トシの読書日記

読書備忘録

愛に過去は必要か?

2019-09-24 14:15:43 | は行の作家



平野啓一郎「ある男」読了



先週は「ロケット・マン」という映画を見に行ってきました。エルトン・ジョンの半生を描いた映画だったんですが、いやーよかったですねぇ。エルトン役の男優(名前失念)がいい味を出しておりました。ゲイであることをひた隠しにして、しかし自分が売れていくにつれてそれがだんだん明るみに出て、ついに母親にそれをカミングアウトした時、彼女は「そんなことわかっていたわよ」と。ちょっと泣けました。


それはさておき…


本書は平成30年に文藝春秋社より発刊されたものです。



本作家は京都大学在学中に発表した「日蝕」でデビューし、その作品が芥川賞を受賞し、当時は三島由紀夫の再来とうたわれたようです。何年か前にその「日蝕」を読んでみたんですが、全くのお手上げで、何が書いてあるのかさっぱり理解できず、数項で放り出した記憶があります。今回はそのリベンジではないんですが、以前のその悔しさもあって手に取ってみたのでした。


まぁこれはミステリーですね。そういったジャンルはほぼ読まないんですが、たまにはいいかなと。


暗い過去を持つ男が他の男と戸籍を交換して別の人生を歩んでいく…。そんなことができるのかと問われればフィクションなんで何とも言えないんですが、作中ではつじつまが合っている感じがします。三人の男が次から次へと戸籍を代えていくので、そこいらへんが複雑でストーリーを理解するのに骨が折れました。


内容についてはそこまでリスペクトするものはありませんでした。ただ、アマゾンの本作品のレビューの中で、「そこ!」と思ったものがあったので、それをちょっと引用します。

<(前略)平野啓一郎の筆は、弁護士と妻の関係、調査対象者との間に生じる共感や距離感など、繊細なひだに分け入っていく思索の場面でこそ恐ろしいほど冴え渡り、象徴的であり、かつ日常的であったりする場面の書き方がべらぼうに巧い。(後略)>

自分が感じていて、語彙が乏しいのでどう表現していいのか悩むとき、こういったものが役に立ってありがたいです。上記のコメントに100%共感するわけではないのですが、でも平野の文章は、ほんとうまいです。


平野啓一郎は今、こんなのを書くんだなということがわかっただけの一冊でありました。


ちょっと残念でした。

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