トシの読書日記

読書備忘録

ネイティブと移民

2019-11-12 17:09:23 | た行の作家



多和田葉子「地球にちりばめられて」読了



本書は平成30年に講談社より発刊されたものです。


多和田葉子、好調ですねぇ。いや面白かった。主要となる登場人物が6人位いて、そういった関係性を把握するのがちょっと苦手な自分としては、その点は読み進めるのに若干苦労しましたが、それでもやっぱり面白かったです。


Hirukoという(多分)日本人、デンマークのコペンハーゲン大学の院生、クヌート、グリーンランド出身の鮨職人のテンゾことナヌーク、ナヌークと一時一緒に暮らしていたノラ、インド出身で性別は男だがサリーをまとって女装しているアカッシュ、そしてHirukoと同じ国の出身と思われる、やはり鮨職人のSusanoo。この6人が織りなす群像劇です。


メインテーマは「言葉」です。本当の言葉を探しに彼らはヨーロッパ大陸を北から南へ転々と旅をします。


最後の方に出てくるSusanooが自分の半生を振り返るところがあるんですが、これがなかなか波乱万丈の人生で、興味深かったですね。


印象に残ったところ、引用します。

<「何語を勉強する」と決めてから教科書を使って勉強するのではなく、まわりの人間たちの声に耳をすまして音を拾い、音を反復し、規則性をリズムとして体感しながら声を発しているうちに、それが一つの新しい言語になっていくのだ。>

<終止符の後にはこれまで見たこともないような文章が続くはずで、それは文章とは呼べない何かかもしれない。なぜなら、どこまで歩いても終止符が来ないのだから。終止符の存在しない言語だってあるに違いない。終わりのない旅。主語のない旅。誰が始め、誰が続けるのか分からないような旅。遠い国。形容詞に過去形があって、前置詞が後置されるような遠い国へでかけてみたい。>


以前読んだ同作家の「献灯使」にも見られたんですが、言葉の語呂合わせのような、地口のような言葉遊びがちょっと鼻に付くところがいやなんですが、しかし、ネイティブがどうのとか、規則性を重要視しなければとか、そんなことではなくて言葉はもっと自由でいいんだという多和田の叫びが聞こえてくる、そんな小説でした。ストーリーだけ追っていっても十分楽しめる作品でもありました。




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