ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん115…『チョンウォンスンドゥプ』と、『ハルモニグクス』の冷麺

2009年06月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 

 新沙の「プロカンジャンケジャン」で、ソウル一うまいというカンジャンケジャンを堪能して、店を出てもまだまだ宵の口。タクシーで東大門市場へと繰り出し、夜のファッションマーケット街をぶらり。さらに地下鉄で明洞に戻り、昨晩に続いてナイトマーケットをぶらりとしたところで、腹具合も時間も適度な夜食タイムとなった。
 今宵の深夜の韓国ローカルごはんは、「スンドゥプ」という、豆腐の小鍋チゲである。店は、ホテルのすぐ近くにある『チョンウォンスンドゥプ』。1968年に開業の老舗の支店だ。スンドゥプも、韓国庶民のファストフード的なものだが、この店は木造の内装にメタリックなテーブルまわりと、まるで創作フレンチレストランのように、なかなかおしゃれ。日本人の女性客が多く、スタッフも日本語で楽しく応対している。レジ横に貼ってある、会話の日本語訳例を覗き見ると「イケメンでしょう?」なんてのがあるのが面白い。

 パリッとした感じの兄さんに、席へと案内されると、隣のテーブルの女の子3人組は、豪勢に焼肉を頼んでいる。話からして日本人のようで、サムギョプサルや骨付きカルビを店の人にハサミで切ってもらいながら、何やら談笑している様子。焼肉の評判も高いらしいが、昼間に「ひとり焼肉」はこなしているので、シンプルな「豚肉スンドゥプ」を注文することに。
 すると例によって、前菜の皿がずらりと並んだ。えごまの葉の漬物、コンナムル(豆もやし)とニラのコチュジャン・胡麻油和え、ヨルキムチ(ダイコンの葉のキムチ)は店のお決まりで、ほかこの日はトッポッキと、寒天か煮こごり風の一品が出された。
 豆腐チゲが来るまで、これらをつまんでいると、ダイコンの葉のキムチは乳酸発酵していて、野沢菜漬けに似た風味。コンナムルとニラの和え物は韓国海苔も刻んでまぶしてあり、香ばしい香りが食欲をそそる。

 

店は明洞の繁華街からやや入ったところ。スンドゥプは単品でこんなにつく

 しばらくして、グツグツと煮立った小鍋が登場。唐辛子の真っ赤な汁の中には、豆腐と豚肉、ニラ、ネギのみとシンプルだ。テーブルの上のかごに入った、取り放題の生卵を煮立っているスープに落とし、大振りの豆腐からまずはひとつまみ。
 すると凝固する直前のような柔らかさでフルフル、トロリと味が濃い。スープは見かけほど辛味はないが、スープが激熱のために辛さが強調されているよう。具材からほど良くダシが出ていて、えらく辛いのにスプーンがとまらなくなる、くせになる辛味である。
 豚肉は薄いばら肉で、脂身が多くスープの辛味のおかげで重さを感じない。味はやや抜け気味で、スープに味を出している様子。脂身がたっぷり付いていて、これがトロリと心地よい。とにかく、辛味の強いスープのおかげで、豆腐、豚肉、ネギの具に一体感を感じる。

 一緒に、小さな石釜入りのご飯も添えられているが、このご飯はスンドゥプのスープに入れるのではない。このご飯と前菜を混ぜることで、自分で簡単ビビンバを作るのが面白い。前菜のコンナムルとニラの和えものが入った、使い込まれた金属製のぼこぼこの器に、添えられた小さな釜入りのご飯を3分の1ほどよそい、スンドゥプの豆腐とスープも3、4さじ足して、ぐるぐるかき混ぜるとできあがり。器が貧相(?)なこともあり、見た目は猫ごはんのようである。
 味は見た目によらず、なかなかうまい。くずれた豆腐がご飯をマイルドに包み込み、生ニラと豆もやしがバリバリ、ツンツン。器にはコチュジャンが元から入っており、ニラとの相乗効果もありスンドゥプよりもはるかに辛い。韓国のりと胡麻油が香ばしく、食欲をそそってくれる。スンドゥプよりもこちらのほうが、鮮烈で印象に残ったかも知れない。

 

熱々のスンドゥプは結構辛い。右はお得な簡単ビビンバ

 翌日はいよいよ、ソウル食い倒れの旅の最終日。朝ごはんの『ハルモニグクス』は、まさにソウルの人たちの朝飯どころ、といった感じである。明洞の繁華街から1本入った、裏路地にある店で、まるで勝手口のような入り口の近くには、野菜を切ったり下ごしらえをしているおばちゃんの姿も見られる。
 この日は週のはじめの月曜日、しかも9時前とくれば、店内は出勤前のサラリーマンで満卓状態。狭い通路を何とかかいくぐり、これまた小さめの卓につくと、客やおばちゃんが背中にどんどんぶつかりながら行き来している。

 店名の「グクス」は麺を指すだけに、壁のメニューを見ると、麺類が充実している。名物の冷麺のほか、ラーメン、ちゃんぽん、人気メニューの豆腐そうめんなど。さらにチャーハンにビビンバ、トッポッキ、豆腐料理まで、一品料理が日本円で1000円しない手ごろな値段だ。
 初日に豆乳冷麺をいただいたのを思い出し、ここでは定番の冷麺を注文。冷麺といえば、キムチ入りの真っ赤なスープに腰のある透明な太麺が思い浮かぶだろうが、ここの冷麺は透明のつゆに、そば粉を使い茶色がかかった麺。これが平壌式の伝統的なスタイルで、具はダイコンとゆで卵とシンプルだ。深夜まで食べ歩いた翌日の朝ごはんにはありがたい。

 

路地をはいったところの店。冷麺はキムチが別盛りなのでシンプル

 麺は極細でかなりちぢれており、すするとまるで糸こんにゃくのようにツルツル。日本の冷麺の麺がクキッ、と硬めなのに対し、これはやたらに弾力があり、細さもあってなかなかかみ切りづらい。そのまま飲み込み、ひんやりしたのど越しを楽しむ麺のようだ。  
 スープに浮いた氷はスープを凍らせてあり、溶けてもスープが薄くならない仕組み。そのまま飲むとさっぱりしているが、卓に添えたキムチとコチュジャンを入れると、赤みが付いて日本で食べる普通の冷麺風に。それほど辛味はなく、コチュジャンに青ネギがいっぱい入っていて、香味が結構強い。酢とからしが添えて出され、これらを入れると刺激で朝の胃袋が動き出し、最終日の食べ歩きのスタートにはいいかも知れない。

 昨晩のスンドゥプの店のように、自分で選ぶ店はガイドブックに頼っているせいか、日本語が通じて愛想がいい分、どこかよそ行き、旅行者向け的な感じがする。それに対し、この旅行の案内人が先達してくれる店は地元向けばかり。満席、雑然、言葉通じずだが、味のほうは文句なし。加えてこちらのほうが、ソウルの人たちの素のごはん、素の様子が伺えて面白い。
 海外旅行も3日目ともなると、慣れてきて度胸もついてきたから、こうした店へも臆せず入れるようになってくる。ただ、残念ながらこれが最終日。せめて今日のお昼と、飛行機に乗る前の早めの晩御飯ぐらい、ガイドブックを使わずに自分の勘頼りで、飛び込みの店選びにチャレンジしてみよう。(2009年5月11日食記)