ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…佐賀・唐津 「お食事処唐津」の、唐津鯛の薄引き

2017年11月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
唐津の街に秋の訪れを告げる一大イベント、「唐津くんち」は、唐津神社の秋の例大祭である。重さ2〜4トンもの14台の曳山が、3日間に渡り唐津城の城下町を隅々まで引き回される様は、荒々しくもどこか雅やかだ。唐津を訪れたのは祭りの一週間後で、駅前へ降り立ったが賑わいの余韻は感じられない。せめて祭りの所以でも学んでいこうかと、歩いて10分ほどの「唐津曳山展示場」へと、足を運んでみた。曳山の収蔵庫を兼ねた施設のため、すべてが勢ぞろいする様はまさに圧巻。一番の「赤獅子」をはじめ、鳳凰や飛龍などの縁起ある曳山、義経や謙信や信玄の兜といった武将ゆかりの曳山など、大きさに感嘆しては細部の造作に見入ってしまう。

絢爛豪華、勇猛果敢な見栄えの曳山の中で一台、ちょっと変わった姿のものが目を惹く。真紅の大鯛で、とぼけたような表情のクリッとした瞳に、場内へ入ってからずっと見つめられているような。近寄って見上げると、ピンと立った尾ひれに「へ」の字に凛々しく結ばれた口元など、本物らしい造作にお魚好きとしては親しみが湧く。この五番の「鯛」は曳山の中でも人気が高く、観光ポスターにもよく登場するなど、祭りのアイコン的存在のようだ。映像で見た巡行の様子は、ヒレを羽ばたかせて頭を上下に揺らし、まるで群衆の中を泳いでいるかのよう。魚を並べて売っていた魚屋町に由縁した曳山というから、ローカル魚とのご縁も感じられてならない。

隣接する唐津神社に参拝してから駅へと戻り、観光案内所が入った施設「ふるさと会館アルピノ」へと向かう。お昼の腹ごしらえ向けに市街の店をリサーチするつもりが、ここの3階に食事処が入ってますよ、と自らの施設を勧められた。ズバリ「お食事処唐津」との店名、そこに添えられた「地産食彩」との文字に惹かれ、勧めに従いここに決定。入った途端、水槽に悠々泳ぐ大鯛と目線がバッチリ合ってしまい、展示場に続いて鯛に導かれた気分だ。ならば、と選んだ「からつ四季膳」は、唐津鯛薄引きに鯛の荒炊きの、鯛料理ツートップが魅力的な膳である。

荒炊きといえばカブトやカマといった「アラ」の煮付けを思い浮かべるが、膳の小鉢にはさっきの鯛の曳山のように円らな瞳のカブト煮ではなく、切り身がひと切れ煮汁に浸っていた。しっかり締まるほどに煮付けてあり、ホコッとほぐれた身は煮汁が中まで真っ茶に染みている。荒炊きは唐津名物の鯛料理の一つで、玄界灘の鯛を用いて独自のタレで煮付け、料亭や料理旅館ごとに味を競っているという。醤油とみりんが甘辛く効いた濃い味付けながら、身の下地がしっかりしているから、味のバランスがいい煮魚である。

佐賀県の北側沖に広がる玄界灘は、南方から流れ込む対馬暖流のおかげで、優良な漁場が形成。アジ、サバ、サワラ、カンパチなど、多彩な魚種の漁が盛んに行われており、マダイも主要漁獲の一つだ。楕円形の網を1〜2艘の船で引く「ごち網」や、一本釣りでていねいに漁獲される天然もののほか、玄海町では波穏やかな仮屋湾での養殖が、古くから盛んである。脂ののりがよく甘みが強いのが特徴で、唐津くんちの時期はちょうど秋口の「紅葉鯛」が旬。江戸期に唐津城の殿様に献上された由縁もあるとかで、郷土の祭りに殿様にご縁ありと、当地の鯛は地域の歴史に根付いた、由緒があるローカル魚といえそうだ。

荒炊きは骨がないため食べやすく、煮汁に身をからめながら2、3口で平らげたら、もう一品の鯛料理・薄引きも一切れいただく。箸で引き上げると向こう側が透けて見えるほど薄く、まるで鯛のてっさ(ふぐ刺し)だ。そしてふぐ刺し同様、口に入れてからのインパクトが凄いことといったら。ザクザクと強靭な歯ごたえ、身のかすかな淡白さ、皮目の土の香り、そして最後の脂甘い後味と余韻。どれもがきっちり立っており、正しい順に立ち上がっては引いていく。遠方から次第に到来し、通過時の最盛な賑わいの後、遠ざかる余韻。曳山の巡行にも似た、序破急がはっきりした味わいに、鯛の味の印象を新たにした思いがする。

数々の小鉢も平らげ、同じく地元の名物魚介であるイカ丼もいただいたら、玄界の恵みを充分堪能。店が標榜する食の彩りを、華やかに楽しむことができた。支払いの際、出迎えてくれた大鯛君に目礼しようとしたら、なぜか水槽にその姿がない。昼時で埋まった客席を見渡すと、自身が頼んだ膳が各所にも出ているよう。どうやら唐津散策に訪れたお客の胃袋へと、巡行していったようだ。

ビジネスホテルセンリュウ@諫早

2017年11月05日 | 宿&銭湯・立ち寄り湯
諫早の宿は、駅そばの繁華街にあるビジネスホテルセンリュウ。広いロビーに立派なフロントに宴会場もあり、地方の総合ホテル風だが、全体的にちょっと古びているか。可もなく不可もなし。

気になったのが、泊まった隣の部屋がプレートが外されて欠番になっていたこと。ここで何かあったのでしょうか。

ローカル魚でとれたてごはん…長崎・諫早 「登利亭」の、ムツゴロウの蒲焼き

2017年11月05日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
「干拓の里」ムツゴロウ水族館の干潟水槽で観察したムツゴロウは、見た目と動きが実に愛らしかった。自宅で水槽で飼えたら楽しそうだが、売店には愛玩用の販売コーナーはなく、代わりに目に入ったのはムツゴロウの甘露煮。ほか、ワラスボの一夜干しや貝柱のみりん焼きなども普通に並んでおり、珍魚と捉えられがちな有明海の魚介も、地元では当たり前の食材なのを再認識してしまう。ペットにするのが叶わぬなら、せめて舌で胃袋でしっかり楽しんでいきたい。諫早駅に戻るなり夜の街へと繰り出し、駅前の飲食店街の中程にある料亭「登利亭」へ。長崎近海や有明海の魚介を使った料理に定評があり、広い店内は中央に板場を置いたレイアウトが開放的である。

幻の大型高級魚のクエや、捕鯨県ゆかりのクジラ料理など、キラリと光る長崎のローカル魚料理が品書きを飾るが、今宵のご趣向は有明海の幸縛りと決まっている。赤貝に似た縞々の殻のサルボウ、シタビラメの仲間のクツゾコ、ハゼの一種でウナギのように細長いワラスボ。水族館で見た面々の料理写真はどれも珍奇な出で立ち、かつ地味なカラーリングが印象を左右し、いささか食欲が躊躇する。ワラスボの炙り焼きは、水槽で見た大口に鋭い歯が露呈した頭をもたげた姿そのままと、口にするのが手強そうだ。今日はどれもありますよ、とにこやかに押すお姉さんにたじろぎつつ、観念してムツゴロウの蒲焼きから押さえようか。

ウナギと同じタレの香ばしい匂いが近づいてくると、出された皿には細長い炙り身が二尾のってきた。黒紫色だった魚体は焼き込まれて真っ黒くなり、大きなヒレや飛び出た目玉は焼け落ちた一方、コロリとした頭と鋭い歯がやたら目立ち、生きていた際の愛らしさとはかなり印象が異なる。食べ方を迷いつつ尾側からいくと、丸く付いた身がサラサラ、サクサクと軽やか。見た目と生息環境から泥臭さや粘っこさをイメージするが、これは舌に心地よい食感だ。ムツゴロウもハゼ科の魚介で、脂肪分が多く身が柔らかいため、覚えのあるハゼの天ぷらに似た風味に親しみが感じられる。

蒲焼は実はムツゴロウの食べ方として、有明海の沿岸地域では定番の料理法である。生きたまま串を打ったムツゴロウを素焼きにして、醤油とみりんベースのタレに浸し、焼いてはタレをくぐらせを繰り返す。ウナギの蒲焼きとほぼ同じ手順のため、食欲をそそる香りも白身とタレの相まった食味も、勝るとも劣らないインパクトだろう。ほかにも鮮度がいいものは刺身にしたり、だしがよく出るので椀種にしたりと、とぼけた顔して結構品のいい料理にされているようだ。中骨が硬く小骨が口に触るのが気になるものの、そこは個性派地魚のクセ。頭も食べられるそうだが、硬さと見た目で初見ではご勘弁いただこう。

ムツゴロウの蒲焼きでビールが進み、興に乗ったところで波佐見町の地酒「六十余州」を構え、もう一品は「エツ」という魚の稚魚の唐揚げをチョイスした。たっぷり盛られた揚げたての小魚を観察すると、ワカサギより小振りで身がかなり薄い。エツは筑後川河口に生息するイワシ科の小魚で、漁期が短く手に入りづらいことから、有明海でも幻の魚と称されている。その平たさは「ナイフのような魚」とも形容されるが、厚みはない分、身と骨の相まった香ばしさがたまらない。かむごとに味が出て「六十余州」を含み、スッキリ甘めの後味に惹かれエツをもう一尾。どうにも連鎖が止まらず、エツの山がどんどん低くなっていく。

個性も味もかなり強いため、二種を平らげたら充分に満足。支払いの際、思いがけずどちらもうまかったと褒めると、「どれも見た目の割に味がいいでしょう」興味を持って試してくれる、遠方からのお客さんが割といますね、とお兄さんは嬉しそうだ。有明海の魚介は6〜7月が旬とのことで、この時期にはムツゴロウも刺身でいけるとくれば、夏の再訪の楽しみができたというもの。とはいえ、見た目が恐怖なほかの魚介たちも制覇の覚悟で来なければ、とすでに戦々恐々としてしまう、有明海の個性派ローカル魚である。