ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん114…ソウル 明洞の屋台と『シンソンソルロンタン』のソルロンタン

2009年06月06日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

 ソウル1日目の午後は、ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」のロケパークを見学して、夕方に再びソウルの中心部の鐘閣駅へと戻ってきた。参加者全員で、ソウルディナーの1回戦を付近の焼肉屋で済ませ、食後にはハイソウルフェスティバルのイベントが行われている、清渓川路の遊歩道をぶらぶら散歩。気がつくと、ホテルがある繁華街の明洞キル(通り)までやってきていた。
 あたりはナイトマーケットが展開していて、裸電球が煌々と照る露店が多数出店、店頭でいろいろなものを販売している。 ピアスやネックレス、髪留めといったアクセサリー、パンツやベルトにジーンズといったファッション、チョゴリを着た動物ミニぬいぐるみに唐辛子ストラップ、東大門の絵入りしおりなど、韓国雑貨を売る店などが軒を連ねている。雑貨の小物で、日本円で数百円程度だから、ばらまき土産にはもってこいだ。

 中にはどっかで見た何かのキャラに似ている微妙な柄のTシャツや、「ばったもの」「にせもの」とひらがな表記の貼紙を掲げて、シャネルやヴィトンを売ってたり、日本人観光客を結構意識しているよう。 そのせいか、店の看板に怪しげな日本語があちこちに見られる。
 たとえば「大長今(=チャングム)マッサージ」「やぎにく(山羊肉ではなく焼肉)」「世界いのビール(送りがなダブり。いのビールではない)」とか、音引きが半角ハイフンとか。ウォンビンが「うぉンビン」と、韓流トップスターの名がひらがなカタカナ交じりだと、なんだか間抜けに見えてしまう。

 沿道にはフードを扱っている屋台も目立ち、フルーツジュースの店、フライドポテトをどっさり盛る店、干しダコを売る店などがあり、テイクアウトには事欠かない。 店を眺めて、子供用の適当な土産を買って、小一時間ぶらついているとほどよく小腹がすいてきたので、通りの入り口にある屋台に落ち着くことに。
 店頭ではウインナーの串焼きとか、魚肉ソーセージのアメリカンドックとか、ジャンク系が地元客に人気の中、せっかくなので韓流ファーストフードを試してみたい。おでんにトッポッキ、スンデの3品を注文。頼んだ品数がちょっと少ないからか、店のお姉さんは少々機嫌が悪げな様子だ。

 

店頭の鍋や鉄板に並ぶ品がうまそう。おでんはカルビのようにハサミで切ってくれる

 ならば気を遣って、というか自分たちが飲みたいから? ビールをいっぱい頼もうとしたら、ビールは店頭横の冷蔵庫から缶ビールを持ってきて払う仕組みだ。銘柄はローカルブランドらしい、CASSとhiteの2種で、韓国で有名なOBビールは、意外に見かけない。
 トッポッキは韓国の有名なファーストフードで、韓国ドラマでもカップルがおやつに食べているシーンに覚えがある。ひとことでいえば、細長い餅を甘辛いスープで煮たものだ。 スープがどぎついオレンジ色の見た目通り、びりびり強く辛く、厚めのもちにしっかりからんでなかなかうまい。
 味付けには砂糖が入っており、甘い隠し味のおかげで、より辛味が際立っているよう。食べるたびに口中がしびれ、全身に汗がぶわっ。おかげで、ライト系の韓国ビールがよく進む。

左からトッポッキ、スンデ、おでん。おでんは牛スジのようだが魚のすり身

 スンデは春雨やもち米を、豚の血を加えて腸詰にした珍しい一品。見た目は真っ黒で、ソーセージというかサラミに近い。食べてみると薄い袋入りの春雨といった感じ。肉がないため軽く、春雨が麺風な食べ応えなので、見た目とのギャップに驚く。味は春雨ともち米がメインだから穀物系だが、豚の血は生臭さはなく、肉なしなのにコクが出ている。
 珍しいというか、面白いのがおでん。韓国語でも「おでん」で通じ、専用のたれをつけていただく。見た目からモツかスジかと思ったら、食べてみるといわしのつみれの味。細長いすり身揚げを串に刺し、だしで煮込んであり、唐辛子や味噌系の強い味付けが続く中で、和風のホッとする味だ。おでんのつゆがスープ代わりに出されるのも、韓国おでん流なんだろうか。

 
 

熱気あふれる明洞のナイトマーケット。フードを扱う屋台が意外に多い

 おでんをかじってCASSビールをあおると、木陰の下の屋台には気持ちいい夜風が吹いてくる。週末の通りは夜が更けるにつれ、いよいよ人通りが増え、ソウルの夜はより熱を帯びてきた。屋台を後にしてもまだ21時と早く、腹ごなしにマーケットをさらにぶらぶら往復してから、夜食にもう1軒はしごすることに。マーケットの屋台がなくなるあたりにある『シンソンソルロンタン』を訪れた。
 入り口をくぐると、兄さん姉さんが愛想よく迎えてくれた。ソルロンタンとは、牛肉や骨、内臓をじっくり煮込んだスープのことで、いわば牛まる1頭入りのスープ。サムゲタン(丸鳥のスープ)、コムタン(テールスープ)と並び、韓国料理を代表するスープの一種だ。

ソルロンタンはキムチ、ごはんつき。スープに入れずにいただく

 この店はチェーン店で、ソルロンタンの味には定評があり、24時間営業の店内には深夜になってもお客の姿が絶えない。チェーンといっても日本のファストフード風ではなく、大衆食堂のようなたたずまいで、ひとり客や女性でも安心してぶらりと入れるのがいい。
 壁に掲示された、料理の写真と若干の日本語入りのメニューによると、各種ソルロンタンのほかに餃子が店の名物らしい。惹かれたが、3軒目ともなればいささか食べ過ぎの感があるので、ここはオーソドックスなソルロンタンを注文することに。

 しばらくして、器に入った白濁のスープと、ごはんの器が添えて出された。具はネギとわかめに、薄めに牛肉がひときれ。さっそくスープをすくってみると、あっさりしているが牛肉のいろいろな部位を煮込んでいるだけに、重層的なコクのある風味がする。
 全体的に味が淡く、昼の冷麺と同様に好みで塩で味付けしたり、卓上に添えられたキムチ入れから、キムチを好みで小皿に盛ってつまみながらいただくしくみ。塩味をしっかりめにつけると、スープにこくが出てきてなかなかうまい。具の牛肉は薄いけれど、だしがらでなく味が凝縮、やわやわに煮えているがかみ締めるごとにうまい。

 

仙人のイラストが目印。牛肉は自然にほぐれるほどよく煮えている

 キムチはカクテキと白菜キムチの2種で、白菜は店の人がバチバチとハサミで切って、小皿にとってくれた。ニンニクがよく効いていて、この日食べたほかの店のキムチよりビリッとくるが、辛味というより酸味の感じがする。カクテキもきんきんにすっぱく、日本の古漬け風か。味が強めのため、ソルロンタンの味を楽しむなら、あまりつまみすぎないほうがいいかも。
 スープには、仕上げにご飯を入れるのが地元流。1/3ほど浸してしばらく置いてからゆっくりくずすと、スープが水分多めのごはんにしみていく。味はライトな雑炊というか、塩ラーメンのラーメンライスのようでもあり、ほどよい塩味で食欲が進み、深夜なのにごはんをすべて食べてしまった。

 店を出るとそろそろ日付が変わる頃で、地元コンビニのBY THE WAYで飲み物と、本場ロッテの菓子でも買って、ホテルに引き揚げよう。明日はソウル市民の台所・ノリャンジン水産市場を訪れる予定。早起きになるけれど、1日が長くなる分、ソウルのローカルごはんを数こなせる、と思えば、5時起きも何のその? (2009年5月9日食記)