ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

エクストールイン厚狭@厚狭

2017年11月06日 | 宿&銭湯・立ち寄り湯
初めて下車した山口県厚狭では、駅前「エクストールイン」に宿泊した。7000円ながらサウナと露天風呂付きの広い大浴場、マッサージチェア無料で大量の漫画があるリラクゼーションルームが完備。部屋も広くバリアフリーで、部屋着はスウェット、枕元には電源とUSB端子があるなど、至れり尽くせりでオススメだ。

難点は、周囲に全く飲食店・コンビニがなく、駅ナカのキヨスクで買った弁当での夕飯となった。

ローカル魚でとれたてごはん…唐津 『玄洋』の、イカの活け造り

2017年11月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
玄洋は唐津神社の裏手にある海鮮料亭。座敷席に囲まれるように生簀が据えられ、奥の水槽にはツイーと群泳するイカの水槽も。名の通り玄界灘の魚介が集まっているよう。小杉買った箸置きの魚種を賞味したいところだが、サバは話題の新進ブランド魚の「Qサバ」、クエは滅多に入らない幻の大型魚と、なかなかの高級魚介だけに迂闊になぞらえたら財布に響きそうだ。

せめてイカならば予算内か、と品書きを眺めたら、まる一尾のつくりがなんと3000円とあった。普段食べるイカ料理の相場からすると結構なものの、「活け造り」が水揚げが近い立地ならではの仕様なのだろうか。これに決定、小鉢や茶碗蒸しなどがつく「活け造り膳」も勧められたがさらに高いので、ご飯だけ頼んでイカオンリーの刺身定食といってみよう。

イカのつくりと聞き、角皿にのった白い刺し盛りをイメージしていたところ、運ばれてきたのは砕いた氷がたっぷりの大鉢で、上にはスケルトンの謎の物体が横たわっていた。なんと、耳(えんぺら)から頭から下足まで全部揃った、イカのまるごと完全体ではないか。イカソーメンとかイカリングとか、イカ料理といえば一部の部位が食材になっており、まる一尾をひとりで、しかも生で食べることなどまずない。恐る恐る観察すると、三角のえんぺらは敷かれた笹が透過するほどの透明度で、まるで現代アートかのように見とれる美しさ。対照的に頭の部分はギョロ目が威圧し、ゲソは箸が触れるとウネッと踊り思わずビクッ。どこからどう食べて良いものか、軽く途方に暮れてしまう。

潮流の早い対馬暖流が流れる玄界灘は、身の締まった魚介の宝庫でもある。イカもこの海域の主要漁獲で、佐賀県では呼子地区を中心とする玄海地区で、主に水揚げされている。季節ごとにとれる種類が変わり、夏秋は透明度があり食感の良いヤリイカ、冬春は身が厚く甘みの強いミズイカが代表的だ。生簀から出して間髪入れずにおろし、まだ動くうちにお客に供する。語るは簡単だが、イカは人の体温で火傷するほど温度の影響を受けやすく、鮮度落ちも激しいため、捕らえてから活きたまま運んで料理屋で出すのは、かなりのスピードと設備を要するという。こうした技と鮮度も味と値段のうちと思えば、いい値段がするのもさもありなんなのだろう。

えんぺらの刺身を数切れつまみ上げると、縦横に包丁が入った透けた身は意外と薄い。醤油をつけて一口スルリ、といったところでこれは驚愕。ゴリゴリの歯ごたえは生命感にあふれ、ピュアな甘さは見た目と同じ、透明感ある味わいだ。イカの地力は鮮度にありというが、これまで出会ったことない衝撃的なイカの味に、思いがけず身ぶるいしてしまう。甘めの醤油がイカの甘味をより引き立ててくれ、逆にワサビは使わないほうが、持ち味を損なわないよう。ご飯を頼んだのが大正解で、イカをつるりとすすっては飯をかっ込むと、シンプルイズベストな至福のイカ刺し定食に、もう笑顔が収まらない。

そんなバキバキと威勢のいい歯ごたえも、食べ進めるうちにクキクキ、シコシコとだんだんトーンダウンしてくる。見た目の透明感も、次第にほんのり白っぽさがかかってきた。命の旨さは時間の経過とともに儚く収束していくようで、食欲に合いの手を入れるように時折踊ってたゲソも沈黙した様子。するとお姉さんが、まだ食べ終えてない皿をいったん下げます、とやってきた。刺身のイキが落ち着いてきたら、ゲソと一緒に天ぷらにするのが、当地流のイカ刺しの食べ方だそう。品書きに特記がなかった分、想定外に料理が倍増して得した気分だ。

ほどなく再登場した揚げたてのイカは、歯ごたえがすっかり復活していた。ゲソはブツブツと小気味好く、えんぺらはパッキパキに元気に。加熱したので、生とは違う膨らんだ甘みがまたうまく、刺身の生(き)に負け気味になったタイミングにも嬉しい。塩だけでいただくのが、イカならではの素地が出てきてよろしいよう。半分残しておいたご飯とともに、後半は至高の天ぷら定食にて締めのご飯となった。

ローカル魚でとれたてごはん…佐賀・唐津 「小杉窯」の、魚介の唐津焼いろいろ

2017年11月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
唐津の街中を歩いていると、至る所で唐津焼の店を見かける。安土桃山期から当地に根付いた焼き物で、茶陶器の名品を生み出す傍ら、普段使いの品々も広く産出しているのが特徴だ。昼食後に駅前の「五福の縁結び通り」で見かけた店に立ち寄ってみたら、一風変わった品々につい、足が止まった。様々な魚種をかたどった器や置物が並ぶ中、目をひいたのは魚の箸置き。たくさん並ぶ様は魚群のようで、どれも緻密かつ躍動感にあふれている。窯元に行けば魚の陶芸作品がいっぱい直売されている、と聞いては、午後の城下町巡りはさておいても、玄界灘に面した魚どころの焼き物を、鑑賞しに行かねばなるまい。

駅で借りた自転車を、線路に沿ってこぐこと一駅ほど。和多田駅そばの丘の上にある窯「小杉窯」の呼び鈴を押すと、突然の訪問にも関わらずご主人がにこやかに応対してくれた。名窯地の陶芸家と聞くと、年配で髭の面持ちの求道的な先生を思い浮かべるが、作家の小杉隆治さんは40歳前後とお若く、明るく気さくな雰囲気にこちらもリラックスする。そして2階のギャラリーに通されると、棚と壁一面に唐津焼の魚、魚、魚。皿に香炉に置物など、魚をモチーフにした作品群に囲まれて、いきなりテンションが上がりまくりだ。

小杉さんによると、氏の製作する作品の品数というか魚種は現在、120種を超えるそうである。カサゴやアラカブやフグなど丸みのある魚は、香炉などのふた物に。ヒラメやカレイやチヌなど平たい魚は皿にするなど、魚の形態で作品を作り分けているという。なので見た目のみを重視したオブジェではなく、実用にかなった日用雑貨なのがポイントだ。「魚図鑑」と銘打ったカタログの表紙には、マダイの平皿に盛られた刺身が実にフィットしていて、うまそうに見える。使ってみた方からは食欲が沸くと言われるそうで、食材になじむのは同じ食材の絵柄、魚料理には魚の器がよし、ということか。

ところで、なぜ魚をモチーフにした作品を主眼に置いたのか尋ねたところ、「唐津焼で魚を焼いている作家は、ほかにいなかったからですね」との答えが返ってきた。小杉さんは唐津焼の窯元の家系という訳ではなく、この世界に携わりはじめたのは大学を卒業した時から。その際、唐津に多くの窯がある中で、自分のみが作れるものを考えての結論が、魚の唐津焼なのだそうである。小杉さん自身も釣りをしていたことがあり、魚が身近な題材だったのも一因とか。周辺の唐津沖や玄界灘は、回遊魚や磯魚や砂地の底魚など、多彩な魚種が棲息している。バラエティに富んだ題材に恵まれているのも、このテーマの創作に向いた環境と言えるだろう。

そして先ほどの店でも目に止まった箸置きは、このギャラリーでは魚群の大きさがさらに倍増。80種あまりの魚種が勢ぞろいする様は、まさに唐津焼の立体お魚図鑑だ。見て分かるなじみの大衆魚では、アジにサバにカツオにイワシ、サケなどが。鯛類だけでもマダイに始まりイシダイ、イシガキダイ、チヌにメジナ、変わり者ではコブダイのたんこぶにアオブダイのエメラルド色まで、しっかり表現されている。ご当地近海ものもちゃんとフォローされており、有明海はムツゴロウにワラスボ、アゲマキなど。 唐津ゆかり魚も、呼子のイカにくんちで供え物となるクエ、養殖が盛んなクルマエビと、ローカル魚の勉強にももってこいだ。

夢中になってひとつひとつ手にとって観察してみると、細部の造作まで実に忠実に作られているのにも、改めて気付く。製作の際には写真や図鑑などの資料も参考にするそうだが、いちばんの参考情報は「釣ったときの記憶ですね」と小杉さん。釣り上げた際のリアルな感触を造形にすることが、この躍動感とリアリティにつながるのだろう。一方、適度なデフォルメもポイントで、特徴をあえて強調させることで、キャラを押し出しているそうだ。いかつい顔のヒラメは唐獅子のような睨みを効かせ、とぼけた面構えのカワハギはひょっとこ面を引き出す。どの魚にもかならず、かっこよさと愛嬌があるんです、とのご主人の言葉から、作品愛であり魚愛が伝わってくる。

もちろん何尾か連れて帰りたくなり、当地ゆかりの魚からクエとイカに加え、唐津の新ブランドサバ「Qサバ」で売り出し中のサバを選択。大きめに作られているので飾り物にもお勧めだそうで、支払いのため三つ並べた卓の一角に、ミニ玄界灘らしい海風景が即座に広がって見えた。

ローカル魚でとれたてごはん…佐賀・唐津 「お食事処唐津」の、唐津鯛の薄引き

2017年11月06日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
唐津の街に秋の訪れを告げる一大イベント、「唐津くんち」は、唐津神社の秋の例大祭である。重さ2〜4トンもの14台の曳山が、3日間に渡り唐津城の城下町を隅々まで引き回される様は、荒々しくもどこか雅やかだ。唐津を訪れたのは祭りの一週間後で、駅前へ降り立ったが賑わいの余韻は感じられない。せめて祭りの所以でも学んでいこうかと、歩いて10分ほどの「唐津曳山展示場」へと、足を運んでみた。曳山の収蔵庫を兼ねた施設のため、すべてが勢ぞろいする様はまさに圧巻。一番の「赤獅子」をはじめ、鳳凰や飛龍などの縁起ある曳山、義経や謙信や信玄の兜といった武将ゆかりの曳山など、大きさに感嘆しては細部の造作に見入ってしまう。

絢爛豪華、勇猛果敢な見栄えの曳山の中で一台、ちょっと変わった姿のものが目を惹く。真紅の大鯛で、とぼけたような表情のクリッとした瞳に、場内へ入ってからずっと見つめられているような。近寄って見上げると、ピンと立った尾ひれに「へ」の字に凛々しく結ばれた口元など、本物らしい造作にお魚好きとしては親しみが湧く。この五番の「鯛」は曳山の中でも人気が高く、観光ポスターにもよく登場するなど、祭りのアイコン的存在のようだ。映像で見た巡行の様子は、ヒレを羽ばたかせて頭を上下に揺らし、まるで群衆の中を泳いでいるかのよう。魚を並べて売っていた魚屋町に由縁した曳山というから、ローカル魚とのご縁も感じられてならない。

隣接する唐津神社に参拝してから駅へと戻り、観光案内所が入った施設「ふるさと会館アルピノ」へと向かう。お昼の腹ごしらえ向けに市街の店をリサーチするつもりが、ここの3階に食事処が入ってますよ、と自らの施設を勧められた。ズバリ「お食事処唐津」との店名、そこに添えられた「地産食彩」との文字に惹かれ、勧めに従いここに決定。入った途端、水槽に悠々泳ぐ大鯛と目線がバッチリ合ってしまい、展示場に続いて鯛に導かれた気分だ。ならば、と選んだ「からつ四季膳」は、唐津鯛薄引きに鯛の荒炊きの、鯛料理ツートップが魅力的な膳である。

荒炊きといえばカブトやカマといった「アラ」の煮付けを思い浮かべるが、膳の小鉢にはさっきの鯛の曳山のように円らな瞳のカブト煮ではなく、切り身がひと切れ煮汁に浸っていた。しっかり締まるほどに煮付けてあり、ホコッとほぐれた身は煮汁が中まで真っ茶に染みている。荒炊きは唐津名物の鯛料理の一つで、玄界灘の鯛を用いて独自のタレで煮付け、料亭や料理旅館ごとに味を競っているという。醤油とみりんが甘辛く効いた濃い味付けながら、身の下地がしっかりしているから、味のバランスがいい煮魚である。

佐賀県の北側沖に広がる玄界灘は、南方から流れ込む対馬暖流のおかげで、優良な漁場が形成。アジ、サバ、サワラ、カンパチなど、多彩な魚種の漁が盛んに行われており、マダイも主要漁獲の一つだ。楕円形の網を1〜2艘の船で引く「ごち網」や、一本釣りでていねいに漁獲される天然もののほか、玄海町では波穏やかな仮屋湾での養殖が、古くから盛んである。脂ののりがよく甘みが強いのが特徴で、唐津くんちの時期はちょうど秋口の「紅葉鯛」が旬。江戸期に唐津城の殿様に献上された由縁もあるとかで、郷土の祭りに殿様にご縁ありと、当地の鯛は地域の歴史に根付いた、由緒があるローカル魚といえそうだ。

荒炊きは骨がないため食べやすく、煮汁に身をからめながら2、3口で平らげたら、もう一品の鯛料理・薄引きも一切れいただく。箸で引き上げると向こう側が透けて見えるほど薄く、まるで鯛のてっさ(ふぐ刺し)だ。そしてふぐ刺し同様、口に入れてからのインパクトが凄いことといったら。ザクザクと強靭な歯ごたえ、身のかすかな淡白さ、皮目の土の香り、そして最後の脂甘い後味と余韻。どれもがきっちり立っており、正しい順に立ち上がっては引いていく。遠方から次第に到来し、通過時の最盛な賑わいの後、遠ざかる余韻。曳山の巡行にも似た、序破急がはっきりした味わいに、鯛の味の印象を新たにした思いがする。

数々の小鉢も平らげ、同じく地元の名物魚介であるイカ丼もいただいたら、玄界の恵みを充分堪能。店が標榜する食の彩りを、華やかに楽しむことができた。支払いの際、出迎えてくれた大鯛君に目礼しようとしたら、なぜか水槽にその姿がない。昼時で埋まった客席を見渡すと、自身が頼んだ膳が各所にも出ているよう。どうやら唐津散策に訪れたお客の胃袋へと、巡行していったようだ。