ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

【被災地激励投稿】ローカル魚アーカイブス…日立・久慈浜の底引き網の漁獲と、会瀬の朝市

2011年04月23日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん

会瀬漁港の朝市。この日はイナダが豊漁

 

 上野から特急「スーパーひたち」で、わずか2時間。大甕駅は、茨城県日立市の南の玄関口にあたる。駅からクルマで移動すると、すぐ右手には日立製作所大甕工場の巨大な建物。そして左手には、穏やかな太平洋が広がっている。

 日立市は日立製作所の企業城下町として栄えただけに、「工業の町」のイメージが強い。一方で太平洋に面し、アンコウをはじめヒラメやタコなど、漁業の盛んな町でもある。地元では「地産地消」の一環として、地元水揚げの魚介の地元消費を推進しており、そのPRを目的とした現地視察に招待頂くこととなった。

 駅を後にまず立ち寄ったのは、直売所の日立おさかなセンター。ここで扱う魚介は、直近の久慈漁港から直送しており、館内は鮮魚店に卸売業者のほか、地元の漁師が経営する店もある。

組合長が経営する、住吉丸漁業直販店を訪れてみると、電灯に照らされてピカピカと輝く新鮮な魚が、店頭からあふれんばかり。自らの船でとった魚が中心で、地元で「赤次」と呼ばれる真っ赤で小型のキチジ、ツブ貝やボタンエビなど、ほとんどの魚介の品札に「地物」と書かれている。

 店頭をざっとみてみると、時節柄かヒラメやカレイが並ぶのが目につく。ヒラメは茨城県の魚で「本ヒラメ」と表示。カレイは高級魚であるヤナギガレイのほか、「沖ヤナギ」というのがあり、品札には地元の呼称「ヒレグロ」と記されている。店のお姉さんによると、久慈のほか県北の平潟でも漁獲され、「普通のヤナギガレイより沖でとれるの。値段もヤナギより安いからお得だよ」。

そしてその並びには、大柄のタコと小柄のが、ダラリと広がって休憩している。お姉さんによると、大きいのは水ダコ。小さくて白っぽい方がヤナギダコ、とのこと。ミズダコは過去30年の間、日立市が県内で水揚げトップである。「日立市の魚」に制定され、地元では「サクラダコ」との愛称がつけられているとか。

 

  

日立おさかなセンターにて。住吉丸の店頭には赤次、メヒカリなど常磐沖の底魚が並ぶ

 

 ところで全国的に見て、茨城県はどのぐらい漁業が盛んなのだろうか。漁業生産量は北海道と長崎に並び、全国で3本の指に入るという。茨城県沖は暖流の黒潮と、寒流の親潮が交わる海域のため、棲息する魚介は種類豊富。そのため日立市沿岸の5つの漁協では、いずれも漁法や漁獲する魚種が異なる。

中でも、日立おさかなセンターで扱う魚介を扱う久慈浜漁協は、県内屈指の沖合底曳き網漁の拠点で、5つの漁協の中でも随一の水揚量を誇る。漁港に到着すると、底曳き網船が着岸してまさに水揚げを始めるところ。魚倉から水色のバケツをつり上げ、岸壁に下ろしては台車にのせて、ダーッと運び、と忙しそうに往復している。

 底曳き網漁とは、袋状の網を船尾から海中に流して、海底近くを曳き回して獲物を漁獲する漁法を指す。主な狙いは底魚で、「常磐もの」と評価の高いヒラメやカレイ、アンコウやミズダコなど。とれる魚種は、網を曳く深さによって変わるという。

この久慈漁港は深さ250~300メートルを曳く、沖合の底曳き網漁を行っている。主な漁獲は、県内の水揚げの3割を占めるアンコウをはじめ、ここだけで水揚げされるボタンエビやキンキ、ヤナギガレイ、ツブ貝、ミズダコなど。さらにズワイガニや毛ガニも底曳き網漁の主要な漁獲だ。

 

 

底引き網漁が中心の久慈浜漁協

 

忙しい水揚げの合間に手を休めていた漁師によると、底曳き網の船は16時過ぎのこれからが、帰港のピークとのこと。着いた順に漁獲を水揚げして、競りにかけられていくという。競りは18時頃には終わり、20時頃からは水戸や築地へ向けて出荷される。だから水揚げされた日の夜半には、これら都市の卸売市場に入るため、鮮度の良さは折り紙つき。「常磐もの」の評価が高い由縁である。

水揚げ後、隣接した魚市場へと運ばれた魚介は、コンクリートのたたきにドサッ、と山積みにされたり、バッとぶちまけたりと、扱いが少々荒っぽい。パンパンにふくらんだ太いドンコや、スミだらけのイカ、大きな樽入りのツブ貝、さらに15キロもの巨大ミズダコも、のっぺりと広げられている。

さらに奥の方で、ボタンエビが入った箱を見つけた。覗いていると通りがかった漁師が、食ってみな、と、ビクビク動いているのを1匹、よこしてくれた。教えられた通りに頭をひねり、ミソをすすると激甘! たっぷりの卵をすすり、殻をむいてシャクシャク、トロリと頂く。醤油は不要で、海水の塩味がピッタリの味つけだ。

 

 

水揚げされたばかりのボタンエビ。アンコウはやや小振りだが立派な「常磐もの」

 

  その晩は、アンコウをはじめとする日立の地魚料理を、存分に堪能した。いい魚を食べ、うまい酒を楽しめば、翌朝の目覚めも心地良い。

早起きして向かったのは、日立駅からクルマで10分ほどのところにある会瀬漁港である。魚市場の脇でクルマを降りると、隣接した広場に行列が延びているのが目に入る。案内人によると、9時から行われる朝市の始まりを待つ列とのこと。

会瀬漁協は日立市の漁協の中で唯一、定置網漁を行っている。「底魚」が中心の、久慈漁港の底曳き網漁と違い、定置網漁の狙いは回遊魚だ。組合長に、季節ごとにとれる魚を尋ねたところ、「主にとれるのは、アジやサバ。春先はマダイやチダイ、7月からのメジマグロ、晩秋のブリなどが値が高いですね」。この季節は、ブリの成長前のイナダがよくとれるという。

ややすると漁船が戻ってきたらしく、魚市場の周辺に人が集まってきた。まず水揚げされたのが、大きなメジマグロ。体長2メートルぐらいはあり、ひきずられるようにして船倉から運ばれる様子は、なかなかの迫力だ。今日の水揚げは期待がもてそうだと思ったら、今日は不漁ですね、と苦笑する組合長。ほとんどが小柄のイナダやサバで、朝市に並ぶ列の分、足りるかどうかつい心配してしまう。

 

  

会瀬漁港の水揚げ風景。定置網漁のため水揚げされる魚種は様々

 

 その会瀬漁港の朝市、すでに、数十メートルの行列ができている。定置網から水揚げされた魚介を販売しており、日によっては、開場後わずか3040分で完売。漁獲が少ないときは、「ひとり○匹まで」と、購入制限が出るほどの、人気ぶりだ。

水揚げが終了後、魚が入った大きなコンテナが、フォークリフトで次々と、テントに運ばれていく。中を覗くと不漁とはいえ、イシダイにイナダ、ゴマサバなど、結構な量に見える。

白黒の縞模様のイシダイは「みそ漬けにするとうまいよ」と、おばちゃん、隣ではおじさんが、水揚げされた量を考慮しながら黙々と値をつけ、値段を書いた紙が張り出されたらいよいよ売り出し開始だ。丸のままの魚が2匹、3匹と、ビニール袋へ入れられ、行列の順に整然と売られていく。

 そんな中でお客が殺到、想定外の品に売り手も大忙しな一画がある。この日の目玉商品、メジマグロの売り場だ。普段でもあまり揚がることがなく、まして朝市で売られることは滅多にないそうで、「今日のお客は運がいいな」とおじさん。解体された赤身は何と、ひとさく1000円弱と破格! またたく間に売り切れ寸前の赤身の横では、カマも店頭に出され、こちらも飛ぶような売れ行きだ。

 
この日の目玉商品・メジマグロのさく(左)。朝食代わりには浜鍋が

   盛況の売り場の脇で、大鍋でグツグツとうまそうに煮えている鍋を発見した。おばちゃんに聞くと、「朝市名物の浜汁だよ」。ニンジン、ゴボウ、ネギ、白菜など、たっぷりの野菜とぶつ切りのイナダが、ゴロゴロ入っている。野菜はホクホク、イナダはアラが多いが、脂がびっしりでなかなかうまい。野趣あふれる漁師料理風の汁が、日立の地魚に触れる旅の締めくくりに似つかわしい。(2005年11月下旬食記)