ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

「月光」あるいは悪と赦し

2017年09月07日 | 文学

 昨日、ひどく後味の悪い小説を読みました。
 「月光」という作品です。

月光 (中公文庫)
誉田 哲也
中央公論新社

 R18学園ミステリーという触れ込み。
 R18というとおり、性描写、残酷描写がけっこうひどいです。
 受け付けない人は、これだけでダメでしょうね。

 しかし、私には、非常に印象の残る作品でした。
 後味が悪いだけではない、力のある作品で、その力が、今日の私を落ち込ませて、仕事も手につきませんでした。

 ある作品に接して、その後何日も落ち込むことがたまにあります。
 それは小説でも、映画でも。

 過去に一番ひどかったのは、高校三年生の時に見た、ベトナム戦争を描いた「プラトーン」
 それを見た翌日、学校で、「どうしたの?」と心配されるほど落ち込みました。
 その時は翌日もう一回見るという荒療治に出たのを覚えています。

プラトーン [DVD]
トム・ベレンジャー,ウィレム・デフォー,チャーリー・シーン,ケビン・ディロン,フォレスト・ウィテカー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


 「月光」は、美しい女子高生の死をめぐる物語です。

 同級生男子にバイクではねられて事故死してしまった女子高生。
 その妹が、姉の死を探るべく、姉と同じ高校に入学するところから、物語は始まります。

 姉、妹、加害者の同級生男子、そして、姉が激しい恋に落ちた相手である中年の音楽教師の、それぞれの視点から物語は語られます。
 
 清楚で誰にでも優しく、美しい女子高生。
 彼女が放課後、こっそり、誰もいない音楽室でベートーベンの「月光」をひいているところを、中年の音楽教師にみつかり、それが縁で2人は不倫の恋に陥ります。
 やがて、体の関係に。
 ある時音楽準備室で2人が情を通じているところを、後に加害者となる男子高校生がみつけ、盗撮しまいます。
 
 友人と二人で、その写真をもとに女子高生を強請り、何度も女子高生を犯す男子高校生2人。

 妻との生活が破綻している音楽教師にとっては、それは輝かしい恋であり、女子高生にとっても、不倫などという言葉では表せない、純愛でした。

 それなのに、何度も犯されて、壊れていく女子高生。

 音楽教師にも別れを告げざるを得ません。

 やがて男子高校生2人は妹も連れてこいと要求。
 それだけは許せない女子高生。
 
 ここで、物語は赦しということが大きなテーマとなっていきます。

 あえてネタバレのようなことは記しませんが、誰もが悪いと言えば悪い。

 不倫の恋を続ける女子高生も、音楽教師も、女子高生を犯し続ける男子高校生2人も。
 もっと言えば、真相を知るためだけに姉と同じ高校に進学した妹も。

 しかし、この世を生きていくのに、悪を為さない人間など存在し得るでしょうか。

 問題は、その悪に対する赦しであるに違いありません。

 しかしこの作品は、女子高生が示した最後の赦しの姿勢をも、台無しにして、終わります。

 心理描写、特に女子高生のそれが不足しているというきらいはありますが、悪と赦し、その重いテーマを扱って、この小説はどこまでも私を落ち込ませます。 

 
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