ステージおきたま

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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

役者が変わる!ために

2016-06-01 08:43:07 | 演劇

 アマチュア演劇の役者は、まっ、だいたいは自分の持ち味から抜け出せない。どんな役を与えても結局その役者そのもの、とまでは言わないが、個人のパーソナリティに沿って役作りをしてしまう。そこがプロとの大きな違いだ。だから、アマチュア演劇の舞台で失敗しない大切なポイントは、役を出演者に合わせることだ。そう、当て書きに徹することだ。役者の乏しいレパートリーを知り尽し、その範囲内で人物を設定する。セリフも言いやすい言葉で、姿勢や仕草も普段のそれに近いものとして造形する。役者は自分の守備範囲での芝居だから、落ち着いてボールをさばき、難なく守りを固めることができる。攻めの迫力には欠けるが、無難な進め方だ。菜の花座が曲がりなりにも、17年、36回の公演を積み重ねてこれたのも、この当て書きが効力を発揮したからだと言える。座付き作者がいることの強味だ。

 しかし、だ。書き手だって飽きるのだ。似たり寄ったり行ったり来たり、いつか見たような芝居ばかり書いていると、これでいいのか?これしか書けないんじゃないか?もっとはみ出した世界を、もっと型から抜け出した人物を引き出したくなるってもんだ。お客さんだって、安心して見られるものの、また、これなの?そんじゃ、今回はパス!って気分にもなるじゃないか。役者もきっと同じ行き詰まりを感じているはずだ。いや、感じていて欲しい。今の自分から抜け出したい!新しい役柄に挑戦したい!演技の幅を広げたい!菜の花座の役者たち、シニアも含め、丁度その険阻な急登を目の前に佇んでいるところなのだ。

 『女たちの満州』はそんな行き詰まりを突破するという意味の作品でもあった、作者にとっても、役者にとっても。まず、時代が違う。70年も前に生きた人たちの世界だ。単純に年数の問題ではない。戦争を境にして、日本人は大きく変わった。考え方はもちろん、生活ぶりも、言葉使いも、身ごなしも、まったくの別文化と言って差し支えないほどの変化があった。出てくる娘たちの年齢は17、8歳、今なら高校生だが、あの時代、まさに結婚適齢期、教師上がりの最年長者でも20歳かそこいらなのだ。今どきの娘たちのキャビキャビが通じるはずはない。言葉の発し方、敬語の使い方、言い回し、同じ日本語とは思えないほど?違っている。と言っても、それは聞き分けることのできる人にとってはの話しだ。仕草や身ごなしについても同じ。

 そんな違いを菜の花座の役者たちは上手く乗り越えられたのか?

 答えは、60点、辛うじて合格ってところじゃなかったろうか。

 どうしても日ごろの自分が出てしまう。得意な役作りに頼ってしまう。たしかに、そうすることで、娘たちの生き生きとした様子が浮かび上がってくる。

 でも、一方で、その時代の娘たちの雰囲気は失われる。難しい。時代を生きつつ、その頃の娘たちの控えめな喜び、抑えた悲しみ、しっとりとした華やぎ、そういった時代らしさを表現するまでは至らなかった。

 満拓職員や義勇隊所長、中国人使用人については、

 演じた役者の年の功もあり、持ち味に近い役(後2者)であったこともあって、戦時中の雰囲気をまずまず醸し出せていた。

 演じた人たちとっては、直接経験した、ということではなくとも、ひと昔前の戦時の記憶が知識として引き継がれているからなのであろう。

娼婦という難しい役については、よく頑張っていた、と思う一方、悪所に身を置き、爛れきった境遇を生きる女の悲哀や自嘲、自負、心意気、といったものがもっと生々しく表現できたらとは思うが、それはもうプロのレベルの要求だろう。

 もう一つ、役者の力量を試されたのが、エピローグの語りだ。ソ連兵や満人に追われ、死と暴行の恐怖に苛まれながら逃げまどった女たち、ついに行き場を失い自決する女たち、辛うじて逃げ延びた後も飢えと伝染病に苦しめられ自分を見失う女たち、・・・その後の幾多の苦難を女優たちが代わる代わる語った。今の私たちには、頭に浮かべることはできても、切羽詰まった感情として追体験しにくい強烈な生きざまだ。これをいかに自分の心と体で語り尽すか。何度も何度もダメ出しを繰り返し、稽古をした。せめて、この場面だけは、本物でなくてはならない。それが、『女たちの満州』を演じることの最良の供物になるに違いないから。残念ながら、安易な泣きの演技から抜け出せなかった役者もいた。ここらが、これからの越えていくべき大きな山なのだろう。

 役者は変われたか?それは、是であるとともに、否でもあった。小さな一歩、はっきりとした踏みごたえは感じられないが、何か、違う。変わるってことは、そんなもんなのかも知れない。

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