トシの読書日記

読書備忘録

何も望まなければ何にも負けない

2017-03-07 16:38:51 | ら行の作家



イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳「黄金の少年、エメラルドの少女」読了



先日、姉とイーユン・リーとイーヴリン・ウォーを間違えたという笑い話をしていて、そういえばイーユン・リーは「千年の祈り」を読んだきりだったなと思い出し、ネットで調べて買ったのでした。


やっぱりいいですね、イーユン・リー。九編の短編が収められた作品集なんですが、どの作品も「孤独」というものが通奏低音のように流れています。このあたりの筆致がイーユン・リー、うまいんですねぇ。


出色なのは冒頭に収められた「優しさ」という中編。41才の一人暮らしの女性が北京のはずれのアパートに住んでいる。この女性が過去を追想するんですが、その述懐がなんともやりきれない思いにさせます。軍隊に強制的に入隊させられ、そこでの魏(ウェイ)中尉との出会い。また入隊前後に杉(シャン)教授の家で過ごした読書体験。その一つ一つのエピソードが、結局自分は一人なんだという思いに行き着くわけです。


杉教授が言います。「愛は人に借りを負わせるの。最初からそんなものは負わないのがいちばんよ、わかった?」と。教授は未言(モーイェン、主人公)を人として愛するからこんな言葉をかけるという、このパラドックス。面白いですねぇ。そして未言はその愛を「借り」としてそれを返すために生きていこうとするんです。


作中で未言が「(自分の人生は)ほとんど人生ではない」と言い放つ、その言葉が胸に迫ります。


イーユン・リー、いいですねぇ。長編も買ってあるので近々読むつもりです。




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ブライアン・エヴンソン著 柴田元幸訳「ウィンドアイ」 新潮クレストブック

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