ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん44…大船 『観音食堂』の、マグロにアマエビ、カンパチの刺身定食

2006年06月01日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 JR大船駅を出ると、雨がかなり激しく降っていた。日曜日、しかも行き先は江の島なのに、用件は仕事の上あいにくのこの天気。少々滅入り気味の気持ちをリフレッシュするには、昼飯にはドン、とうまいものでも食べるに限る。大船は横浜郊外のベッドタウンで、駅前にはごみごみした感じの昔ながらの商店街が広がっている。傘がないためそれほど歩き回ることもできず、横断歩道を走って渡ってすぐの店に雨宿り。するとうまいことに食堂らしく、看板にはコーラの赤い柄、そして白地に『観音食堂』の文字が。駅前の一等地にあるにしては、何とも昭和レトロな風情満点の食堂である。

 暖簾をくぐり扉を開けると、入って左はテーブル席、右奥は広めの座敷にカウンターがある。ひとつ空いていたに腰掛け、さて何を頼もうか、と壁を見ると、各種魚料理が書かれた短冊がびっしりと掲げられているではないか。刺身はヒラメにシマアジ、カンパチ、カワハギ、さらに鯨なんてのも。天ぷらもアジやキス、穴子にメゴチにハゼと、江戸前や相模湾の地魚もあるよう。刺身に煮魚、塩焼きなど定食も各種あり、魚の品揃えはかなりのもののようだ。注文をとりにきたおばちゃんに「刺身定食」をお願いすると、「お茶でよろしいですか」。他のテーブルには親父さんがひとりずつ腰を据え、昼真っからビールの追加や焼酎のお代わりで盛り上がっている。隣に座った客も「冷や」と「生中」に、塩らっきょうとホタルイカ塩辛を注文。のどまで出かかった「中ジョッキ…」の言葉をこの後の仕事を思い出して飲み込み、「…ではなくお茶で」。ごゆっくりどうぞ、の声がうれしいような、酔客の中で針のムシロなような。

 その名は観光名所でもある大船観音からとっただろうこの店、市街でもかなり古い食堂で、かつてもうひとつの名所でもあった松竹大船撮影所に出入りする俳優や女優、撮影スタッフで賑わっていたという。何と言っても魚料理はピカイチで、刺身はもちろん焼き物や煮魚なども、素材を生かした味付けが折り紙付き。よって日曜の昼下がりというのに店内はほぼ満席、みんな好みの酒でうまい魚料理をつまみながら盛り上がっている。店内ではおばちゃんが3人、きびきびと接客しており、常連らしい親父さんとの会話も楽しげ。何の話か分からないが、「私たちもみんな独身よ~」などと歓声と笑い声が上がっている。テレビでは演芸番組を放映中、激しい雨が時折屋根をバラバラと叩く音が響くなど、何だか時間が止まったようなのどかな空気が漂っている。

 刺身定食の今日の魚は、アマエビとマグロとカンパチの3種盛り。「今日はいいカンパチがはいったから、いつもよりちょっとお得よ」とおばちゃんの言う通り、これで1000円しないのは確かに安い。トロトロのアマエビに、サラリ、ふっくらした食感のマグロ、脂がのってコクのあるカンパチと、大皿にたっぷりのった刺身を順に口に運んでは、ご飯をかき込む。飯も進むが、これでビールがないとは何とも殺生。鮮度も量も申し分なく、何だか港町、漁港の町の食堂にでもいるような錯覚に陥りそうだ。

 すっかり平らげてお茶を飲んで一息、すると隣の新客が小アジの唐揚げをつまみながら、大ジョッキをグイッとやっている。おばちゃんに聞くと、日曜は夜は20時までやっていますとのこと。帰りには東京湾の地魚の天ぷらを肴に、今度こそビールで晩酌だ、と思えば、江の島での仕事もさっさと片づこうというもの? (2006年5月7日食記)