J・M・クッツェー著 くぼたのぞみ訳「マイケル・K」読了
本書は平成27年に岩波文庫より発刊されたものです。これは「決定版」ということで、初訳は平成元年とのことです。
いやぁ読んでよかったです。すごい小説ですね、これは。
内戦の続く南アフリカで国家の運命に翻弄されながら、自由に生き抜こうとする男の壮大な物語です。3部構成になっていて、第1部では主人公のマイケル・Kが母親と一緒に住んでいる所から二人の生まれ故郷へ行く内容になっているんですが、途中で母親は亡くなります。このあたり、マイケルの感情、心の動き等の描写を極力排して、事実のみを淡々と書いていくところ、すごい迫力でした。
第2部になると、収容された病院でマイケルを治療する若い医師の視点から物語は進んでいきます。これもなかなか興味深かった。マイケルはその病院から逃げ出すんですが、その医師も自分のやっている仕事に常日頃疑問を持っていて、マイケルを追って自分も病院から抜け出すことを夢想します。実際には行動に移さないんですが、その医師がマイケルに心の中で語りかける形で、それが延々8頁にも及んでいます。ここ、この小説のキモだと思いました。
あくまで自分に正直に、自由に生きようとするマイケルに、医師は自分の人生を重ね、自分もマイケルのように生きたいと切望するんですが、やはりそれはできないとあきらめるわけです。
そして第3部になると、またマイケルの視点に戻るわけですが、病院から逃げ出したマイケルは、結局、最初に住んでいた町へ帰ります。そしてかつての自分の家が誰のものにもなっていないことを確かめて家の中に入り、そこで眠るところで物語は終わります。食べることを一切拒否して骨と皮だけになってしまったマイケルですが、最後はかすかな希望を感じさせるエンディングになっています。
久々にガツンとくる小説を読みました。このときの南アフリカの時代背景等をきっちり勉強してから読めばもっと心に深く残るものがあったかもしれません。もちろん、そんな知識がなくても充分楽しめましたが。
ちなみに著者は2003年にノーベル文学賞を受賞しています。
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