ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカルミートでスタミナごはん9…スーパーゴールデンポーク・ダイヤモンドポーク

2010年01月18日 | ◆ローカルミートでスタミナごはん

 

【スーパーゴールデンポーク】
■系統・掛け合わせ…三元交雑種 (大ヨークシャー×バークシャー)×デュロック)
■年間出荷頭数…1万頭
■生産出荷元…㈱埼玉種畜牧場(サイボクハム)
【ダイヤモンドポーク】
■系統・掛け合わせ…純粋種の中ヨークシャー
■年間出荷頭数…500~600頭
■生産出荷元…千葉ヨーク振興協議会

 プレミアム、ゴージャス、エクストラ。スーパーの食品コーナーで、こんなキャッチのついた品物を見かけると、自分はつい手にとってしまう方だ。こうした形容は、消費者のちょっとした高級志向、俗に言う「プチ贅沢」志向をくすぐるらしく、頑張った日やいいことがあった日の、自分へのちょっとしたごほうびやお祝いに買ってみるお客も、結構いるのではないだろうか。
 そしてごほうびやお祝いの際の食事と聞けば、すき焼きや焼肉が真っ先に挙がる世代である。主役となるのは、銘柄牛肉。これらはきらびやかな形容詞を冠したものはなく、産地名を冠しただけのシンプルなものがほとんどだ。牛肉の場合は銘柄を確立する際、JAなど生産者が品質の基準を設け、銘柄ごとにA4やA5など、肉質等級や歩留まり等級の規定がある。すなわち、牛肉は銘柄がついていること自体がプレミアム。冠する地名に、生産地が誇る品質への自信が込められているのだろう。
 一方で豚肉の銘柄を眺めていると、こちらは「こだわり」とか「ロイヤル」とか「ハイ」とか、品質の良さをPRする形容を関した銘柄豚肉を、結構見かける。そんな中で特に目に留まったのは、何とも輝かしい2種の銘柄名。ひとつは埼玉県の「スーパーゴールデンポーク」、もうひとつは千葉県の「ダイヤモンドポーク」。両県とも首都圏では、古くから養豚業が盛んな地なのは知っていたが、金とダイヤたる豚肉とは大きく出たものだ。高級貴金属の最高峰を堂々と名に冠する豚肉とは、味にどんな輝きを放つのだろうか。

 金の豚肉の生産地がある埼玉県の日高市は、川越市と狭山市に接する県央部に位置する。西武新宿線の狭山市駅からバスに乗り換えると、広がる平野を縦断するように入間川を越え、田植え前の田園地帯を過ぎ、小さな木立の間を行き、と進んでいく。
 ゴールデンなきらびやかさよりも、水と緑の麗しさが印象深い武蔵野の風景の中を20分ほど走り、目指すバス停で下車してゲートをくぐると、広大な敷地には様々な施設が並んでいる。ソーセージやホットドックなどのテイクアウトを扱うカフェテリア。アスレチックやパターゴルフといったアクティビティ。隣接して日帰り温泉施設もあり、平日のお昼前なのに園内はかなりの数のお客で賑わっている様子だ。
 ミートショップやレストラン、ハムソーセージ工場の「ミートピア」、天然温泉まきばの湯を中心としたアミューズメントが揃う「サイボクガーデン&天然温泉」からなるこの施設、スーパーゴールデンポークの生産出荷元である、サイボクハムの本社でもある。遊んで食べて湯に浸って、一日遊べるミートテーマパークといった具合。源泉かけ流しの天然温泉はひかれるけれど、まずは「ゴールデン」の味の真価を確かめるのが先だ。

 

とんがり屋根のレストランサイボク。店内は焼肉と洋食でコーナーが分かれている

 『レストランサイボク』は、三角屋根のロッジのような外観のレストランで、入ってすぐのところには広々した焼肉用の客席が設けられている。この日は洋食の一品料理をいくつかいただくつもりだったので、奥のテーブル席へと落ち着いた。メニューに並ぶ肉料理の中で、「SGP」の文字が添えてあるのが、スーパーゴールデンポークを使ったもの、とある。トンカツ、ハンバーグ、ソーセージ、生姜焼きなど様々で、温泉とSGPを組み合わせたヘルシーなグルメプランの案内もされている。
 豚肉の真価を計る定番料理といえば、トンカツか生姜焼きが思い浮かぶが、ここの生姜焼きは人気の品らしく、「売り切れ御免」との文句が踊っているのに、どうにも魅かれる。プレミアムやゴージャス同様、「先着順」「個数限定」的な文句にも弱い方で、主菜はこのSGPポークジンジャーにすることにした。さらにもう一品、SGPスペアリブグリルも注文。おろし生姜に絡めてさっと焼いたシンプルな生姜焼きと、タレと焼き加減に手の込んだスペアリブとを、食べ比べてみることにしよう。

 先に運ばれてきたのはポークジンジャーで、続いて骨付きのあばら肉が2本のった皿も運ばれ、テーブルの上は肉料理で隙間なく埋まってしまった。まずはポークジンジャーのほうからいただきます。町の大衆食堂の生姜焼き定食は、豚のこま切れバラ肉をざっと炒めたイメージだが、これは厚さ5ミリほどと分厚い豚肉が2枚。上にはおろしソースのような濃茶の生姜ダレが、肉の表面を覆うようにたっぷりとかかり、見た目からして肉料理ならではのボリューム感がある。
 ナイフを入れるとザクザクと、詰んだ繊維の抵抗が意外に強く、素直にブツッと断ち切れるぐらいの弾力。バサバサと荒っぽいかみ応えで、肉汁と脂はほぼないが、豚肉の赤身のコクがどっしりと重厚だ。アメリカンスタイルのヒレステーキのような力強さがある一方、やや焦げたところが肉の味が濃く、タレとからめると生姜焼き定食のあのなじみの味がうれしい。タレの生姜の刺激が強烈で、豚肉の淡さの後で生姜糖のような甘みが広がり、後味はほろ苦く爽快。これは生姜焼きの王道を行く味だろう。

 

生姜のタレが効いたポークジンジャー。肉は繊維が詰んでいる

 絢爛豪華な銘柄名からして、何か画期的な交雑や生産システムを敷いているかと思われるかもしれないが、SGPの交雑と飼育方法は一般的な銘柄豚と、そう大きくは変わらない。交雑はいわゆる「三元交雑」で、大ヨークシャーとバークシャーを掛け合わせた雄に、デュロックの雌を掛け合わせている。イギリス系のバークシャーは一般的に「黒豚」と呼ばれる種で、肉質がきめが細かいことが特徴。これを独自に改良して大ヨークシャーと掛け合わせ、さらに質のいい霜降りが形成される大型のデュロックを掛け合わせることで、肉のきめが一層細かく、程よくサシが入った肉となっている。
 肥育は宮城県栗原市にある、サイボク東北牧場で行っていて、飼料には自社の配合飼料工場で製作の飼料のほか、肉質がきめ細かくなるようパン粉を与えたり、井戸水を特殊セラミックでろ過した波動水を与えるなどの工夫を加えている。種豚の改良と育成にも力を入れており、鳩山牧場と南アルプス牧場では、種豚となるランドレース種と大ヨークシャー種を飼育。このようにSGPは、自社で種豚生産から肥育、さらに加工・精肉、販売まで、すべて行う一貫体制をとることで、ブランドの品質を確立、保持しているのだ。
 
 スペアリブは肉がほんのりピンク色をしており、あばら肉のローストというよりは骨付きのハムかローストビーフのよう。普通のスペアリブがこんがりきつね色に焼きあがり、脂でしっとりしているのと、見た目からしてずいぶん違う。脂はこちらも少な目なので、骨を手づかみしても手にべとつかないのがありがたい。
 骨の端をもってかぶりつき、そのまま骨をひくと肉塊がビリビリと軽くほぐれていく。中はふっくらしていて肉汁がたっぷり、染み出ないぎりぎりのほとび感が心地よい。歯ごたえはサクサクと軽やかで、ガシガシと手ごわかったポークジンジャーと対照的。太目の繊維がハラリとほぐれ散ると、熟成した肉の凝縮した旨みがほどけていくように広がる。しっかり塩味が効いており、ドイツ料理のアイスバイン風でもある。

  

スペアリブはパンとコーヒーつき。柔らかくジューシーに仕上がっている

 店の人によると、タレは醤油ベースとのことで、あばら肉を1週間浸した後で燻しているという。そのため肉の中心部にほのかな赤みが残り、燻製肉のような芳醇な味わいに仕上がっている。週ごとに仕込んでいて、できあがりの週末の金~日曜を狙って店を訪れる常連客も多いらしい。
 ポークジンジャーもスペアリブも、脂はほんのり甘みがあり食感が軽く、肉も淡白でくせがなくしなやか。派手な名の割におとなし目の食味なのは、掛け合わせたそれぞれの種豚の長所が、うまく引き出されているからなのだろう。そういえば金の持つ特性といえば、品のいい光沢としなやかさ。SGPの「ゴールデン」も、この肉質をうまく表しているようでもある。また金はほかの金属と混ざり、「ホワイトゴールド」や「イエローゴールド」など、素材それぞれの長所を兼ね備えた合金にもなる。掛け合わせた種豚の長所が引き出されたSGPもまた、これに似ているような気もする。

 

ダイヤモンドポークを味わった休暇村館山。東京湾に面した露天風呂がある

 スーパーゴールデンポークをはじめ、日本のほとんどの銘柄豚が三元交雑種である中、千葉県の北総地区で生産されるダイヤモンドポークは、純粋種であることが大きな特徴だ。発育が早く大型の、ランドレース種やデュロック種の掛け合わせが主流の銘柄豚において、純粋の中ヨークシャー種の銘柄豚は他にあまり例を見ない。もともと千葉県の養豚は、主にこの中ヨークシャーを中心に飼育しており、昭和30年代には県内の農家で飼われていた11万頭の豚のほとんどが、中ヨークシャーだったほどという。
 千葉県産の中ヨークシャーは当時「千葉ヨーク」と呼ばれ、昭和36年の全国豚共進会では名誉賞を受賞するなど、肉質の良さには定評があった。が、次第に廃れていった大きな原因は、生産効率の悪さにある。中ヨークシャーは普通の豚と比べ、出荷できるまで2ヶ月ほど飼育期間が長くかかる上、成長しても中型程度の大きさにしかならない。そのため飼育農家に敬遠されるようになり、前述の大型で生産効率の良い豚へと、飼育する種が移っていったのだ。

 それが近年の銘柄肉ブームにより、千葉ヨークの肉質の良さが再評価されるようになり、復活させるための動きが出始める。平成16年ごろからJA全農千葉を事務局として、成田や富里など県内の7戸の養豚農家により「千葉ヨーク振興協議会」を組織。彼らの取組のおかげで、平成20年春に千葉ヨークが復活し、新たに「ダイヤモンドポーク」という銘柄がつけられた。長きに渡って埋蔵されていた宝石が、関係者の尽力により再発掘され、ちょっと小粒でもキラリと輝く銘柄ポークになったのだ。
 とはいえ、ダイヤモンドポークの生産者数は2008年現在で8戸と少なく、生産量は年間500頭程度しかない。ご当地の千葉県内でも、取扱は数軒の百貨店や飲食店に限られ、たまに売り出されても100グラムで600円ほどと、幻かつ高嶺のブランド豚。運よく味わう機会に出くわしたのは、館山市の『休暇村館山』に宿泊した際で、千葉県産の食材を使った趣向の夕食の中に、ダイヤモンドポークのしゃぶしゃぶの小鍋が添えられていた。

 

ゆでてもほぼアクが出ないのがダイヤモンドポークの特徴。脂身は幅広いが柔らかく上品

 ダイヤモンドポークは脂の甘さが味のポイントなので、しゃぶしゃぶかすき焼きが適した料理法です。軽く湯にくぐらせてどうぞ、との関係者の説明に従い、色がほのかに変わるぐらいでいただいてみる。肉は7~8割が脂というぐらい、白い部分がほとんどだが、湯にくぐらしてもアクがほとんど出ない。これほど純度の高い脂身なのに、口に入れるとベタベタせずすっきりした食感で、口の中で自然に溶けてゆく。香りも後味も、精白された砂糖っぽい清清しい甘みがある。
 中ヨークシャーは他の種に比べて、肉も脂も甘みが強いのが特徴である。ダイヤモンドポークはこれをさらに強調するために、飼料に千葉県産のサツマイモを加えている。でんぷんが吸収されることで甘みが増すことはもちろん、脂身が輝くように澄んだ白色になり、この色がブランド名の由縁とも。
 また不飽和脂肪酸の含有量が高い豚肉の脂において、ダイヤモンドポークは旨み成分でもあるオレイン酸が特に豊富で、コレステロールの減少や活性酸素の活動抑制にも効果があるとも。ダイヤのごとき脂の輝きは、体内でもその威光を放ち、食べるものを中から美しくしてくれる、とまで言うとオーバーだろうか。

 スーパーゴールデンポークにダイヤモンドポークとも、名乗るにふさわしい味はもちろん、ブランド価値を確立するための生産者や関係者の努力も見逃せない。華々しい銘柄名には、高品質であることの自信も込められているのだろう。いわばちょっといいことではなく、とてもいいことがあった際にいただきたい、特別な豚肉。料理の味に加えてその銘柄名も、祝いの席に華を添えること請け合いかも。
(スーパーゴールデンポーク:2009年3月5日食記 ダイヤモンドポーク:2008年10月26日食記)

【参照サイト・スーパーゴールデンポーク】
サイボクハム 
http://www.saiboku.co.jp/gp_sgp/gp_sgp.html
ごちそう埼玉 日高市(埼玉県市町村振興協会) http://www.smdc.or.jp/gochisou/seibu/hidaka.html

【参照サイト・ダイヤモンドポーク】

ダイヤモンドポーク http://www.pref.chiba.lg.jp/nourinsui/08seisan/09_events/08sassi/huyu/huyu05-06.pdf#search='ダイヤモンドポーク'
関東農政局 
http://www.maff.go.jp/kanto/to_jyo/jyouhou/senshin/suishin/tiiki0806/080611.html
MSNニュース・われらグルメ党 http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/chiba/090212/chb0902121705006-n1.htm
FEEL成田・成田FOOD記(成田市観光協会) http://www.nrtk.jp/contents/food02.html