ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…長崎・諫早 「干拓の里」の、ムツゴロウなど有明海の魚介

2017年11月05日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
諫早駅前の「山勝食堂」にて、長崎で人気のローカル魚・ヒラサことヒラマサの刺身定食をいただいて、有明海の魚探訪の準備は万端となった。いざ諫早駅を後にして、ローカル線の島原鉄道に揺られること4駅。湾の方向に向け広がる干拓の農地を遠望しながら、15分ほど歩いた先にある「干拓の里」へとやってきた。名の通り、有明海と干拓にまつわる総合施設で、レジャーやアクティビティや物販などが揃う中、お目当ては2つの展示施設だ。まずは「干拓資料館」へと足を運び、有明海のデータと潟が形成される仕組みといった、基本を押さえることにしよう。

冒頭の展示には有明海の数値情報が羅列されており、南北96キロ、平均幅18キロ、総面積は1800平方メートルの広さに対して、20メートルの平均水深は確かに浅い。日本一の6メートルの干満差が生じるのはこのためで、この干満が筑後川や矢部川が流し込んだ泥質の堆積物を流す海流を生み出し、湾奥の諫早湾付近へと運ばれて遠浅の潟が形成される要因となっている。ちなみに近年、有明海の魚介の漁獲が減った理由として、干満の周期や潮流が潮受け堤防のせいで変わってしまったことが挙げられているとも。デリケートな潟の起因からしても、人為的要因で湾の環境が変わってしまうことは、確かにありえなくもない。

そしてこの潟で形成された生息環境こそが、有明海の漁業が豊かな由縁といっても過言ではないだろう。塩分濃度が低い海水と、有機物を多く含む潟の土壌のおかげで、魚類166種、エビ42種、カニ96種、貝類214種を数える、豊かな海域が形成。泥質な漁場は特殊な漁具や漁法を生み出し、展示にもよその漁港では見たことのない道具類が並ぶのも面白い。ムツゴロウを狙う「むつかけ漁」の模型では、板のそり「はね板」に乗って沈まずに操業する様子が再現されていた。はね板は「潟スキー」とも呼ばれ、片足で泥の中を漕いで移動するのは、結構な重労働だろう。巣穴を見つけたら5メートルほどの竹竿を使い、鉤針で引っ掛けて釣るのだが、桶の縁を叩いた音に驚いて出てきたのを狙うのがユニークというか、のどかというか。

有明海と潟の理解が深まったところで、もう一つの見どころ「ムツゴロウ水族館」にもお邪魔してみる。中央に据えられた「干潟水槽」には、見た目や動きが独特過ぎる潟の魚が勢ぞろいだ。退化した目と鋭い歯の大口から「有明海のエイリアン」との別称があるワラスボに、巨大な片手のハサミを来い、来いと振って誘うシオマネキ。愛嬌のある寄り目で潟をピョンピョンと跳ね回るトビハゼは、水辺で半身浴したり岩の上で甲羅干ししたりと、まるで潟ライフを満喫しているかのようにも見える。

トビハゼは10センチ弱と小柄なのに対し、似た見た目で20センチほどと大きいのが、ムツゴロウだ。泥の中に掘った1メートルの巣穴から顔を出し目玉をキョロリ、出てきては大きな胸びれで潟をヒョコヒョコはい回り、動きは実にユーモラスで癒されること。時々ど突き合ったり、頭を膨らませたり、緑の背びれをたてて威嚇したりと、縄張り争いも忙しそう。顔や印象と違って動きがなかなか俊敏かつ激しく、先ほど見たやや遠くからの引っ掛け釣りの漁法が、理にかなっているのもわかる。

諫早てくてくさんぽ2

2017年11月05日 | てくてくさんぽ・取材紀行
諫早さんぽ。「干拓の里」は、諫早駅から島原鉄道で4駅+徒歩1.5キロ。ファミリー向けのレジャー施設だが、干拓資料館とムツゴロウ水族館をぜひ見たくてやってきた。資料館ではムツゴロウ漁に使う潟スキーなどの特殊漁具が面白く、水族館では干潟ジオラマのムツゴロウ君たちの動きが、なんとも愛らしい。

これは飼いたい、と売店を覗いたら、一夜干しにされて売っていた也。

ローカル魚でとれたてごはん…長崎・諫早「山勝食堂」の、ヒラスの刺身定食

2017年11月05日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
肥前鹿島駅を出た長崎本線の特急電車は、しばらくすると左手に有明海を見ながら走っていく。あたりは湾奥寄りで水深が浅く、乱立する海苔養殖の竹立てや、干潮で干上がった船溜りに転がるように停泊する小型漁船といった海岸風景が、実に独特である。かすかに見える対岸の雲仙岳の山容がくっきりしてくると、遠浅の内海らしい奥行きのある眺めが展開。そして諫早駅の手前、小長井駅を過ぎると、湾内に伸びる人工物が視界を横切って飛び込んできた。手前の排水門から対岸の雲仙岳の裾野に向けて、一直線に続く長い長い潮受け堤防は、湾を仕切り閉じ込んでいるかにも見える威容である。

有明海の中程から西へ入り込んだ諫早湾は、20年ほど前に大規模な干拓事業が開始された際、全国的に話題となったことがある。仕切り板が続々と海に落ち込んでいく、湾を仕切る潮受け堤防の施工時の映像を、覚えている方もいるのではなかろうか。そしてこの堤防はその後、有明海で海苔が採れなくなった際、漁業に悪影響を及ぼしているとの疑念が表面化。以来、堤防の排水門を開放して検証を求める漁業者と、農地への塩害を懸念して反対する農業者、さらに事業主体である国も交えての協議が、長年繰り返されている。特殊な環境の海域ゆえ、人為的な構造物の影響は、予測を超えて計り知れないのものがあったのだろう。

有明海の漁業問題の象徴を眺めつつのアプローチとなったが、この海の豊饒さ、個性あふれる魚介の魅力に、惹かれるものがあることに変わりはない。有明海の仕組みと干拓の現状を学んで、豊かなローカル魚に舌鼓を打つべく、諫早駅へと降り立ったら何はともあれ、散策前の腹ごしらえだ。駅の正面で目に入った駅前食堂「山勝食堂」の、気取らぬ佇まいに迷わず飛び込み、カウンターの一角に落ち着く。壁に貼られた品書きは丼、麺、定食が並び、揚げ物系の定食や郷土麺のチャンポンや皿うどんに、がっつりと対峙する地元の高校生やサラリーマンが多く、店内はなかなかの熱気にあふれている。

自分も負けずにがっつりとパワーチャージといこうか、と品書きを眺め思案していると、カウンター脇の壁面の日替わりボードにある、聞きなれない刺身が妙に引っかかる。「ヒラス」との名にローカルさを感じ、これとご飯に味噌汁を組み合わせた、オリジナルな日替わり定食をオーダーだ。刺身は単品で500円の安さながら、10切れ盛りとたっぷりなのが、大衆食堂らしいありがたさ。歯ごたえがザクザクバキバキとイキがよく、白身の味わいは極めて淡麗な、若魚っぽい瑞々しさがある。これに長崎特有の甘い醤油と、薬味の柑橘のレモンを合わせたら、身の淡さとほの甘さが消されず活きてくるのがまたいい。

見た目からしてブリの幼魚か何かかと思い、お兄さんに聞いたところ、正体はヒラマサとのこと。ヒラスは長崎での地方名で、ブリに比べて赤身の部分が薄く、脂甘さがほんのりしているのが特徴だそうである。ヒラマサは外海を回遊するため野母崎や五島などで水揚げされ、長崎では人気の高いローカル魚なのだとも。これからクローズな内湾の個性派魚介を訪ねる前に、長崎の定番人気の魚介を押さえられたということだろうか。