トシの読書日記

読書備忘録

輪唱し、連鎖する物語

2014-09-30 14:16:19 | た行の作家
辻原登「許されざる者」(上)(下)読了


文庫で二巻、計1074項に及ぶ大長編であります。いや、面白かった。まさに手練れですね。以前読んだ「約束よ」とか「家族写真」のような人間の深層心理に迫ったような作品を書いてみたり、本作のような歴史大河ドラマを書いてみたりと、ほんと、すごい作家です。


紀伊半島、熊野川の河口にある森宮という町を舞台に繰り広げられるドラマです。時は1903年といいますから明治36年の頃の話です。折しも、日露戦争勃発の時代です。主人公は医師の槇隆光。町の人々から「毒取ル先生」と呼ばれて親しまれています。それに目の覚めるような美しい姪の西千春、甥の若林勉、元、森宮の藩主を父に持つ永野忠庸、そしてその妻と、登場人物はまだまだたくさんいるんですが、彼ら、彼女らの人間模様が繊細に綴られていきます。日露戦争の場面で、森鴎外とか、田山花袋が出てくるところも興味をそそられます。


槇隆光と永野夫人が道ならぬ恋に落ち、結局は結ばれるんですが、そうなるまでのさまざまなエピソード、ドラマがまたいいんですね、これが。いしいしんじの解説がこれもまたいい。



1000項を超える長さを感じさせない、感動の大巨編でした。堪能しました。

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