ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

わかっちゃいるけど止められない!

2015-09-10 08:49:55 | シニア演劇

 わかってるんだ、語尾が上がってるって。語尾が上がれば、?になっちまって、せりふの意図から離れるって、十分わかってるんだ。でも、止められない、て言うより、できない!悩み苦しむ当人の苛立ちがじくじくと伝わってくる。もう、何度言い直してみたことだろう。かれこれ15分はこのせりふにかかり切りだ。いや、このせりふの語尾に躓き続けている。

 問題のせりふは、「食事減らすてのは、ちっとまずかねえかい」、老いぼれヤクザが、経費削減のため食事を一日一食に減らすと主張する下っ端ヤクザのヘルパーに向かって突っかかるせりふだ。この”かい”が何故か、尻上がりになってしまうのだ。わかるよね、”かい”を上げれば、相手の意向を確かめたり、聞いたり、同意を求めたりすることになる。でも、作者、つまり僕だが、の意図は、主張であり、断定なんだ。食事減らすなんて、そりゃまずいぜ!って言わせたい。

 当然、その違いを話し、語尾の言いようを変えれば、意味も変わってくることを、何度も説明した。当然、役者も納得している。語尾を下げるんだ、わかってる。自分の言い方では語尾が上がってる、わかってる。何度もやり直す。何度も上がったまま。必死になって繰り返す。最初はこちらが、その都度語尾を上げた言い方を示していたが、違うと言うだけになり、いつしか首を振るだけになり、ついには、黙って聞いて待つだけとなった。

 ついに、治ることなく、次回までの宿題ということで棚上げとなった。シニア4期生公演『シェアハウス ブルース』の初読み合わせだ。

 イントネーションで行く手を阻まれたのは一人じゃない。もう一人、ヘルパー役も難儀している。彼女のせりふは「化粧には、自分のティッシュ、使ってください」。えっ、どこで悩むの?なんて言っちゃいけない。人間長年のうちに染み込んだ癖ってやつはそうとう厄介者なんだ。”使ってください”このせりふ、イントネーションは、”使ってくだ”までは平板で、”さ”でやや上がり、”い”で元に戻る。ところが、彼女の場合どしても、”使って”の”か”がどうしても上がってしまうのだ。さあ、言ってみよう。”使ってください”、”か”が上がって別の意味になるわけじゃない。そんなアクセントの言葉はないってことだ。ここでも、当人はわかっている。わがっちゃいるけど、治らない。

 これっていったいどういう仕組みなんだろう?耳は正常に聞こえている。出さなきゃならない音も音程も理解している。でも、出てくる音は、発語者の意図を裏切ってしまう。考えられるのは、耳から入ってる音に反応する脳の領域と音を発する領域とが異なっていて、その間の伝達が上手く行っていないのか、この後者の部分の反応が鈍いってことだ。

 で、思い出した。最近、歌う時の僕がそうなのだ。ちょっと自慢してしまうが、音に対してはかなり鋭敏な耳を持っていると思っている。せりふのアクセントやイントネーションだけでなく、音楽でも、絶対音感とは行かないが、音程の微妙な狂いは聞き分けられる。中学から大学まで音楽系のサークルを続けてきたお陰なのか、好きで聞き続けたせいなのかはわからないが、ともかく、音感は悪くない。音楽、ずっと5だったし。それは今でも保てていて、歌い手の音のずれは指摘することができる。一昨日も、「バナナボート」の”デーーーーオ”、のオが下がり過ぎてるって役者に注意したばかりだ。

 ところがだ、その音を自分で出して見ると、これがどうしても出てこない。出してる音が違うのはわかる、でも、正しい音が発せられない。これだ!これと同じ症状じゃないか!以前、合唱やってた頃は、そんなことはなかった。この音、と狙った音は音程狂わず出すことができた。でも、今はかなり苦しい。きっと、声を出して歌わなくなって久しいからその間に、発音調整の機能が退化してしまったってことなんだろう。認めたくはないが、老化もその一因なんだろうな。

 前記の二人は、この機能が弱いってことなんだ。うーん、これから大変だゾ。

 でも、悲観はしていない。これまでのシニアにも何人もいた、こんな人。最初の舞台じゃ同じようにアクセント、イントネーション直しに時間を費やしたものだ。そんな彼ら、今じゃほとんど躓くことがない。仮にひっかかってもすぐに訂正できるようになっている。何度も舞台に立ち、幾つものせりふをこなし、たくさんの対話を経験して、聞く耳の部分も音を発する部分も、脳の働きが活性化してきたっとことなんだ。そう、安心しよう。使えば磨かれるってこと、鍛えれば鋭くなるってことなんだ。

 これって知能とか、体力とかと同じだ。ほったらかしにしてさび尽かせてれば、人間の能力はどんどん退化していく。要するに、鍛えよ、されば磨かれん!鍛えよ、されば輝けん!ってことだ。

コメント
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