トシの読書日記

読書備忘録

愛か金か

2019-12-10 15:18:35 | は行の作家



橋本治「黄金夜会」読了



本書は2019年に中央公論新社より発刊されたものです。


橋本治の遺作といわれる作品です。まず読んで思ったのは、橋本治ってこんな情緒のかけらもない文章を書く人だっけ?ということでした。しかし、それを考えていくうちにその素っ気ないともいえる文章に対して、読者に「眼光紙背に徹」せよというメッセージのようなものを受け取ったのですね。やはりこの作家は、良くも悪くも評論の人なのだなぁという思いを強くしたのでした。


内容は、あの有名な尾崎紅葉の「金色夜叉」の換骨奪胎といいますか、まぁリメイクですね。明治の話を現代に置き換えて、IT企業の若社長の元へ走った美也を貫一は忘れようとして、すべてを捨て、ホームレス同様の状態からはい上がっていく。そして飲食業で成功を収めようとする。


最後、貫一と美也は再会するんですが、その場面は圧巻でした。「愛とは何か」という昔から言われ続けてきた重いテーマを橋本治は、このシーンで二人のセリフを借りて自分の考えを存分にぶちまけています。そして最後の最後、貫一は高層マンションの部屋の窓から飛び降り自殺をしてしまうんですね。もうびっくりしました。あぁ、こんな終わり方なのかと。なんというか、力ずくのエンディングですね。これはすごかった。


ストーリーだけ追っていっては何の面白みもない小説です。貫一の、そして美也の心情の描写部分をじっくり読み、かつ考えることでこの小説の深みがいや増してくるわけですね。そういった意味では実に味わい深い作品であったと思います。


しかしこれ、ドラマか映画になりそうな気がしますねぇ。

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