トシの読書日記

読書備忘録

いつもそこにある変わらない味

2016-06-07 17:03:40 | は行の作家


平松洋子「サンドウィッチは銀座で」読了



本書は平成25年に文春文庫より発刊されたものです。池波正太郎の食のエッセイという軽い物を読んだので、次は姉からずっと前に借りていて、この間「まだ読んでないの?めちゃ面白いよー」と言われていたクッツェーの「マイケル・K」を読もうと手に取ったとたん、アマゾンから本書が送られてきたのでした。それでついついそっちに手がのびてしまったというわけです。


前に読んだ平松洋子の「ステーキを下町で」にすっかり魅了されてしまい、本書もちょっとわくわくして開いたのですが、期待にたがわずほんとに面白く読ませてもらいました。この人の文章は、なんというか、リズムがあって迫力があるんですね。食べているときの描写の臨場感がすごくリアルです。


例えば、千葉県成田のうなぎの名店「川豊」のくだり。


<「あっ」
「おっ」
声にならない声を発して、ほとんど同時に居住まいを正した。うな重さまのお成りである。
「はい、お待たせしましたー。肝吸いもすぐ持ってまいりますね」
かたり。座卓のうえに塗りのお重がちいさな音を響かせ、鎮座する。よしよし、待っていなさい。すっかりおやじが憑依したふたり、にやついた笑いを浮かべながら、ついに手中に落ちたうな重を目を細めて眺める。
ふたを取る。
息を飲む。
そのあとあわてて、逃がしてなるものかと匂いを吸いこむ
お重いっぱい、こってりと脂が乗った蒲焼きが燦然と輝く。解き放たれた香りもぜんぶ、自分だけのもの。なにがあってもこのお重だけは誰にも渡さない。>


どうですかこの迫力。そしてこの、食に対する執念。かつての文士、吉田健一、獅子文六らに通ずるものがあります。ただ、紹介されている店が、すべて東京周辺、大阪に限られているところがなんとも残念でした。


2冊も中休みをしてしまいました。次はちゃんと小説を読みます。

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