ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

【被災地激励投稿】ローカル魚アーカイブス…新たなブランド魚として売り出し中 茨城・日立の口福アンコウ

2011年04月30日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

 

 茨城県北の漁業の町、日立市にて催された、地元の魚介の「地産地消」をテーマにした視察に参加した。県内屈指の沖合底曳き網漁の拠点である、久慈漁港の魚市場を歩いていると、ヒラメやカレイ、ミズダコなど大小様々、色とりどりの魚介が並んでおり、とても賑やかである。

 そんな中、箱の中で白い腹を上にしてドテッ、と寝っ転がった魚を発見。この季節の茨城を代表する地魚といえば、何といってもアンコウだ。茨城のアンコウといえば福島との県境に近い平潟や、水戸に近い大洗が有名である。そんな中、日立市のアンコウの水揚げが、茨城県内の3割を占めるのは意外に知られていない。

 漁師によると、「昔は20キロを越える大物がとれたけど、今はすっかり小柄になっちゃったね」。箱に入っている重さを示した紙には、小さいのが1・2キロ、大きいのが6・5キロと書かれていた。いい値がつくのは5~8キロぐらい、10キロを超えると歩留まりが悪く、かえって値が下がるそうである。箱を覗き込むとほら、とぶらりと持ち上げてくれ、大口をあけたユニークな顔がこっちを向いた。

 

 アンコウとにらめっこしていると水揚げ作業が佳境に入ってきたようで、じゃまにならないようにこのあたりで視察は終了。日立駅前のホテルに入ってひと息ついたら、ちょうど懇親会の時間となった。この日眺めた様々な底曳き網の魚介を頂きながら、視察のおさらいという訳だ。

 会場である『割烹まんぼう』は、地元で水揚げされた魚介の料理が自慢で、特に冬場のアンコウ料理に定評があるという。板長によるとこの日は、「久慈浜の海の幸彩々」と題して、アンコウのほかサクラダコ、ボタンエビ、ツブ貝やドンコなど、久慈浜で水揚げされる日立沖の地魚を味わうこととなった。

 先付けと酒菜には、さっそくアンコウを使った小鉢がふたつ並んだ。あんこう友酢は、アンコウの皮などの煮こごりに蒸した白身が添えられ、肝と味噌を練って酢を加えたものにつけて頂く。白身から頂くと淡白な中、身の甘みがぐっとひき立つ。味噌は甘めで田楽味噌風。身は瑞々しく、ホロリとした食感が心地良い。

 一方、煮こごりのほうは口に入れるとジワッ、と、ゼリーの旨みが溶けていく。部位によって味が違い、味噌がうまくまとめているよう。「アラの煮こごり」なので、身よりも味が深い。蒸したアンキモにはポン酢が添えられ、チーズのように芳醇な味わい。早くもビールから地酒「まんぼう」に、手が出てしまう。

 

 

彩り鮮やかな先付け。あんこう友酢は酒の肴にぴったり

 

 そして料理に使われているのはもちろん、日立沖でとれ久慈浜漁港に水揚げされるアンコウだ。地元では、「口福あんこう」と称し、漁師と流通業者、旅館、飲食店、商工会議所などで2004年に組織された、「口福あんこうを広める会」でPR活動を展開している。同席した案内人の方によると、「アンコウは北海道から九州まで各地でとれるけど、やはり茨城沖、日立のが一番」と、胸を張る。

 アンコウは近頃、高級魚の扱いとなり、上物には結構な高値がつくようになった。茨城でも最近は、ほかの地域のもののほか、韓国など外国ものが安く流通しているが、身がやせていたりキモが小さかったりと、問題があるものも少なくない。「茨城のアンコウ」のイメージにも少なからず悪影響を与えているのだという。

 そこで県産のアンコウを普及させるために、「茨城アンコウ」のブランド化を推進。茨城沖でとれた2キロ以上のアンコウの下あごに、生産者や漁協名、水揚げ年月日を記したタグをつけることになった。タグといえば、ブランド魚の代表格である関サバや関アジが思い浮かび、効果がありそうに思える。

 

 もっともこのタグ作戦、アンコウならではの難点も多いそうである。例えばアンコウは仲買を通して流通するため、築地に並ぶのは早くて水揚げ3日後。タグに入れた日付が、かえってマイナスイメージになることも考えられるという。

 またアンコウはほとんどの場合、解体されて流通するため、せっかくつけたタグが外されてしまい、消費者の目に触れづらい。加えて上物は料理屋が漁師から直接買いつけることが多く、実際には東京の市場へはタグつきはあまり出回らないそうである。将来的には漁師や漁協が、直接販売することも検討されるなど、まだまだ改良の余地はありそうだ。

 と、茨城アンコウの将来の話が盛り上がったが、日立の地魚料理、そして口福アンコウの料理のほうは、まだまだ序盤戦だ。続くつくりの鮟鱇昆布〆めは何と、アンコウの白身のつくり。前日から仕込んであるから、白身に昆布の旨みが生きている、と板長ご自慢の一品で、透き通るような澄んだ味わいは、個性的な外見から想像できない品の良さである。

 

 

左は淡白なアンコウの造り。右は久慈漁港の主要漁獲・ボタンエビの踊り食い

 

 つくりで食べられるほどの鮮度のよさは、「茨城アンコウ」の自主管理基準のおかげでもある。特に鮮度保持に関しては気を遣っており、中でも漁獲後すぐ、船上で胃の内容物を除去することがポイント、と、同席する久慈漁港の底曳き網漁師が話す。他の漁師は胃の中を水で流すだけだが、うちはブラシを使ってしっかり洗う、という。胃を洗うためには上手に締めなければならないが、簡単に締める「企業秘密」があるとかで、それが分かるまではかみつかれたりもしたよ、と笑っている。

 板長の腕が冴え渡る創作地魚料理が数品続き、いよいよ本日の主役、アンコウ鍋の出番だ。大皿の上には、白菜、エノキ、春菊などの野菜とともに、正身、キモ、皮など、「アンコウの七つ道具」がどっさり盛ってある。中には黒っぽくヌメッとしていたり、とげのようなのが飛び出していたりと、食べるのに少々勇気がいりそうな部分も。

 アンコウ鍋はアンコウに商品価値がなかった時代、漁師が船の上で食べたまかない食「どぶ汁」がルーツで、汁を煮詰めるためかなり濃厚な味わいだった。現在では味噌とあぶった肝をダシ汁で伸ばし、たっぷりの野菜と一緒に煮込むスタイルで、漁師料理よりいく分上品になったようだ。

 

 地元の人の教えに従い、汁を沸騰させてまずアンコウを全部鍋へ入れ、ある程度煮込んでダシが出たところで野菜を追加。最後にアンキモを軽く煮たら食べ頃だ。白身は究極に淡白でホクホク、皮はゼラチン質がトロリ。中骨についた肉はシコシコと瑞々しく、キモはコクがありレバーのパテか濃厚なチーズのよう。部位によって様々な味が楽しめ、どんどん箸が延びていく。

 鍋の需要が高いように、アンコウの旬はやはり冬。寒さに備えてキモが大きくなり脂がのるため、味の方もなかなかのものである。アンコウは底曳き網漁が禁漁の7~8月を除き、通年漁獲されるが、冬以外にあまり漁獲しないのは味が落ちるからではなく、値が安いのが主な理由。とれても出荷せず冷凍して、値が上がる冬まで取り置くのだとか。

最近では冬以外のアンコウも評価が上がり、日立では、「フルシーズン食べられるアンコウの町」としてPRする案もあるという。中でもおすすめは春アンコウ。脂が少なく爽やかな味わいが女性向けで、安い分、同じ値段で料理に3倍使えるから、多彩な料理が手頃な値段で味わえるという。

  


味噌仕立てのアンコウ鍋。味がしっかりしみてうまい

板長による春アンコウの料理は、サラダや塩焼き、唐揚げ、キモステーキなど、鍋とはまた違った洗練された料理ばかり。鍋を平らげたばかりで「あんこう腹」なのにも関わらず、早くも春の再訪の気持ちが膨らんでくるのだった。(2005年11月下旬食記)