Love (Live2023)』のアレンジが、オリジナルの『Simple And Clean』を『Simple And Clean (Re-Recording)』に進化させる為にとったそれとよく似たコンセプトの元に施されているからだ。

『40代はいろいろ -Live From Metropolis Studios- 』は、ジャケットの写真にある通り、最小人数編成でのアレンジを求められたスタジオ・ライブだった。歌に関してもヒカルのヴォーカル一本である。しかし、初めてこれを聴いた時にオリジナルの『First Love』と比較して、柔らかく暖かく包容力に満ち溢れた感覚を、聴いていて覚えたことかと思われる。15歳の時に作った曲を40歳になった今の感覚で再構成して歌うとなるとこうなるのか、と。

その時の感覚を思い出すと、『SCIENCE FICTION』に収録された『光(Re-Recording)』や、今回リリースになった『Simple And Clean (Re-Recording)』とかなり近いものを感じると思うんだが如何かな。あの時はバンド編成で少し素朴な感じがあり、今回はみっちりスタジオワークで音を重ねてるが故の豊かさのようなものが上乗せされてはいるが、最終的に届く暖かさや包容力には似通ったものがあると感じられるのではないだろうか。

2023年初頭のリリースと2024年春リリースのものを「同時期のもの」と言っていいかどうかは今後の歴史の推移を待たねばならないが、少なくとも1999年や2002年の頃の音源と比較して語るなら「大体同時期」と言って差し支えないと思われる。思いたい。

なので、この絶品至高のトラックであらせられる『Simple And Clean (Re-Recording)』を語る時には、結果として積み上がったスタジオワークの結晶としての音、というところをしっかりと受け取りながらも「2024年の今だからこその宇多田ヒカルの感性」を核にしているというポイントは、逃さずに踏まえておきたい。そこを意識しながら今回リリースされた『Simple And Clean (Re-Recording)』と、昨年リリースされた『40代はいろいろ -Live From Metropolis Studios- 』を並べて聴いてみるのも、いいものなのではないでしょうかね。

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