ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん45…横浜・中華街 『酔仙酒家』の、深夜に頂く中華定番コース料理

2006年06月03日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 以前、夜遅い時間に中華街で食事しようということになり、行き当たりばったりで市場通りのとある店に入ったことを書いた。テレビや雑誌で紹介されたらしい店のようだったがかなりぞんざいな対応をされ、別にあった本命の店のほうに行けば良かったかな、と後でちょっと悔やんだものだった。そこは中華街でも遅くまでやっていることで知られる店で、平日でも夜中の3時ごろまでは開いている。そのため料理人など中華街で働く人が、店を閉めてから食事しにくることもあるとか。本職の料理人たち御用達の店とは、何だか期待がもてる。

 そんな訳でカミさんとともに、再び夜の0時ごろに家を出発、目指すは横浜中華街。私事で恐縮だが、日付変わってこの日は結婚10周年の記念日である。日中はお互い仕事があり、ようやく落ち着いたこの時間に、ささやかながら食事をして祝おう、ということになった。吉浜橋近くにクルマを停め、西門通りを中華街のメインゲートである善隣門へ。いつもなら豚まん屋や雑貨の店などが並び賑わっているが、今ははどこもシャッターが閉まって閑散としている。そんな中、目指す『酔仙酒家』は、西門通りと福建路の角で、黄色い看板が煌々と照っている。こんな時間なのに、店頭では何と、中華まんやシュウマイなどの点心を売る売店が出ているのには驚きだ。

 さすがに店内には客の姿は1組だけで、一画では店の人たちがまかないの焼きそばを食べている。深夜ながら店の人に気持ちよく通され、中程のテーブル席へ。この間入った店で座らされた、トイレの真ん前の狭い卓とは違い、ゆったりと落ち着ける広さだ。メニューを開くと値段別にコースが数種類設定されていて、前菜と主菜、スープなどがそれぞれ選べる「セルフチョイス方式」になっているのが楽しい。相談の上、前菜を1皿、主菜を3皿に、スープとご飯物、さらにデザートつきのコースを注文。記念日だし、一番高いのにするか、とも思ったが、この時間にあまり食べ過ぎるのも心配と、それより2つ下の値段のにした。代わりという訳ではないが、紹興酒はいつもよりちょっと高いのを1本頼み、さっそくおめでとう、の乾杯。大きめのグラスに注ぎ、前菜のクラゲや蒸し鶏、チャーシューをつまみながらぐっとやると、値段のせいかいつも飲んでいるのよりもマイルドで厚みのある味わいで進む。

 10年間の思い出話? に花を咲かせながらグラスを傾けているうちに、料理の皿が順に運ばれてくる。この店は主に広東料理を中心に各種中国料理を出しており、200種を越えるという一品料理も評判が高い。遅くまでやっている営業時間だけでなく、家庭的な味付けにアットホームな雰囲気もあって、中華街の中では固定ファンの多い店という。コースで選んだ3皿は、細切り豚肉とピーマン炒めに酢豚、車エビのチリソースと、比較的定番のメニュー。エビチリは大きなエビがたっぷり入っていて、プリプリと熱の加え加減が絶妙だ。四川風の辛いのを想像していたら甘めのあんがかかっていて、酢豚と味付けが少々かぶってしまったか。細切り豚肉とピーマン炒め、すなわちチンジャオロースは肉に下味がついているなど仕事が丁寧で、シャッキリしたピーマンやタケノコに、旨みを封じこめた肉との相性が絶妙。定番メニューとはいえ、手の込んだ深い味わいである。

 さらにチャーハン、カニ肉と豆腐のスープと続き、カミさんはもう満腹といった様子だ。全体的に味付けが強くないのでこの時間でもどんどん食べられ、自分が残さず平らげてしまった。デザートのタピオカココナツミルクで仕上げて時計を見ると、もう3時前。店を後に、人通りのない通りを歩きながら、それにしても10年は長かったような、あっという間だったような、と思い返してみる。こうして旅をして、うまいものを食べてはあれこれ書いて、なんて好きにさせてもらっているのも、つくづくカミさんのご理解とご協力のおかげ… っていうあたりは、紹興酒の酔いが回り過ぎた雑感、ということにしておこうか。(2006年6月1日食記)