ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

人は場に育つ!

2015-09-12 10:35:09 | 演劇

 多くの方からお褒めいただいている米沢市芸文ステージフェスティバル、中でもショートストーリーを担当した若い二人の評判がすこぶる良く、大いに気を良くしている。

 最初予定していた人から断られ、急遽探しに探して立てた代役、当初の台本のイメージからは、かなりかけ離れた人選になり、果たしてステージにうまくとけ込んでくれるか心配だった。そのギャップを埋めるために、コミカルな部分を強調した演出に変えたりもした。しかし、演じてみれば、二人の持ち味が大いに愛され、観客を和やかな気分へと導いてくれたようだった。もちろん、たった数回の稽古でそこまでたどり着いた彼らの力、努力の力も大きい。

 プログラムでは二人とも菜の花座の一員となっているが、実は違う。置農演劇部のOB、OGで卒業後演劇からは距離を置き、今回が久しぶりの舞台だった。彼らならできると確信して頼んだ代役だったが、さすがに高校以来数年ぶりの演技はぎこちなく、初めの頃など、えっ、これが高校時代、主役張ってた子(野田秀樹の『キル』テムジン役)?と驚きしきり、先々不安に感じるほどだった。

 役者って場を踏まないと、こうまで退化してしまうものなのか!高校時代の溌剌とした輝きを失い、自信なげにためらう素人がそこにいた。

 そんな彼女が、2回、3回と稽古を重ねるうちに、ぐんぐんと感を取り戻していった。声も以前の張りのあるよく通る魅力的なものになり、笑顔も表情も見る者の心に溶けいるかわいらしさに溢れるようになった。そう、その声、その笑顔が欲しかったんだ。きっと自分でも変わってきていることに手応えを感じたのだろうな、劇中で歌う「米沢新調」もしっかりマスターして、本番では観客の手拍子を誘い出し、見終えたお客さんたちからは、ステージの見応えの一つと賞賛をうけるまでになった。

 やっぱり、場なんだなぁ、人が育つのは!役者は板踏んで変わっていくんだよ! 

 実は彼女、菜の花座とは違う劇団に所属している。ただ、本拠地から遠いことと優れた女優が他に多くいることもあって、これまで受付などお手伝いの役回りに徹してきたらしい。もったいない!たったあれだけの登場で観客の心を掴める子が、自分の持ち味を信じていない。もっともっと大きく羽ばたける可能性に心至らない。脇役、スタッフに徹するあまり、いつの間にか、自分自身を見失っていく。

 その人を生かし切る場、その人が育つ場を見つけられなかったばかりに、まるで違った人生を歩んでしまう、こういうことって、きっと沢山、沢山あるんだろう。人生の辻々で、人生の曲がり角で、人は一つの道を選ぶ。一つの方向に歩み出す。やむなく選ぶ不本意なものでも、自ら良かれと決断したものでも、ともかく、一つを選び取る。そして、この選択がその人を大きく育てることもあれば、しぼませてしまうこともある。

 今回舞台に立って、きっと輝いていた過去を思い出したことだろう。けっこうできるじゃない、私、って満足感に浸っているかもしれない。そうその通り。で、思い至ってほしいのは、かつて演劇部で大役に挑戦した日々も、今回の久しぶりの拍手喝采も、すべては場に立つことで得られた充実感だってこと。自分が生かされる場、能力が大きく飛翔できる場、それを探し続けることが大切ってことなんだよ。

コメント
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