たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

能力主義と社会的弱者

2016-07-31 04:25:04 | Weblog
 不安定な期間には、今までの価値観や体制をそのまま成り立たせようとする力が働くから、どうしてもその場限りの対応が多くなり、表面的な成果主義や能力主義に毒されがちだ。

 実はこういう時こそ、次の時代を先読みして、そこに合わせた長期的な取り組みを考究すべきなのだが、多くの必死に生きている気になっている人たちは、考えていそうな定説や、その符号を単純にひっくり返した説にしがみつき、自らのレゾンデートルを守ることに忙しい。
 「生きていくためには!」「利益を得るためには!」とドヤ顔で語りながら、自分や真実にウソをつきつづけることが社会で上手く振る舞うコツであるということを正当化してゆく。だから、多くの理系が、一度も真面目に誤差論を学ばない。誤差論を学んでも、自らの業績項目を増やすことにはならず、むしろ業績を遅らせることになり、きちんとした統計解析を知ることは損であると直感しているからだ。

 利益には、長期的な継続を考慮した利益もあるし、短期的なとにかくいま利益を得るためのものもある。カントによれば、長期的な利益を考慮した道徳的規範は、定言命法に反するから道徳的であるとは言えないらしいが、いまの社会では、その長期的な利益に気を払うことさえ、社会人としておかしいと揶揄される。
 実は、このような感情が、みんなのそれぞれの心に住み着くことこそが全体としての混乱期の要因である。なぜなら、このようなスタイルを大人だと再定義しながら、少しずつ自分と社会を乖離させていく思考に慣れてしまうことは、集団形成を崩壊させるからである。

 そもそも、集団形成の根源的な目的とは何であろうか?それは、その集団が長期的に継続することによって、思ってもみなかった価値を創出したり、その出現の可能性をとどめることにある。「集団にとって、誰が必要なのか?誰が不要なのか?」「波風を立てたりするめんどくさい厄介な人間は、不要だから排除せよ」という短絡的な功利主義的価値観を軸に集団を語ることはナチズムに直結し、結果的に障害者などの権威社会的に弱い立場の人間やマイノリティを殺すことを正当化するようになってしまうだろう。
 短期的な利潤ばかりを追求すればするほど、本来的な意味を取りこぼした集団形成になってしまい、そこに気がついた勘の鋭い人間から、その場所を去っていくことになる。そう、その場限りの対応こそが社会で生きていく基本なのだ、と心の底で考えている拙さは、人を排除し、結果として集団を崩壊させる。これが、混乱期の要因である。

 よく、安定期には集団のトップは無能であっても機能する、という。これは、長期的な集団の繁栄を考えたときに最悪の定説であることが、不安定期である今、よくわかる。
 黒字のときにこそ赤字のときのような思考が本来的には求められる。しかし、それを言ってももう遅い。多くのリーダーシップのない権威者達が、理想を語ったフォロワーシップに「そんなカネはどこにあるんだ?」と聞き返してしまったことのリスクを、現在、享受しているのである。安定期にこそ、理想を語らせるだけ語らせ、誰もが想像していない未来へと先導できるチャンスだったのだが、後の祭りである。

 とりあえず、符号を逆にして、少しだけアレンジした説を説いてみよう。「赤字のときにこそ黒字のときのような振る舞いが本来的に求められる」
 少ない選択肢の中でも、余裕があるフリをして、まずは何が何でもトライを繰り返してみて、そのなかで当たりそうなことに注力していくしかないのかもしれない。

 第一、この国は実力によって繁栄したわけではない。
 偶然による成功が高度成長なのだ。リツイートされまくっているツイートを一生懸命リツイートしているだけのアカウントでフォロワーが一時的に増えただけのこと。

 だから、何かの日本的な成功例を真似するのではなく、まったく新しい取り組みにチャレンジしていこう!まるで余裕があるかのように。
 大丈夫、任意の人生において、失敗は原理的にありえない。一度失敗してしまうとおしまい、という戦後の日本が抱えてきた定説は、とうの昔に滅び去っているのだから。
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思考と感情 -原点回帰!-

2016-07-28 02:14:32 | Weblog
 思考力を高めることは、人よりもちょこっと得をすることにかけて、絶大な効果を発揮する。
 だから目先の成果を上げたいだけの人間はこの部分をのばしていけばイイ。今日は、思考力の高め方について話してみましょうか。

 古来、知識は思考力の一番の基本になっている。知ってるか知らないか。この差はものすごくでかいし、だからこそ、思考力のない人間はいまだに暗記力=思考力と勘違いしているわけなのだが、現在Googleがあるため、知識量の差は大した個体差にはならない。この暗記というものだけに掛けてしまった老害たちが、若者がいつでもスマホを見ていると激怒するのは、この自分の無能さに起因するものである。ただ、それでも最低限の知識はないとお話しにならないので、思考力を高めたいなら、まずは、いろんな情報を頭の中に保存しておくことは必要。

 そして、次善として思考力の重要な要素となるものは「慣れ」である。論理をきちんと学習して、反復練習していない者が、自分で考えて論理を使うと的外れになるのは、この「慣れ」の要素が欠如しているためである。これは様々なレベルで起こる。あなたは自分では考えてはいけない、というレベルの人は世の中に沢山いる。変数4つあって式が2つしか立っていないのに各変数の数値を出そうと一生懸命方程式をいじくりまわしていたり、互いに独立じゃない幾何学的媒介変数を基底としてモノゴトを考え始めたり、レアイベントに着目しているわりに再現性をとるべきだという信仰に縋ったり、すごいレアケースを1つ挙げて論破した気になったり、、こういった愚行は枚挙にいとまが無い。こういう人たちは、ベースとなる事象についての思考力を用いる「慣れ」が圧倒的に足りない。地道な努力もそれなりには役に立ちます。自分ができもしないのに「原理的に解けないってどういうこと?解けばイイじゃん!」と言い放ってみたり、原理的に考える価値もないことに対して「考えてみることは大切なことだ!」と言ってみたり、バカがバレるのでやめましょう。まぁ、観測してるぶんには楽しいのでいいですけど、だんだん可哀想になってきます。
 そして、残念ながら、思考力の基礎は独学ではほとんど身に付かない。思考力の基礎は、そうねー、遅くても25歳までじゃない?それ以降は手遅れ。来世、頑張ってください。いや、縛り付けて勉強できるんなら話は別ですけどね?どーせ忙しいとか、仕事では使えないとか、論文書けることに直結しないとか、そういうイイワケ言うでしょ。だから無理。思考力の基礎がある人も、思考力を伸ばそうと思ったら、監禁されるか、無職になるか(確かに今、思考力を入れるための器は広がる一方である笑)、とにかく、大学生みたいな、なんらかの圧倒的な無駄な時間がないと無理です。そういう気概がないなら、来世に期待してください笑。

 ここまで来ても、使いこなすには、まだまだ。最後の壁として結構大きいのは、基礎を伴った思考力をあらゆる対象にアプライしてみる、ということ。あらゆる対象に対して、「時間、空間、数」の3つを意識して論理を組み立てられるか、統計的にモノゴトを考えられるか。これも反復練習が必要で、基礎があれば免許皆伝で、自由に考えても良いんだけど、その次がマジで大事で、間違えや叩かれることを恐れずに色んな人に自分の考えたことを話せるかどうかが重要。ここを恐れてしまうと、ものすごく世間から外れた価値観や、自分の論理の飛躍にまったく気がつかないようになってしまいます。思考力が無い人に対してでも、どんどん自分の考えたことを伝えること。それによって、自分の思考が正しいか正しくないかがチェックできます。ま、簡単に言えば、グループ性(ノリの良さ)がないとキツいですかね。ちなみに、否定されたからといって間違っていたとは限らないし、肯定されても間違っているかもしれません。
 この最後は本当にキツくて、「慣れ」のところでさんざん孤独的に基礎練習をさせられるのに、最後はグループ性を求められるという、難しさ。

 思考力は万能ではありません。思考力を使うと、世界がわかることもあるし、わからないこともあります。これも、沢山アプライしてみんなに伝えていないと、わからないこと。
 ここを勘違いしている、思考の基礎力だけはあるバカが、全体の利益のために誰かを犠牲にすることは正義だ、とか言い出すんだよなぁ。そら、思考としては正しいかもしれないけど感情として間違っているだろ、という説明に対して、感情論かよ、みたいなこと言ってバカにするのは、思考力の修行がまだまだ足りない。

 思考は確かに短期的な成果を効率よく高めてくれます。
 だけど、感情も同じくらいのパワーを持っているし、同時に高めていかないと、思考力すらも落としていってしまう。そして、両方のレベルを高めていくことで、長期的にも効果を及ぼすことができるようになる。

 昔(2000年代)、このブログでいつも言ってた結論に久しぶりにたどり着きましたね。
 思考と感情。両者を両方高めていくのが大事。

 え?感情のレベルの上げ方?
 それは簡単です。一言で言えます。たくさん損をして、失敗をすること。

 痛みを知ってる人間が、思考力もマックスだったら、最強だと思うでしょ?
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ポケモンGOのコツをまとめてみました

2016-07-26 00:50:37 | Weblog
 さて、ポケモンGOが配信されて5日目ですか。
 いやー、そこらじゅうでやってる姿を目にして面白い限りですが、これ、本当に歩きスマホ気をつけてね、みんな。地図をしっかり把握してから歩く!ポケストップを見つけたら、立ち止まってからスワイプ!お目当てのポケモンを見つけたら、とりあえずタップして端に避けてから一発目を投げること!一発目を投げなければ、逃げることは絶対にありません。

 これらを徹底してれば、ある程度は安全だと思いますが、、あとは、やりすぎて、社会的に死ぬことがありうることかな笑
 今の時点で、レベルが10以上の人は、危険だと思います。と言ってるわりに、私は、レベル14。まぁ、私は皆さんと違って、自己管理がしっかりしてますので笑

 いくつか今の時点での有益情報をまとめておきます。大事なポイントは全部たなかくん依存だな笑。

 1. モンスターボールの当て方をマスターしよう!

 ポケモンを確実に捕まえたいなら、まずデフォルトはARを切った状態で。モンスターが出てきて、CPが表示される前に、一発目を打ちましょう(自分が立ち止まっている場合のみ可能)。これで、ほぼ確実に当たります。

 これでゲットできなかったら、的が小さくなるところを見計らって、的の中心にボールを投げましょう。緑、黄色、オレンジ、赤の順に捕まえにくい。そして何より重要なのは、ポケモンとの距離です。
 ポケモンがめっちゃ近かったら、手前にちょこっと落とす感じでスワイプ。中くらいだったら、回転させてからモンスターボールを投げます。(ズバットのように)遠かったら、少し斜めから真っ直ぐ早くスワイプ。まぁ、常に回転してから投げても良いんだけど、手前と遠い場合は、回転させると確率が下がる気がします。回転させた方がXPに加点されるから、なるべくなら回転させるべきなんだけどね。回転はコツを掴んでしまえば、当たる確率は高くなります。

 あ、それから、Nice!とかGreat!とかExcellent!とかは、ゲットできるかどうかとは関係ないらしいです。

 2. コレクターは強化よりも進化優先で

 ま、これは説明不要ですよね。少なくともレベル10までは「ほしのすな」を一切使わなくてもイイ気がします。そんなにバトルします?みなさん?ジムに行かないで、とりあえずコンプリートを目指すなら、とにかく同じポケモンを何度も捕まえて、博士に送ろう!イーブイも、サンダース、ブースター、シャワーズが集まるまでは、飴とっといてね(各33.33%らしいです)。
 このゲームで一番重要なパラメータは、自分のレベルです。レベルが高ければCPが高いポケモンも出るし、進化後の色んなポケモンも出やすいし、CPの上限も上がります。レベルを手っ取り早く上げるためには、ひたすらポケモンを捕まえて、卵をふ化させて、「しあわせたまご」を使ってから一気に進化させてXPを稼ぐこと。これ以外にはありえません。

 3. 色んな場所に行ってみよう!

 まぁ、攻略アプリを使う場合は別ですが、私はそういうのズルっ子だと思ってるので、お勧めしません。

 定期がある場合は、色んな駅に降りて、色んな場所でポケモンゲットしてみるといいと思います。なんとなくの私の主観ですが、横浜、川崎、東京(大学含めず5カ所くらい)で、けっこう違う気がしました。ざっくり言うと、川崎はポッポが多くて、東京はドードーが多いイメージ。
 当たり前ですが、川沿いにはコイキングが沢山でますから、さっさと100匹捕まえてギャラドスにしちゃいましょう。そのうちミニリュウやらドククラゲやらでてくるでしょう。

 それから、毎25-30分と毎55-00分は、ラッキーチャンス。桜の下に行きましょう!レアなポケモンが出る確率が高いです。

 4. なかなか出てこないレアを2匹ゲットした場合は2匹ともとっておこう

 いつトレード機能が追加されて、いつナンパに使えるかわかりませんから笑、とっておきましょう。博士にはいつでも送れますから。
 備えあれば憂い無し。私、このゲームやってから、やたら街で知らない人と喋る率が高まっています。初日もAグループの人に絡まれて、、怖いよね。

 Aグループ1「つかまりましたぁ?」
 私『いえ、逃げられちゃったんですけど、フシギダネいたんですよー』
 Aグループ1「マジっすか?!」
 Aグループ2「でも、俺、フシギダネ持ってるんだよー」
 私『あ、でもでも、持ってても、同じの捕まえた方がイイですよ、進化させられますから』
 Aグループ1「ちょっと、この人詳しいんだけど!うけるー!」
 私『(いや、そんなん、基本なんじゃ...)』

 あと、CPだけじゃなくて、技とか、XLとかXSとかで、とっておいてるポケモンもいます。

 とりあえず、現時点では、こんなもんですかねー。また、なんか気がついたら、更新します!
 間違いがあったら、ぜひぜひ教えてね!
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No one can replace this story of you and your life

2016-07-22 01:10:42 | Weblog
 新たな技術の発展は、人類を幸せにするどころか、不幸せにすることのほうが多い。
 理系は技術について、夢物語ばかりを語ってはいられない。現実を直視しなければ。

 ケータイ電話さえなければ、いつでも連絡取れるからと交友関係がテキトウになることなく、今このときに伝えるべきことを必死で伝えようとする人が少なくなることも無かっただろう。SNSがこんなに普及していなければ、過去の友達の成功した情報だけが入ってきて、自分自身の不甲斐無さに落ち込むことも無いだろう。避妊が原理的にできなければ、一過性の欲望で行為に及ぶ人は極一部に留まり、ホンモノの異性関係を築きやすかっただろう。
 あらゆるデータが実証しているのに、技術革新は悪い方向へと止まらない。単純な便利や短絡的な欲望を優先して技術を確立してしまうがゆえに、その瞬間を尊く思ったり、道徳性を重んじたりすることが、バカ扱いされる。なんでこの便利な時代に、なぜこんなにも欲望をノーリスクでぶつけてしまえる時代に、そんな古典的な価値観を持っているんだ?っとバカにされながら、何も考えていない多くの人にとって非人道的なことが常習化されてしまうのだ。

 だから、俺は、工学や応用分野に興味が無いのかもしれない。
 ヒトの役に立つ研究なんて、まっぴらだ。なるべく、ヒトの役に立ちたくない。

 技術が革新的になればなるほど、倫理観や哲学は低俗なモノへと変化してしまう。
 なぜなら、技術に倫理的側面からマッタをかける多くの文系は、科学技術をきちんと理解しておらず、ただただ自分のレゾンデートルを守るために邪魔しているに過ぎないし、本当に信念を持っている哲学的素養をもつ極僅かな文系は、多くの何も考えていない理系に「倫理では何もできない」とバカにされてしまいがちだからだ。

 もちろん、上手に使えば、科学技術は革新的に素晴らしい未来を僕らに魅せてくれる。
 どうして泣いているのか、その理由がその時にはわからなかったとしても、連絡手段さえつけば、わかりうる可能性は残る。旧友たちの成功を目の当たりにして、自分自身の人生を誰も代われないストーリーだと気がつくこともあるだろう。計画的な出産と育児は安定的な生活を提供し、未来の子供達に対してイメージすることさえ難しい未来への輝きを持たせ続けることに貢献するだろう。

 技術を使う側の人間すべてが、技術以上の思考力と倫理観を持っていれば、すべては良い方向に行く。でも、そんなことは理想でしかない。現実は、多くのヒトは技術の底知れぬパワーに負けてしまうだけだ。
 そんな現状を考慮しながら、それでも何かできることとすれば、その憂いを受け止め続けること。

 だから今日はおやすみ。何もできないけれど、せめて、この詩を届けよう。

Boyz II Men - Song for You (Exile Cover)


///////////////////////////////

 どうもツイキャス来てくれてた皆さん、有り難う御座いました。特に信州読書会の宮澤さん、盛り上げていただき、有り難う御座いました。ノリ切れず、申し訳ありませんでした。あの辺が、Cグループなんだよなぁ、俺。また、今度は頑張ろう。
 というわけで、今日は、こんなアンチテーゼと曲(歌詞)との関連を、主に「数」の論理を主軸に書いてみました。今日あった出来事だし、ね?、俺のブログって、毎回こんな感じ。ツイキャス聴かなかったヤツは何言ってるか、わからないだろー?笑
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ハンターハンター初見の俺が40回以上見返してるかわむらさんと語り合う 【HUNTER×HUNTER】

2016-07-20 00:32:46 | Weblog
 ハンターハンター動画作りました。
 これまでで一番テンションが高い音声となっております。いやー、かわむら若いな、しかし。

 動画は3つあります。
 下の再生リストからご視聴ください。

 ハンターハンター初見の俺が40回以上見返してるかわむらさんと語り合う 【HUNTER×HUNTER】

 1. 感想編(好きなキャラベスト3)
 2. グリードアイランド(GREED ISLAND)編
 3. キメラアント編

 まぁ、最終的には真面目な俺らは、やっぱりキメラアント編での考察がオススメです。かるーく見るなら、1の感想編がいいですけどね。
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ハッタリ人生のすすめ

2016-07-18 04:41:28 | Weblog
 お世辞にも進学校とは呼べない私立中学から、それなりの進学校である公立高校に入った俺は、当時、あらゆるものがカルチャーショックだった。
 一言に集約するなら、これまで、ふつーに覚えるものだけ覚えておけば少なくともクラスで一番くらいにはなれたのに、覚えるものをみんながみんな覚えてくる、髪を染めてるようなヤツらまで全員、というのが、どうにも信じられなかったのだ。

 わかってはいても、目の当たりにすると違う、というのはよくあることで、上には上がいることは前から重々承知してはいたけれど、とにかくこのとき、俺は、賢いキャラの卒業か本当に賢くなるか、の選択が早急に迫られた。
 
 さあ、どうする?!どうする?!!

 当時の俺は、誤魔化そう!、という最悪の一手に出ることにした笑。
 このときの経験があるから、いま、誰かが誤魔化してると、敏感に反応できるんだろうなぁと思う。公立のノリにアジャストすることなく、事実を隠しながらどうにか賢いキャラで居続けられる方法はないもんか、と模索した故に、他人と乖離することを選んだ結果を後悔することは今でもある。ここさえなければ、高校時代、もう少し、もう少しは、グループ性高く(ノリよく)、もっと楽しくしていられたのだろうなぁと思う。同窓会で、普段の自分とは明らかに違う自分の振る舞いを感じ取って、余計にそう思う。だけど、同時に、この誤魔化しさえなければ、今現在の周囲に出会えていないし、東大で博士号なんてとってないだろうなぁ、と思うと人生難しいものである。

 誤魔化し、というか、ハッタリの重要性に気がついたのには、ある程度、明確にキッカケがある。

 高1のときの数学の時間では、先生が例題を解いた後に、黒板の前に出てきて解きたい生徒が練習問題を皆の前で解く、で、それは評価に繋がる、別に誰もやらなくてもいいけど、誰が解いてもイイよ、というものだった。高1の俺、当時、「そんなん誰も前に出て解かないだろ」と思っていた。
 高校に入学したての4月、その宣言がなされてから一問目、やはり誰も解かない。ま、当然っちゃ当然か。「じゃあ、僕が解いちゃいますねー」と先生が解き始めた。俺はここで思った。成績に影響するわけだろ?だったら、解けるんだったら解いた方が得じゃん。この一瞬の思考を今でも忘れていないし、考えてみれば、色んな意味で、ここが分岐点だったかもしれないなぁ。
 クラスメイトを良い意味で軽視していたのかもしれない。だって、どーせ、まだ知り合い誰もいないし。じゃあ、出ちゃえ。と、二問目。超簡単な練習問題を一問、ささっと解いた。俺以外、誰も前にでない。でもこれでいいんだ、と何回も自分に言い聞かせた。
 すると三問目、別の誰かが解き始めた。俺はその日に二回も前に出て点数を稼いだ。当時の自分としてはスゴい。そんなに貪欲になれるなんて。そこから先、半年後には、問題の奪い合いになる。俺はこのとき初めて(公式に認められる)ムーブメントを作ったのかもしれない。俺は、毎授業に一回は前に出て解くことを決めた。

 高2でも高3でもこの先生は俺の何らかの授業を担当していて、空気は初期化されるため、俺は3回もこれを体験する。
 俺は別に数学が特別できるわけじゃない(今は、世間一般よりはそれなりには特別に数学ができるとは思うけど)。ただ上の例題を見て、下の練習問題を解くことは誰でもできるだろ?この能力を最大限発揮しただけだ。だけど、間違えることは殆どない。失敗するのは恥ずかしいことだと思っていたから。問題は超選ぶ。特別、頭がイイわけではない。それが真実。でも、他人にはそうは映らないことを学んだ。

 試験前、後ろの席のBグループ(クラスで真ん中くらいにノリの良い集団に属している、ということ)の女の子に、数学の問題を訊かれる。前にも書いたように、Bグループの女子に俺の支持層はいない(俺の女子の支持層は、今も昔も、C上グループと一部のAグループだけです)。にも拘らず、俺に訊いてくるというのは、それなりには実力を認めてのこと(だと当時の俺は思った)。その子が訊いてきたのは、発展問題だった。はっきり言って、わからん。いや、俺なんて、応用問題すらまともに解いてないんですけど笑
 「わかんないけど、、発展問題じゃん」
 と言うと、
 「発展問題は解けなくても大丈夫なの?」
 と訊かれた。そうか、みんなは試験前は発展問題くらい解いてくるのが当たり前なのか。前に出てるおかげで10段階中9がついてるだけの俺には、気がつかなかったぜ。その次のテストから、せめて、応用問題くらいは解いてくるか。

 自分の最大能力を発揮していることについて「こんなん当たり前でしょ?」としているような演技力が身に付くと、周囲は勝手にその上の実力を期待してくれ、このハッタリをウソにしないように、自分の本当の実力が向上していく。本当に得意になってしまうのだ。

 そんなわけで、1年浪人ののち、物理学科に入学する。いや、高1まで俺は文系かなぁなんて思ってたわりには、スゴい変化でしょ?
 中学の理科で回路が全然理解できなかった俺は、「ま、テスト終わってもよくわかんなかったけど、高校では、こういうのやらないように科目選択しよー」っと思っていたのがウソのよう。まさか20歳超えてまで、こういう演習問題を解いているとは、思わなんだ。

 ハッタリでも構わないから、とりあえず立ってみろ。そして、立ったなら立ったで、一歩でイイから歩いてみろや。
 そうすれば、いつの間にか、最初に思ってたよりは、遠くに来れるってもんだ。

 ハッタリは、未だに続いている。それをみんなに公開してしまうほどに、ハッタリが自分の実力を向上させるのに、一番手っ取り早い。
 浪人中、アウトプットがなさすぎな生活にイライラしてることを相談したことがきっかけで始まった、このブログは、いまだに俺のハッタリツールとして機能している。

 そんなわけで(?)、今週、俺だけでツイキャスしてみようかなぁと思います。テーマは「ブログについて」とかで。実はK先生に「一緒にやろう!」と言われているんだけど(どんなバカでも、ハッタリを繰り返して徐々に現実に昇華させていくことで、最高学府で教鞭をとられている先生からツイキャスしよう!、とオファーをもらえるわけです笑)、いつも宮澤さんに任せっきりだし、俺だけでできなきゃ困るもんね。
 「俺ひく信州読書会」でどれくらい集客ができるのか試してみたいしね。あ、そうそう、ハッタリ好きの俺は、生だと間違ったことを言うかもしれませんので、宮澤さんみたいに、アーカイブに音声を残しませんので、生で聴いてね(この一文を書くための上の文章だったりして笑)。また、日程はここでお知らせします。

松浦亜弥 - LOVE涙色 [アカペラ cover]


(今回、特に、曲に意味はありません笑
これ聴いてたら思い出したってだけで。まぁ、これが流行ってた時期くらいの思い出ですからね)
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せめてもの罰

2016-07-12 01:26:08 | Weblog
 何か厳しいことを言われたとしても、何かの不満を言われたとしても、それをそのまま受け取ってはいけない。
 もちろん不条理だとか権威主義を前提とした言葉であれば無視して良いのだが、そうではない場合、なにくそ、と思ってなんぼである。

 「何かを言う」ってことは、それだけ意識を向けているってことだし、期待しているということ。このネコパンチに本気でイライラしてしまうなら、少なくとも俺の周囲からはさっさと去ってしまえば良いと思っている。あなた一人がいなくとも、俺はまったく困らない。
 別にすぐに改善を求めているとも限らないじゃないか。ちょっとずつでイイ、昨日よりも一歩、ほんの少しでも、進捗していれば、それでいいと思う。

 ただし、「何か改善を求める」行為をして、誤解であれ本当のことであれ、相手が傷ついてしまえば、言葉のトゲはいつまでも残るということも同時に忘れてはいけないと思う。
 だから俺だって、好きな相手に対しては、細心の注意を払うし、そのどうでもいいトゲでその一瞬だけでも傷ついて欲しくなかったりするのだ。そうしてたって、何かでイライラさせたり、知らない間に傷つけていたりする。いや、どうでもいい人がどう傷つこうが考慮してらんないんだけど(それをやりだしたら何も言えなくなる、、まぁ本来それでいいのかもしれんが)、そのせいで何かの発展が数ヶ月、下手したら数年も先延ばしになってしまうことだってあるわけだ。

 でも、その覚悟を背負ってでも、言わなくちゃいけないシーンもある。
 嫌われてでも、より良くしたい。気持ちにトゲが残ってしまったとしても、相手にとって、この状況を後々悔やむリスクが残ってしまうくらいなら、よっぽどそっちのほうがいい。

 こう思える気持ちこそが本当に好きだということだと思うし、俺が享受できるせめてもの罰なのだと思う。
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HUNTER×HUNTER考察音声カミングスーン

2016-07-11 02:42:37 | Weblog
 さて、アイツと話す前に、ここでほんのちょこっとだけ感想を述べてみようと思います。彼とは次の土日に収録予定なので、考察音声はそれまで待ってね。
 
 まず、これをやろうと思った経緯ですが、そもそも俺は、ハンターハンターに限らず、あまりに(名探偵コナン以外の)漫画を読まない人でして(本に比べて情報量少ないじゃーん、損じゃーん、と思ってしまっている)、ゆえに、ほぼジャンプを読んだことがありません。だってね、中1のときにね、ジャンプ毎週読もう!と思ったら、悪友から「途中から読んでもつまんねーよ」ってドヤ顔で言われてさ。『だったら一生読まねーよ』って思っちゃったんですから、仕方ない。
 んなわけで、そのまま10年近く生きてきた訳ですが、ある時、別のある悪友が「ハンターハンター読んでねーの?お前、人生の半分損してるよ!」と言われたわけです。これは、ムカつきます。

 じゃー、いま時間あっから、読んだるよ!単行本、全部。ちょうど連載再開してるらしいし!これで、全然面白くなかったら、お前のせーだからな!
 というわけで、読んでみたわけです(今、新アニメは全部見終わって(ついでにLevel Eも)、単行本は26巻まで読みました)。っていうか、幽遊白書と同じ作者なんだね(←そっからかよ!!、でしょ?)。

 で?どうだったの?おもろかったの?
 まあ、めちゃくちゃ面白いけど、人生半分は損してねーだろ笑。

 小学校の頃から幽遊白書を知ってる俺としては、あのあと、こーいったかー、という感じですね。っていうか、ジャンプって、けっこう鬱なんだね笑。もうちょっとドラゴンボール的なイメージがあったよ、俺。
 まぁ、幽遊白書のときから、ドラゴンボールとはかなり違った部分があるからな。なかなかだよね。仙水編の後半(魔界に行く直前・直後くらい)から、え?、って感じだもんね。そのスタンスの延長線上にキメラアント編がある気がします。

 っと、これくらいにしておこう。言いたいことはいっぱいありますが、収録までとっておこうっと。
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7. 桜タワー/『研究コントローラー』

2016-07-09 00:04:53 | ネット小説『研究コントローラー』
 以下はフィクションです。実在の人物や団体などとはいっさい関係ありませんし、サイエンティフィックな内容についても実際には正しいことではないことも含まれます。

前のお話 6. 研究者として/『研究コントローラー』

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2016年7月9日(土)

 となりの席から物音が聞こえた。そろそろ朝なのだろうと思って、腕時計をみると意外にも、もう午前10時。もう少し眠りたいが、14時過ぎには早田大学に行かなくてはならないし、そろそろ行動し始めよう。もう一週間以上も漫画喫茶・ネットカフェを転々と移動しているせいで、すっかり生活が乱れている。これもそれも、野崎のせいである。全国の研究室の連続失踪事件を解明するために立ち上げられたRC制度、こんなブラックな仕事は他に無いのではないだろうか?
 「走って逃げても構わない」野崎から言われたこの言葉がなければ、俺は今頃、何者かにつかまって、殺されていたのかもしれない。侵入した夜の大学、山岡教授の居室で、ドアノブが外側からがちゃがちゃと回りだしたとき、その恐怖からどうにか逃れようとして窓から外を眺めてみると、小学校の頃、大きな窓を開け、小さな身体を窓の外に投げ出して遊んでいた様子が頭をよぎった。もしかして、窓から逃げられる?思い立ったら行動するしか無い。遅かれ早かれ、誰かしらが、あの部屋に入ってこられたら、どうにもイイワケはできなかったし、直感的に危険を察知していたし、同時にスマートグラスとパラレル回線がハッキングされているかもしれないという気持ちから、野崎に指示を仰ぐのは危険に感じた。窓を開けると、非常階段がすぐ近くに見えた。4mほどじゃないか。あそこに移れれば。壁の外側はそれなりに凸凹している箇所も多く、なんとかなりそうであったし、そうするしか術は無い。運動神経にはそれなりに自信があるつもりでいるが、体操の経験は無い。どうする?でも、迷っている暇はない。万一、下に落ちたとしても、3階。ギリギリ死なない・・・気がするように思えた。足場さえ確保すれば。恐る恐る、窓の外側へ。その瞬間、ドアノブのがちゃがちゃという音がよりいっそう乱暴になった。早くしなくては!俺は思い切って、淵に手をかけながら、窓の外へ身体を投げ出した。一度、外に出てしまえば意外とラクなもんで、一歩また一歩と、何かの管の上を足場としながら、非常階段側へ向かった。なんとか非常階段にトンと着地したときは安心感を得た身体が萎縮するのを感じたが、まだ安心はできない。いつ、俺がここにいることとバレるともわからない。非常階段を下り、一番下まで降りてしまうとカギがかかっているため、踊り場から飛び降りた。飛ぶ直前まで、2階の半分だろ?大丈夫、と思っていたら、意外と滞空時間は長く、着地すると足がジンジンした。真っ暗なキャンパス内。なるべく人が行きそうにないところを通りながら、日吉駅まで走った。ほぼ全力である。窓から逃げて飛び降りまでした割には、駅まで息1つ切らさなかった。人間、死に直面すると、なんでもできるものである。漫画喫茶の文字を見つけ、そこで一晩過ごした。一睡した後、家に帰りたくなったが、家からパラレル回線を使って野崎に何度も連絡を取っていたために、家に帰るのは危ないように思えた。敵がどこまで掴んでいるかわからない。村川は出張中だし、彼女の香奈にはこの件に関わらせてはいけない。二人にはRCのせいで帰れないことだけを私用のスマホで伝えることにした。考えた末に、都心から少し離れた川崎・蒲田らへんに移動し、昼間はテキトウに街をぶらぶらし、夜は安ホテル・漫画喫茶に寝泊まりすることにした。最低限の着替えとカバンを買った。こういうときに、給与が高いというのは良いもんだ。一週間以上、そんなことをしているのに、緊急用に忍ばせている金のおかげで底をつかない。いや、この仕事をしていなければ、こんな目に合っていない訳で、そうではないか。
 ともかく、秘書の友川さんのパソコンの試薬リストから、無かったはずの水酸化ナトリウムの文字が現れた。それはスマートグラスで野崎から指示を受けたからで、おそらく、それを誰かがハッキングしていたからだろう。M2の原田愛菜。あの子は怪しい。最初から怪しかったし、あの子は発言に虚偽が混じっていそうなとき、いつも髪をいじっている。あのとき、D2の森下さんに午後イチはおかしいとツッコミをいれられた時も、髪をいじる仕草をしていた。野崎じゃなくても、何かやましいことがあるときの仕草は、見抜くのは簡単だ。だとすると、偶然の一致とは思えない。
 とにかくどうにか野崎にコンタクトをとらなくてはいけない。だが、どこでどうハッキングされているかもわからないため、スマートグラスとパラレルスマホをオンにすることはできない。野崎のメールアドレスは一般公開されておらず、最初に知り合った時の一般回線でのメールのやり取りに使用したメールアドレスは、破棄したと前に言われている。つまり、パラレル回線以外で野崎に連絡を取る術が無いにも拘らず、そのパラレル回線がハッキングされている可能性が高い以上、野崎に直接会うしか術は無い。だが、RC研究生と言えども、野崎の予定を逐一教えてもらっている訳ではない。だから、漫画喫茶で、野崎のSNSをチェックし、予定が発表されていないかどうかをずっと監視していた。川崎付近に来てから3日目。7月9日(土)に早田大で一般講演をする、という情報が拡散されていた。この14時過ぎからの一般講演を逃すわけにはいかない。特任准教授の高野先生には一般回線からメールで体調不良とずっと伝えているから、高野先生経由で野崎にも俺が慶明大に一週間以上行っていないことがわかっているはずで、にも拘らず、パラレル回線経由で俺から直接連絡が無いため、野崎自身も俺に何か異変があると気がついているはずだ。
 さて、出かけるか。

 早田大学はそれを取り囲む街全体として活気立っている。慶明大学と違って、メトロの駅を降りるとすぐに町中で、突然キャンパスが現れるといった印象である。街中に早田生が溢れ、みなどこかへ向かって楽しそうに喋りながら歩いている。こういう雰囲気は地方大学出身の俺としては、都会独特に感じる。学生達全員から、俺たち私たちはノリがいいぜ、と言わんばかりの雰囲気を常に全身から発し続けている。それにしても外は猛暑だ。特に、変装のためにカツラをしているため、顔がやたらに暑い。3月のJTSシンポジウムとなるべく同じような変装を心がけた。原田のような敵を欺く必要があるけれど、野崎本人には、俺が戸山渉だと気がついてもらわなくてはいけないからだ。まだ7月の前半。日陰に入り風が吹けば少しは涼しい。だが、ここの学生にはそんなヤツらはいないように思える。日陰にいるような連中は、おそらく皆、いまだに就職先が決まっていない就活生だろう。そんなことを思いながら、俺は、野崎の講演が行われる11号館へ急いだ。1101の教室で行われる。外部からの聴講者歓迎と書いてあり、俺は悠々と前のほうの席を陣取った。すぐに野崎に気がついてもらえるようにしなくてはならない。14時5分、野崎が教室の後ろからやってきた。俺は、その様子を見ながら、野崎のところに近づいた。そっと近づき、こちらに気がついたはずなのに、野崎は一切表情を変えない。わざとか?俺は、事前に準備した、三つ折りにした紙を無言で渡した。三つ折りにした状態で見えるように「渦巻きと頭に毛が3本」のマークを書いておいた。あの竹田講堂で謎の女性から渡された封筒に書いてあったマーク。おそらくあの記号は、野崎周辺の人間でも、なかなか知らないはずだ。
 「なんだい?この手紙は?」
 と、野崎は言葉を発した。手紙を開きながらさらに続けた。
 「あ、君は、私のファンだね。わかった、あとでじっくり読んでおくよ。返事はここに送れば良いかな?」
 と言いながら、手紙を俺のほうへ向けて、俺だけに見えるように、人差し指をゆっくり動かして、平仮名を一文字ずつ指してきた。
 “は か っ て い る 、 マ て”→”わかっている、待て”
 俺は短く小さく「はい」と応えた。野崎に見せた紙には、シャーペンで少し大きめの字で、次のように記した。
 「野崎先生、戸山渉です。一週間以上連絡しなかった理由は、パラレルスマホとスマートグラスがハッキングされていると確信したからです。講演のあと、確実に二人だけで話せる場を設けてもらっていいですか?」
 手紙の内容を読みながら、手紙に使った文字を使って瞬時に答えを返してきた。野崎に会ったら普通に話せば良いかと思ったりもしたが、いつどこに研究コントローラーの手先がいるとも限らない。念には念を入れておこうと思ったことが正解だったようだ。野崎に真意が伝えられ、席に戻る。壇上に目をやると、野崎が笑ってこちらを見ている。まったく、人の気も知らないで。その余裕はどこから来るんだ?そんな表面上の感情とは裏腹に、野崎の笑顔は俺に安心感を与え、その安心感からか、一週間以上孤独を絶え抜いた疲れが突然どっと押し寄せてきて、倒れそうになった。

 14時20分から1時間の講演はあっという間に終わった。題目は「研究生活のあり方」。野崎が作った25項目のチェックリストでテストを行うことで自分自身の研究遂行力の点数がつく。まず200人ほどの聴講者が一斉に5分間ほどでそのテストを行い、自己採点。その後に野崎が1つずつ実例を挙げながら各項目を解説していった。このチェックリストが、分野に依らず、ポジションや年数に依らず、かなり精緻に作られており、研究コンサルタントとしてオファーを受けた研究室に数週間入る際には、最初に必ずこのチェックリストを使ったテストをやるのだそうだ。とても面白そうではあったのだが、俺自身は非常に疲れていて内容が頭に入ってこなかった。終わった後、ちらほらと、野崎のもとへ人だかりができていた。名刺を交換したり質問したりと様々で、俺もその列に並ぶフリをした。いよいよ俺の番だと言うときに、名刺をさっと渡された。
 「君は私のファンだったね。私の今後の予定や情報をここでチェックできるよ」
 と走り書きされた文字を人差し指で指しながら、俺に微笑んできた。
 「わかりました、ありがとうございます」
 野崎の演技にやっと慣れてきた。名刺には急いで書いた野崎の字で「16時に東都医療研究センター研究所前で」と書かれていた。16時まで約30分。早田大の校門の前に地図があることを思い出し、そこに向かうことにした。別に私用の通常回線のスマホを使えば良い気もしたが、なんとなく抑制された。

 16時まで、あと5分。東都医療研究センター研究所の前は、人通りがない。早田大からここまでは歩いてだいたい15分ほどだった。病院と併設されている研究施設のようで、一度病院側のほうへ向かったが、人通りが出てきて、こちらではないと察した。人気を避ける気がしたからだ。わざわざ「研究所」とつけたのはそういう理由か。それにしても、こんなにも人が少ないところで大丈夫だろうか?人がいなさすぎて、襲われる危険性が高い気がした。目の前には生活支援センターがあるのみで、公園付近にはそれなりに緑も多く、東京の真ん中と思えないほどの静けさだ。何名か看護士が通ったり、何台か車が出てきたり、入ってきたりしている。そんな様子を見ていると、突然、野崎の声がした。
 「戸山、こっちだよ」
 後ろを振り向くと、通りに車が止まっており、その助手席の窓から野崎が声をかけてきている様子が分かった。呼び捨てだったため、瞬時に反応できなかった。どうやらUターンしたようだ。車種は斉藤自動車のプルウス。色はシルバーだ。
 「とりあえず後ろに、乗って乗って。この辺は人通りが無いし、自由に喋っても大丈夫だけど、とりあえず、家まで行こうか」
 家って、野崎の家か?突然の展開に戸惑っていたが、俺はそそくさと後部座席に乗り込んだ。正直、コイツがどんな家に住んでいるのか、興味がある。でも、車がプルウスじゃそんなに良い家は期待できないように思う。運転しているのは、俺と同世代くらいの女性だった。
 「あ、こちらは、山下美弥子さん。私の周辺の雑用を引き受けてくれている」
 「どうも。戸山さんですよね?」
 山下と呼ばれた女性は一瞬こちらを向いてそう言った。
 「はい、戸山渉です。どうも」
 俺は、少し緊張感が走った。それは彼女が美人だったからだけではない。彼女が短く振り向くことで、こちらに注意を払った瞬間に漂った香りが、この一週間、疑義の対象であった山岡研M2の原田愛菜が近くを通るときに漂う香りと酷似していたからだ。おそらく彼女がつけている香水が原田のものと同じなのだろう。関係があるとは思えないし、この山下という女性は野崎の秘書だ。野崎が何も調べないわけがない。それにしても、こんなに若い女を秘書として雇っている野崎に、ほんの少し気持ち悪さを感じる。いや、だったら誰が適任なんだよ?と代案を考えてみると思いつかないけれど、なんとなく気持ち悪さを感じてしまったのだから仕方ない。
 「すぐに着くよ」
 車はどこに向かうのだろうか?車は来た道を戻る方向で、早田大のキャンパスの1つがまた見えてきた。
 「野崎先生、どうして、遠回りするところを待ち合わせ場所に選んだんですか?」
 山下美弥子が訊いた。
 「あそこが戸山で、彼が戸山くんだからだよ」
 一瞬、緊張感がほぐれる。だから、呼び捨てで俺のことを大声で呼んだのか?誰かが聴いていた場合、名前と地名を混同するように。いや、いくらなんでも、冗談だろ?そんなことを思いながら、しばらくぼんやりと景色を眺めながら、この一週間の孤独との戦いを噛み締めた。長かった。本当にこれしか術がなかったのか?なんやったら、この一週間のどこかで普通に山岡研に行っても良かったのかもしれない。いや、それはないか。だって、少なくとも、教授室の内カギを閉めたまま外カギを部屋の中に置いてきてしまった訳だし、このRC制度はそもそもの目的が研究をすることじゃないし、これで正解なはずだ。
 「戸山くん、今日はメシでも食べていきなよ。きっと大したもの食べられなかっただろ?」
 突然の野崎のフランクな提案にビックリする。
 「いや、それよりも・・・」
 「仕事の話は着いてからしよう。ほら、もう、飯田橋が見えてきた」
 まだ明るい外を眺める。この時期は16時過ぎでも昼間のように太陽が煌めいている。そんな太陽に対抗するようにそびえ立つ、やたら大きな2つの建物が見えてきた。40階くらいはあるだろうか?大きく目立つ双子ビル。
 「あれは桜ダブルタワー。手前が北棟で奥が南棟。あっちが東都科学大。で、あっちが政法大学だね」
 みるみるうちに桜タワーが目の前に見えてきた。外から見る限り、手前に見える北棟はショッピングモールのような施設になっているように思えた。土曜日のこの時間。やたらにカップルが多い。奥に見える南棟はマンションのように見える。で、あれが科学大か。JTSシンポジウムはあそこで行われたんだったな。あの時はまだこの仕事の危険度をきちんと認識できていなかったように思える。村松教授を追いつめたとき、少なくない優越感があった。権威に歯向かえるこの仕事を楽しめていたのだ。研究コントローラーと名乗る犯人から手紙がきて以降も、野崎の心持ちはあの時と変わらないのだろうか?
 「そんなわけで、そろそろ南棟に到着する。戸山くんは私たちの後ろを付いて来てくれれば良い。余計なことはしないこと」
 この桜タワーが野崎の家なのか?え?マジで?!この、億ションであろう桜タワーに住んでいる?俺は驚愕した。確かに野崎の能力は測り知れないし、一般的な知名度もそれなりにあるし、俺にぱっと1000万円を渡せるくらいには高額な資金のやり取りに慣れていることは知っていた。だが、それでも、ここまでの家に住んでいることを目の当たりにすると話は別だ。恵比寿にもこんな感じの億ションばかりが建っている場所があるが、ここは東京の中心と言っても過言ではない飯田橋。こんなところの億ションに、大学にいる教授の誰も住んでいないだろう。野崎は博士号を取っていないにも拘らず研究関連でメシを食っている、いわば失敗者だ。それでも億ションに住めるのか。いやむしろ、こういう生き方をしない限りは、理系はこういう場所に住めないのかもしれない。車は南棟の駐車場に入っていった。まだきちんと駐車していないが、ドアマンが手で合図をして車が停車した。
 「到着した。さぁ、車を降りてくれ」
 「おかえりなさいませ、野崎様」
 背広を着たドアマンの男性が、車から降りた野崎に話しかけた。手には白い手袋をしている。
 「あぁ、ありがとうございます。後は任せます」
 野崎がそう言うと、山下さんが車のキーをドアマンに預け、小さく「宜しくお願いします」と言った。ドアマンの男性は俺たちが乗ってきたプルウスに乗り込み、駐車スペースへと車を移動させていった。まるで高級ホテルの対応だ。
 「このマンションにプルウスで入るのはちょっと場違いな気もするんだが、仕方ない。あまり目立つ車に乗るわけにもいかないし」
 俺は野崎をこれまでとは変わった視点から見ている気がした。なんというか、金や散財という視点も、こいつにはあるのだなぁと思いながら、彼を見上げたのだ。

 駐車場からロビーに着くと、そこは高級ホテルそのものだった。フロントは2階まで吹き抜けになっており、大きなシャンデリアがあって、フロントマンもいる。明らかに座ると気持ちの良さそうな高級ソファを見てしまうと、この一週間ずっと安ホテルと漫画喫茶を行き来し、座ってきたおそらく安いであろうソファ達に何かの申し訳なさを感じた。ここに住めば、家にいながら、都会の真ん中でのんびりとした休日を過ごしたい、という想いが叶えられるだろう。エレベーターが6台もあり、そこに警備の人が立っている。目隠しされてここに連れてこられ、ここは何の施設だと思う?と問われたら、100%ホテルだと答えるだろう。野崎がエレベーターへ向かい、山下さんが少し後ろを付いていく。俺がさらに後ろを付いて歩く。こんなところにこんな格好でいても良いものだろうか?しかし、野崎に連れられてきているのだから仕方ない。エレベーターの前に立つ警備員が野崎に話しかけてきた。
 「野崎様ですね?」
 「はい。隣へ」
 野崎はそっぽ向いて答えた。
 「かしこまりました」
 エレベーターに乗り込むと、警備員も乗ってきた。警備員はカギを取り出し、カギ穴に入れて回すと、小さなボタンのようなものを出した。すると、野崎は指をそこに置き、リズミカルにタップした。指紋認証だ。まぁ、そんなものは、今の時代、スマホにもついている機能か。
 「では、お気をつけて」
 そういうと、警備員は会釈して、エレベーターから下りた。
 「これから北棟に向かう。いったん地下3階に降りねばならないのが厄介だが、安全のためだ」
 地下3階に着くと、さっきほどまでの豪華さと一転して簡素なフロアーが現れた。廊下をまっすぐ進む。またエレベーターがあり、それに乗り込むようだ。今度は警備員はいないし、一台しかない。
 「私の部屋は35階だ。山下さんはもう部屋に帰るだろ?」
 野崎がそう言うと、山下さんは頷いた。すると、33階のボタンも押して、言葉を続けた。
 「じゃあ、戸山くんは私の部屋に」
 「ここ本当にすごいですね」
 すると、野崎は笑顔で返してきた。
 「3年前に警察病院を取り壊して、この桜ダブルタワーを作ったんだ。表向きは四井不動産が土地を買い取り、南棟の高級マンションと北棟のオフィスビルのセットというカタチになったんだが、本当の目的は私のように警察に協力している人間の安全な居住を提供すること。特にこっちの北棟に居住スペースがあることは普通知られていない。戸山くんも秘密にしておくように」
 「っていうことは、野崎先生は、ここをタダで使ってるんですか?」
 俺は思ったことをそのまま言った。
 「その通り。今通ってきた南棟には実際に多くの金持ちが住んでいる。まぁ、とは言っても意外と安くて、1LDKの部屋で月々30万円ほどだ。図書館やジムが使いたい放題だし、お手頃価格だろ?」
 どこが安いんだ?俺の心の中のツッコミを置きざりにして、野崎は山下さんのほうを見ながら言葉を続けた。
 「私はこちらに移ってきて、まだ1年。山下さんは2ヶ月だね。慣れた?」
 「いえ、似合わない着物をいつまでも着させられている気分です」
 俺は笑った。野崎も笑っている。そらそうだ。っていうか、この子は何者なんだ?

 山下さんとは33階で別れた。2人で野崎の部屋の前に到着すると、カードキーをドアのところに入れて、さらに暗証番号および指紋認証の後、ようやく入室した。中はものすごく広い。一人でこんなところに住んでいて、寂しくならないのか?というような広さだ。
 「さて、ここでも、まだ、話す気にはなれないかな?まぁ、戸山くんの持ち物のどこかに発信器がついていたとしても、一週間以上経っているから電池が持たないはずだし、ワイヤレス充電はまだまだ研究段階で商品化されていないし、仮に使われていたとしても東京はフリーWi-Fiゾーンが少ないからね。確実に大丈夫だと思うけど、完全に電子ネットワークから抜け出す部屋にでも行こうか?」
 そういうと、入り口から2番目に近い部屋に入った。扉を開けると、そこには、何も無い空間が広がっていた。家具1つ置いていない。まるで、引っ越してきたばかりで、これから家具を置きましょうといったような印象だ。
 「この部屋はドアを閉めれば電磁遮蔽が完璧になされている。何を話したとしても外部に漏れる心配は一切無い。高度な技術が発明されればされるほど、こういう落ち着いた部屋を人間は欲するようになる。考え事をするとき、私はこの部屋をよく使う」
 電磁遮蔽が完璧になされている部屋。アルミホイルでも全体に巻いているのだろうか?わからないが、そんな場合ではない。話さなくては。水酸化ナトリウムのことも、パラレル回線が原田愛菜によってバレていることも。しかし、野崎が先に話をしてきた。
 「さて、戸山くんに話してもらう前に、私が戸山くんについて掴んでいることを先にお伝えしよう。パラレル回線がヤツらにバレている。そう思っているんだろ?」
 「その通りです」
 「その根拠は?」
 「秘書の友川さんのパソコンのパスワードを知るためにスマホをしかけたとき、実は僕、試薬リストを軽く見ておいたんです」
 野崎は目を見開いた。俺は言葉を続けた。
 「偶然、試薬リストが開いていて、ほんのちょっとだけ見ました。そのときは、水酸化ナトリウムという記述が確かになかったんですが、得られたパスワードを打ち込んで深夜に潜入したときには、水酸化ナトリウムの文字があったんです、2015年の9月24日に」
 そう言いながら、私用のスマホに撮った写真を野崎に見せた。
 「そんなの、最初に戸山くんが見たときに、見間違えたのかもしれないだろ?」
 「その可能性は考えたんですが、9月24日は見間違えないと思うんです」
 「その日って、何かあるっけ?」
 「ええっと、僕にとっては、修士論文でのチャンピオンデータが出た日が2015年の9月24日なので。最初に見たときにも、そう思ったことは覚えていたし」
 野崎は俯いたままだ。俺は言葉を続ける。
 「それに、M2の原田さん。あの人あやしいですよ。午後イチ、っていうのを、僕がパラレルスマホで野崎先生に書いた直後に、同じようにそう言ってたし・・・、だって、午後イチって普通午後1時のことでしょ?でもあのとき、僕は午後2時の意味で使った。それを僕とまったく同じ意味で間違えたんですよ?それを他の人に追及されたときに、嘘をつく時の仕草をしていたし」
 「嘘をつく時の仕草?」
 「彼女、嘘をつくとき、髪を後ろに流して、片側だけ前に戻す癖があるように思うんです」
 野崎は考え込みながら、突然こちらに表情を写し、微笑みながら応えた。
 「なるほどな。戸山くん。実はね、高野先生から訊いたんだが、原田愛菜はこの一週間、君と同じく山岡研究室に来ていないんだよ」
 「え?」
 俺は悪寒がした。どういうことだ?こちらの行動に気がついて、どこかへ消えてしまったのか?それとも??
 「それも無断でね。何の連絡もないそうだ。だからその憶測は合っていると思う。他に何か無かったかい?」
 「いや、めちゃくちゃ、あったんですよ。あの潜入してた深夜、教授室に入ろうとしてきたヤツがいて」
 「なんだって?どういうことだ?」
 野崎は微笑を消し、驚いた表情をした。
 「部屋に侵入したときに内カギをかけていたから、窓から逃げてなんとかなったんですけど、マジでやばかったですよ」
 「その話は実におかしい。なるほど、戸山くんはかなり優秀なRC研究生のようだな。いや、実は、私はパラレル回線がハッキングされているんじゃないかと薄々感じていた」
 え?そうなのか?じゃあなんで手を打たなかったんだ?俺は野崎の言葉を待った。
 「だから、あえて絶対にありえない犯行の手口を推理し、調査してみることで、必ず何かしらが見えてくると思ったんだ。だって、あの手紙が来た時点で、こちらの手がバレていそうなことは検討がつくだろ?水酸化ナトリウムの予測はフェイクだよ」
 それは冗談キツいっすよ、野崎先生。こっちとら、命狙われてるんですから。ってだから、給料が高いのだった。仕方ないっちゃ仕方ない。
 「犯人達は戸山くんと私のパラレル回線での会話を、少なくとも一部見ていたはずだ。だから、あの日、私は君に様々な指示を分単位で与えた。ヤツらが何かを仕掛けていた場合、あたふたするように。しかし、ヤツらが、それでも何かを行動できるのだとしたら行動してくるはずだし、私には何も行動しないだろうという予見があった。なぜなら、そこで何か私たちに危害を加えるつもりなら、もっと前に私を含め、何らかの攻撃をしかけてきても良いはずだからだ。そして、今の戸山くんの話から、ヤツらは、わざわざ試薬リストを書き換えてまで、水酸化ナトリウムで遺体を溶かして捨てた、と我々に死路に導くように仕向けたってことは、まだ我々を泳がせたかったということ。それなのに、そのタイミングで、戸山くんだけを襲ってくるのは、不可解だ。何のメリットもない」
 言われてみればそうだ。こちらの情報が筒抜けだったとして、あのタイミングで教授室の扉をがちゃがちゃと回して、俺を連れ去ろうとしたり、殺そうとするのは、不可解だ。それが目的なら、さっさと殺しているはずだし、そうでないなら、もっともっと泳がせるはずだ。
 「私は戸山くんに何かあっただろうと思って、講演を引き受け、そのことをSNSで公表した。だから、実は、さっきのあのタイミングが危うかったのかもしれない。だが、我々はこうしてなんとか無事に帰還している。考えられるのは次の2つ。研究コントローラーたちが仲間割れを起こしているケース。たとえば、ヤツらのうちの一人が戸山くんと私のパラレル回線にハッキングすることに成功していて、その情報が仲間全体に及んでおらず、単独で行動してきた結果が、仲間内に突然伝わったことで、指揮系統に混乱を生じさせた可能性だ。もう1つは、彼らが断片的にしかパラレル回線の会話を把握できていないケース。まぁ、可能性が高いのは後者だろうな」
 俺が一週間考えていたことをあっという間に把握してしまう。
 「心配は要らない。最新の量子暗号をベースとした暗号化ソフトを組み込んだパラレルスマホが来月には届く。これが解読されることはまずないし、戸山くんにはその間、この桜タワーにいてもらう。他のRC研究生には私がなんとか伝えよう。まぁ、位置情報が読まれているとしたら、自宅にいられたら危険で仕方ない。落ち着くまでここに住むしか無いだろうな。大丈夫、ここはものすごく警備システムが厳しいし、どこかで狙われたとして、たとえ爆破されるとしても、居住スペースである南棟が狙われるはずだから」
 コイツ、さらっとすごいことを発言したぞ。しかし、ここに住めるのか。こりゃいよいよ俺の金銭感覚が狂ってくるな。
 「そんなわけで、まぁ、ここから都王大の根津キャンパスはすぐだから、自転車で通っても良いけど・・・、またこういう時のために、これを覚えておいてよ。とりあえず、山岡研は放置でイイからさ」
 野崎は笑顔だ。放置でいい?本当にそうなのか?野崎はA4で印刷した紙をホチキスで挟んだ資料を渡してきた。
 「なんですか?これ?」
 「RC式モールス信号」
 モールス信号。スパイものでよく出てくる、あれか。
 「普通のモールス信号だとバレたら一発だ。だから、私が改良しておいた。覚えやすいしバレにくい。まぁ、それはすぐに覚えなくてもイイが・・・、それでっ、井川くんのことは、何か分かったかい?」
 野崎は突然、山岡研でD5で現在行方不明になっている井川くんの現状を訊いてきた。まぁ、そのために俺は潜入してるわけで、当然っちゃ当然か。
 「うーん、井川さんにとって、同期の豊杉さんがけっこうキツかったんじゃないですかね」
 「まぁ、それは私も感じていたことだが・・・」
 「井川さんが、研究者として大事なことは何か?って訊いたときに、豊杉さんは、自分で物事を考えられること、と答えたみたいですが、豊杉さんは本当は、有機合成の分野だったら、とにかく手を動かすことだって思っているみたいで、そんな豊杉さんが成功していく様子を、井川さんは見ていられなかったんじゃないでしょうか?」
 「”そんな豊杉さん”とは、どういうこと?」
 「なんというか、上の人にとって使いやすい若手でいることが研究者として最も大事って思っているあたりです。その考え方だと自分が上の立場に立ったときに完全に困るんじゃないかなぁと。だって、一生誰かに媚び諂って生きていくことはできないじゃないですか?」
 「それはそうだけども・・・、じゃあ、戸山くんは、研究者として最も大事なことは何だと思うの?」
 野崎のこの質問は何を意味するのだろうか?調査が大事なんじゃないのか?
 「難しいですが、僕は、研究者として大事なことは、研究者として大事なこととは何か?という問いを常に自らに問い続けることそのものだと思うのですが」
 すると、野崎は、指を鳴らしながら、「ダウト!」と言ってきた。
 「それはウソだし、卑怯だよ」
 突然の誹謗中傷発言にビックリして、反射的に言葉が出た。
 「なんでですか?」
 「研究者なんだろ?間違ってもイイからまずは答えを出せよ。問い続ければイイ?答えも出さないくせに、なんだ?その舐め腐った態度は。それじゃあトートロジーじゃないか。確かに、多くの研究者が、その問いに対して、論文が書けること、と実務的に答えたり、好奇心を持つこと、と退屈な一般論を述べたりする。だが、彼らが戸山くんと違って偉いのは、周囲から叩かれる可能性を享受しているという点だ。戸山くんは、権威主義を否定しながら、答えを出さなければ叩かれることはない、という自らの怠惰な思考停止を、考えていそうな言葉に収束させている点で、より自己欺瞞的だし、卑怯だし、なにより、コインをひっくり返せば、戸山くんが嫌っている権威主義的な考えそのものだ。トートロジーも甚だしい」
 「そこまで言うこと無いじゃないか!」
 またもや反射的に言葉が出てしまったせいで、敬語を忘れてしまった。
 「ダメだよ、戸山くん。理系はどんなことがあっても怒りを露にしちゃいけないんだ。クールでなくてはならない。感情的になった時点で君の負けだよ」
 その通りではある。俺は自分を抑えながら、反論を探した。
 「じゃあ、野崎先生は、何が研究者として大事だと思っているんですか?!」
 「知らない。わからない。私は博士号を持っていないし、博士課程の学生でもないし、これから目指す気もない。研究者ではないからね。だが、戸山くんの帰結が最悪なのはわかる」
 なんて勝手な奴なんだ。一刻も早くここから出ていきたい。そう思ったが、野崎は予想外の言葉を使ってきた。
 「まぁ、確かに。少々言い過ぎた。悪かった。つい、昔を思い出してしまって。でも、何かしらの答えを出すということは、とても大事なんだ。だから、私も、何かしらの答えをこの瞬間に言わなくてはならないだろう。研究者として最も大事なこと、それは、とにもかくにも生きていること、だと私は思う。この”生きている”という意味は、ただ生命的に生きていれば良いということではなく、どのような状態であっても、まずはその場にいて、悠然と生きている、という意味だ。だから、私は、研究室がいくら劣悪な状況でも、井川くんのように研究室に来なくなってしまう人を完全には肯定できない。確かに、へーこらしているほうが上手くいく、そういう世の中かもしれない。でも、そこに真っ先に甘んじているのは井川くん本人だとは思わないか?だって、その場に存在しようとしなくなってしまうのだから。世の中は所詮まだまだ権威的なのか、だったらいいやー、と研究室に来なくなってしまい、延いては社会から自分を隔絶してしまうのは、誰でもいつでもできる手段だが、現状を何も変えようとしていない点で最悪だ。まぁ、可哀想ではあるけどね」
 今までで初めて野崎が詫びた。俺は怒りよりも、あっけにとられてしまった。
 「さて、疲れただろう?とりあえず夕飯にしよう」
 そう言うと、野崎は、部屋を出た。

 その頃、桜タワー北棟33階にいる山下美弥子は、テレビを見ながらSMSで会話をしていた。
 「あ、そういえば、こないだ教えてくれたロアレルの流さないトリートメントの新商品、使ってみたんだけど、すごく香りがイイね」
 「でしょでしょー。美弥子も使ってみた?前にね、何かのサイトのコスメランキングで香りがいい部門で上位だったよ」
 「まぁ、その香りを世の男どもに振りまく瞬間は、まだ訪れてないんだけどね。泣」
 「貴女、まだ、野崎って研究コンサルタントの先生のところにいるの?」
 「そうよ。そのほうが安全だし」
 「で、私にも、まだ、どこにいるかは教えてくれないってわけ?」
 「ごめんね、お姉ちゃん。野崎先生が絶対ダメだって。私だってつらいのよ」
 「それはそうかもしれないけどさぁ。まぁ、男運がないわよね、美弥子は」
 「そういうことじゃなくて、お姉ちゃんに会えなくて、ってこと」
 「だったら、どこにいるかくらい教えてくれればいいのに。まぁいいけどさ」
 「お姉ちゃんのほうこそ、異動なんだよね?」
 「そうよ、今度は関西方面」

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8. 放任と管理/『研究コントローラー』につづく

 『ここのところのこの話、事実やで』
 「え?たかはしさんがもって書いてるんじゃないんですか?」
 『いや、マジでこのまんまやで。色々あるんやで、研究室は』

 さぁ、どこがフィクションでどこが事実か、考えながら読み直してみましょーね、全部(笑)
 事前に読んで添削してくれた方、有り難う御座いました。
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この悲しみも過ぎてくのかな

2016-07-06 02:22:21 | Weblog
 怒っている理由を突き詰めてしまえば、必ず、怒っている人自身の無能力に行き着く。
 怒った時点で負けを宣言しているのだから、どうでもいい人が怒っている場合、めんどくさいからそれ以上は追及しない方が良い。なぜなら、感情が(自分の弱さを埋める目的としての)対人に由来しているのだとしたら、すべての感情の根源は怒りにあるのだから、下手に余計に追及すると、深く関わらなくてはいけない必要性がでてくるからだ。

 その、感情の基本で、本来ただのめんどくさい代物である、その「怒り」が、尊くなってしまったのは、いつからだろう?

 手を伸ばす意味さえ知らなくても自然に手を伸ばせていた頃、何をするにしても意味なんか要らなくて、ただただその瞬間を笑っていられればそれで良かった。「感情を出すの苦手でしょ?」とか「怒ってるの?それで感情を隠してるつもり?」って煽ることで笑い合っていたとしても、行き先なんてどこでも良かったわけで、どうせ空には届かないだろうと思っていた。
 今でも行き先なんてどうでも良いと思っている部分は確かに大きい。やりたいことなんて本来ないし、そんなもんがあるほうがどうかしていると思う。でも、少なくとも、せめて、繰り返しの中から生まれてくると期待してしまう、情熱で報われる孤独を否定したくて、それよりは、もっともっと、全然違う世界へとチャレンジしていけたらと思うのだ。その指針さえ、その一端さえ魅せてくれれば、安心できる。これで良かったと自分に言い聞かせられるのに。

 心が共鳴する瞬間というのは、お互いの関係についての言葉なんて、どんなものでも良いのかもしれない。何物にも縛られない、一過性でも、その共鳴の瞬間こそが至上。
 ただ、でも、足早に季節が過ぎていくことに、夢のような時が途切れてしまうことを恐れているのだ。

 このままの状況で進んでしまった未来から観測したときに、今まだ全然色々変えられるわけで、可能性が大きいわけで、まさに夢を見ているように成り立っている現在の幸福にとって後悔しないくらいには、今できることを考えて、それを続けていけたらと思う。
 だって、人生は一回きり。死んだときに、「あの人は大変に無難で、それなりの安定を得ていて、マジョリティーだった」なんて褒められ方したくないでしょ?

 あの夏に戻りたい、と短絡的に考えている時も確かにあるにはあるけれど、それはきっと、ホンモノとは言えない。
 だとしたら、人生に失敗は原理的にありえないのだから、自動的に、この悲しみも過ぎてくのかな、と決めつけて良いと思う。

恋を知らない君へ / NEWS
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ソーシャルメディアのまとめ2016

2016-07-04 03:14:49 | Weblog
 さて、今回は、今のソーシャルメディアについて、簡単にまとめてみましょうか。たまには、こういう記事もありでしょ?
 何個くらい出てくるかわかりませんが、とりあえず出会ってきた順にしましょう。

 1. mixi

 まだあんのか?っと思って、こないだログインしたら、ちゃんと存在していてビックリしました。試しに、最近YouTubeにアップした音声を貼っておいたら、mixi経由で観たの、たった2人。まぁ、もともとmixiそんなにやってなかったのだけどね。
 普通のインターネット空間ってのは、やたらめったら自由度が高すぎて無秩序状態です。ここにマイミクという秩序を生み出したのがmixi。紹介制で自分の知り合った人、知り合いの知り合いの人、など、ある程度の秩序ができるので、ブログで日記を公開するよりも、mixiで日記やタイムラインを更新した方が観る人が増えます。というか、増えた気になっているだけで、、俺から言わせると、ブログで公開して読まれないってのは、その程度の文章しか書けてないんだ、と反省しろよ、って思えてしまうんですけどね笑。

 まぁ、でも、当時はそれなりに画期的に思えました。リアルっていうSNSもmixiの影にあったんだけど、覚えている人いるかな?確かほぼmixiと同じで、mixiの隙間産業みたいな感じだった気がします。mixiがオープンな空間になりつつあるようになると、こういうのが出てくるんだよね?「リアルのほうには書いたんだけどさぁ」ってね。
 そこに上手く参入していくのは、次の「Facebook」になるわけですが。。

 2. Facebook

 Facebookはmixiと殆ど機能が変わらないのに、何故かこちらはグループ性(ノリの良さ)が高いんだよね。mixiは純和製なんだけど、Facebookは外来種って感じがしますよね。だからかな。確かに、投稿するときに、英語で書いたりすると、ちょっとカッチョ良いもんね。
 Facebookは、「いいね!」獲得競争みたいなところがありますが、最近ではそれを超えて、住所みたいな感じになってますよね。確かにFacebookやってると色々便利で、知り合いみんなに告知したい時(結婚しましたーetc.)とか、疎遠だけどちょっと個人的に連絡したいときとかに一番便利なツール。

 ていうか、Facebookは、もう過疎ってる気がするし、殆ど「住所」みたいな機能しかないですね。やってないと住所確認が取れない、ってこと。いま写真とかあげてると、正直「なんで?」って感じすらするときもありますし、、飽きてるだけかな?笑
 でも、まぁ、Facebookというツールは、各グループのその後がよくわかるのが良いところですよね。Aグループって、まだその仲間で飲んでるのかよ!、と思う率が高い、とかいう考察も、Facebookあってこそだし。

 3. 2チャンネルまとめサイト

 2chは書き込んだことないんですが(すっごい昔に1回くらいあった気もするけども・・・)、ここ5年くらいで、まとめサイトをやたら、よく見るようになりました。
 なんだっけ、2chって、今、何個あるんだっけ?そんなのも把握できてないわけですが、ここの連中の会話は面白いです。絶対に口喧嘩したくない連中ですよね笑。

 2chにまとめられることがブログがバズる一番の要因になったりしますが、うーん、そのラインを超えずに、ひっそりと運営したいもんです。いや、皆さん、そう言いますけど、これでも全然、ひっそりしてると思いますよ、そういう気でいるし、俺自身が。
 実は2chの本質って言うのは、1000までしか書けないところにあると思います。そのテーマがサチるのが、だいたいそこに向かっているので、どんな話題でも、話がまとまるように自然と仕組まれています。これがおもしろいポイント。あと、沢山新しい言葉も生まれていますよね。

 4. LINE

 LINEは親しい人と、ぱさぱさ連絡を取り合ったり、会話したりするツール。最初はリアルみたいな超一過性のもんでしょ?と思っていたんだけど、意外と息が長いツールになってしまいました。
 中高生の頃よく、電話がタダだったらなぁー、と思いましたが、Skypeで電話できるようになったのが、俺が大学生の頃。マジか!と思いましたが、LINEはそれをもっと近いものにしてしまいましたね。

 このLINEは秩序度合いが一番が高いですよね。写真、動画、音声、色々と気軽に送れるものが増えたイメージを与えているのも、このツール。「あ、ネコだ」パシャ!「これ可愛いでしょー」ができる。それも、仲良しグループから家族から友達から実は狙ってる女友達まで、どの人数でも、どの人にでも、誰にでもできます。いや、メールでもできるんだけど、なんつーか、気軽さが全然違う。殆ど、会って話しているのと変わらないイメージを、多くの人は持っていると思う。
 しかし、何故かLINEはFacebookみたいに住所にはなりえない。しょっちゅう、ID変わりましたー、みたいなんが多くて、、っていうか、自分のIDちゃんと覚えている人っていないんじゃないか?もしかして。PCでLINEしてる人もたまにいるけど、なんとなく、メールの次善策、みたいなイメージが拭えないのよね、LINEって。の割に(いや、だからこそ、かな?)、住所にはならない。不思議。

 5. Twitter

 お待たせしました。皆さん大好き、Twitter。これは秩序と無秩序の間くらいのツールで、画期的だと思います。まだ、本格的にやり始めて半年くらいですが、俺の順応性は早いです。
 思い立ったらツイートしてる自分がいてビビるよね。思いついたら、すぐに、140文字以内で文章まとめてる自分がいたりして笑。Twitterしすぎると、ブログで書くこと無くなっちゃうんだよなぁ。

 リプとか引用リツイートとか、やたら使いにくいのに、なんかみんな苦情みたいなの無いよね。ただただ使ってしまう。そして、Facebookと違って、相互承認ではなく、片思いで成立するのが良いところだと思う。テキトウにフォロバして、フォロバされて、え?意外と有名人じゃーん、みたいなね。まぁ、だからなんだ、って話ですが、読んだ本とかツイートすると、著者から感謝されたりするのは面白い。エゴサおつ!、いやー、恐縮です、って感じ。まぁ、宮澤さんともTwitterで出会ってるし、こういうのやってないと、何かのチャンスを逃しそうではある。
 フォローが増えると、フォロワーが増える。フォロー分のフォロワーとかで、その人の価値を測ってみたら面白いかもね。フォロー分のフォロワーが1以上だと、有名人として定義する、とかさ。これだと短絡的だけど、何かしらできる気がする。

 6. Skype

 いや、全然、もっと前から使ってるんだけど、最近やたら、これ、使う機会が増えてる気がしまして。。
 これとYouTubeとか組み合わせてー、みたいな時代になりそうだよね。

 世界中の人と会話するためには、Skypeというツールが一番無難な気がします。これで会話する時は、たいてい、Skype専用とSkypeしながら調べる用の、パソコン2つ開いて、使ってることが多いです。宮澤さんとのツイキャスの時とかもそうだし、Skype相談のときもそうです。便利便利。
 MacでSkypeしてると、未来人気分なんだよね。ハンドフリーだし。ちなみにテレビ電話にするのは嫌です。なんで、顔見ながら話さないとあかんねん、と思いますが、向こうの人って、わりと顔みたい率が高い気がしますが、、俺だけかな。


 さて、今週は、ついに、Instagramでも始めてみるかな。
 それこそ、Facebookと何が違うねん?って思うけど。
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永遠に戻ることのない時の中で

2016-07-03 03:11:51 | Weblog
 行動できない理由はどこにあるんだろう??

 気持ちが足りないから?所詮、その程度の気持ちだから?
 能力が足りないと自覚してるから?変えられる自信が持てないから?
 原理的に無理だと頭で分かってるから?考え尽くせていないから?

 理想はたいそう立派なもんで、心の中にあり続けるのに、それに向けて実現するための具体的な方法が思いつかないとき、あらゆる事柄から目を逸らしたくなる。ただただ即物的に楽しいことばかりを繰り返していればラクなような気がするし、この程度自分を誤魔化すことなんて、大したことじゃない、って言い聞かせながら、まったく別のどうでも良いことに対して、真剣に取り組んでみる。
 はしゃぎ疲れ、新しい仲間の優しさを感じた頃に、忘れたことにしたはずの、この寂しさが、胸の扉を叩いてくる。あの日に唯一垣間みれた気がした素直なままの瞳のホンモノの笑顔を取り戻したくて、もっともっと素直になれればいいのに。どんなことでもいい、ふいに笑い合えたなら、言葉さえも何も要らない。

 何もできないことの罪悪感と行き場の無い虚無感を打ち消そうと、どうでもいい一般大衆に対して、より良くすることを繰り返す。それが達成されればされるほど、自分が本当に解きたい問題の持っている特異的な難しさに打ちのめされる。成功すればするほどに、せめて、遠い世界からでも、ほんのちょっとでも、と、また追いかけるようにイイワケが繰り返される。

 永遠に戻ることのない時の中で、この先に希望を見出していけるのだろうか?
 どんなことがあったとしても、弱気になってはいけないのにね。

Ms.OOJA - このまま君だけを奪い去りたい
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"お金"と"学ぶ"の関係性

2016-07-01 00:53:45 | Weblog
 自分のマイナス部分を高らかに宣言することで切り札とすることが常習化してるヤツは向上心が欠如している。これだけはやめてくれ、というやつです。

 最近はもう大人になっちゃったからあんまりそういうシーンも減ってきたけど(と言ってもまだまだあるけど)、例えば、うちはお金ありませんアピール、とかね。
 やたらめったら、お金ないアピールを普段からしまくってるわりには、集団心理的に参加しなくちゃいけないイベントは、ちゃっかり全部参加してたりしてさ。その集団を出て行ってまで生活の水準を守らなきゃ、というところまで切迫している訳じゃなくて、お金ないアピールすることによって得をすることを知っているからアピールしてる、みたいなのって、ここ20年くらいでやたらめったら増えたと思う。
 っていうかさ、だいたい、具の無いカレーはとろみがつかない、くらいは知ってないと貧乏じゃないでしょ。で、ここまで貧乏な家庭出身のヤツって、マジで語りません。本当の本当に信頼関係を結ばないと、こういう家庭の事情のガチのヤバさって、なかなか聞き出せませんよ。当然、みんながみんなアピールのために、お金がありません、と主張しまくってるとは思ってないけど(中には本当の人がいるのはわかっているけど)、これを繰り返してる人は、今一度、自分に問うてみたほうがイイと思う。
 (で、あらゆる支援団体って、こういうお金ありませんアピールの人に支援する傾向があるんだよね。お金無いんですけど自分は優秀です、をどうやって演出できるか?みたいな点が重要になっちゃってさ。恥ずかしくて貧乏なことを全面に押し出せないくらい貧乏な人は、支援団体に申請書を書くまでもいけないし、第一、そういうの書いてられる時点で(もしくは、その情報を得られている時点で)、俺は余裕がある気がするんだけどなぁ。マジで金ないんなら、こんなブログ読むなっと思うし、スマホも持つな、と思います、悪いけど。で、そうせざるをえない人って、マジでいるからね?そういう人に対して支援する取り組みを作らなくちゃいけないんだよなぁ、本来。)

 あと、数学ができないことは個性だ、とか言い出すヤツね。勉強ができないことを切り札的に言うバカ、本当に嫌い。
 もう、今日は、ためしに、ある程度箍を外して書いてみてますけど、、そんなん、個性でも何でもないだろ。勉強できないヤツって、だいたい同じじゃん。東大生って、そら色々問題はあるかもしれないけど、一番の長所は、つまらない(かもしれない)ことに対してきちんとコツコツ取り組めるだけの忍耐力がある、ってこと。で、それは、自身での判断が可能になってくるから(勉強ができる人でそうじゃない人も沢山いますけど、勉強ができない集団よりはよっぽどこれができる人が多いから)、個性的な人の産出に繋がります。

 何かができない、何かが足りていない、ということを、そのまま掲げて、切り札にしないでください。そんなん、ウザイだけです。

 マイナスをプラスに変えて、それを切り札にしているなら超イイけど、自分のマイナス部分を露呈させて、助けてくださーい、恵まれてないんでーす、って、言っても、そのアピールの上手さだけが評価基準になってしまっている限り、本質的じゃないし、、そもそも、そんなヤツ、あなた自身が、助けたいですか?
 助けたい人、っていうのは、当人が十分にヤバい状況なのに、それでも誰かにちょっとでも優しくしようと心がけている人じゃないですか?少なくとも俺が個人的に好きになる人はそういう類いの人だし、そういう人じゃないと本気で手を差し伸べようとは思いません。

 マイナスを露呈させることで助けてアピールをしている限り、きちんとした"学ぶ"を得ることは絶対にできません。だって、誤魔化しが身体に染み付いちゃってるんだから。
 たいていの場合、元恋人と話したら心が惹かれそうになっちゃった一瞬は、現在進行形でのホンモノではなく単なるノスタルジーであることと同様に、社会人になってから(もしくは、大学院で研究を始めてから)「ちゃんと勉強したくなったぜ」なんて一過性の感情は、ホンモノではなく単なるノスタルジーです。

 で、ワンステップで仕事や研究に直結するようなことしかやらんのだろ?本気の本気なら、体系的に、無駄な学習をやってみろよ。そんなこともできないのに、学びたい、なんて、容易く言うな!
 そんなん、こちとら、どれだけ本気で、学んでると思ってんだ。本気で学ぶために、無職や無所属にもなれないヤツが、学びたい!なんてほざいてんじゃない。それくらいの気概で報われてないヤツなんて、周囲にゴロゴロいる。そういうヤツらに失礼です。だから、せめて、誤魔化したなりの手遅れな人生を生きてください。それが、誤魔化してしまったリスクを背負うということだと思います。
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