たかはしけいのにっき

理系研究者の日記。

醒めた夢

2018-03-15 00:59:16 | Weblog
 案外、何かの絶対性を本気で信じられていた頃って、ただ単に夢と欲望の違いに鈍感なだけだったのかも。
 遠くから過去の自分を見つめて、いちいち感情的になれていることに虚しさと羨ましさを同時に感じながらも、この人格が今も自分のなかに残っていないかを隈無くサーチしている。

 何かの文章を書くときも、何かの論理を追うときも、何かの歌を歌うときも、何かの意見を口にするときも、何かの作業を繰り返すときも、身体に染み付いてしまった基礎に自然と従いながらやっている自分にうんざりしながら、環境そのものと自分自身にゆらぎをあえて与えて、楽しんでみる。
 本気じゃないからこそ本質的になれることがあるし、熱中していないからこそ気がつく視点もある。そして、その成果物の一端について、他人から、オリジナリティがある等と評されると、素直になれず、天の邪鬼に『理解できていない』などと切り捨てて、あざ笑う。

 確かに実際に『理解できていない』ことは多いだろう。
 でも、確認のしようもないし、そもそも、もう、確認したいという気持ちを持てるだけの本気ささえない。そのぶん得られた「ゆとり」や「あそび」の部分が大切になってきてしまって、コアの目的以外の目的を見失ったままになっている。そして、そのコアの目的も達成されようとしている今、これまで以上に、この曖昧さこそが大事なんだという論理に落とし込もうとしている自分を、誰も止められないし、止めさせたくない。

 つい10年前は、「やりたいことはなにか?」と問われたら、眼を輝かせながら語ることができた。
 今は、「やりたいことはなにか?」と問われることは最も俺がイラついてしまう言動であり、そう訊かれれば、テキトーに気分で応えるか、「あなたがすでにストックしているストーリーに上手くのせて喋ることができないので、応えなくても良いか?」と確認をとる。
 それは逆に言えば、「やりたいことができすぎてしまっている」せいなのかもしれない。だから、「きっとやりたいことができていない人生なんだろう」と決めつけてくるのが、ムカつくのかもしれない。

 昔のキヲクを掘り起こされて、当時の薄っぺらさに気を病む日もある。チャランポランに生きてみたときに得られた種々の帰結に比べて、なんと思慮の浅い帰結で、、でも、多くの"普通"の人たちが、実際にそっちの軽率な思考回路を支持してくれていたことに、いっきに絶望してしまうこともある。

 だけど、あんな日々よりも、今のほうが遥かにマシなことも確かなわけで、幻想のなかに最適化していける魔法があればかけてほしいけど、そんなことは現実にはありえないわけだから、今の自分だからこそ得られた知見を抱きしめながら、自分の大切な人にだけ配っていたいと思っている。
 醒めた夢に戻ることは、ほとんどできないのだから。
コメント
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卒研配属以前に早くから研究室で研究することと援助交際の類似性

2018-03-07 00:08:39 | 自然科学の研究
 私は昔(大学時代)から、卒研配属以前の子(つまり大学1年生や2年生、最近だと高校生・中学生など)が定期的に研究室に出入りして実験したり研究したりすることに、基本的に反対している。(この記事は理系に限る)
 この"早期に研究室で研究する行為"について「善くないんじゃない?」と言うと、「なんで?」とか「早くから研究するんだから、業績も出やすいし、良いじゃん」とか言われることが多い。みんな、"早期に研究し始めること"、つまり、いきなり終状態を体験することを無条件に善しとしていることに、私は強い違和感を覚える。

 私の意見に否定的な彼らから、まず感じるのは「教育の終状態は研究」という前提だが、これは完全に間違っている。(中等or高等)教育には、研究とは別に、広く社会人として、もしくはその分野の専門家として「知るべきことを知る」「理解すべきことを理解する」という目的があるわけで、研究ができているから即ち教育課程はすっ飛ばしても良いはずだということはあり得ない。よーするに、研究を始める前に理解すべきことを理解すべきであり、研究やそのための実験をしている時間があるならば、まずはきちんと座学を理解すべし、という至極当たり前の立場を私はとっている。(他にも、アルバイトや(学業系以外の)サークル活動や同年代の普通の子との交友関係なども、大切だと思う)
 と言うと、(自分のことを)早熟(だと思いたい気持ち)の子達は「自分の興味のない勉強をしている意味は無い。これ以上、興味の無い勉強はしたくない」という生意気なことを言うことがある。しかし、それこそが問題で、学生が本当に学ばなくてはいけないのは、自分が"今は"興味を持っていないし価値も感じていないが、無理矢理に学ばされることによって、はじめて、興味を持てたりその価値に気がついたりするようなことである。この下地があって、やっと、最先端で「何をしたら楽しいだろうか?」ということがわかるようになる。

 専門性とはインプットとアウトプットの時間の長さだ[1]。たとえ、本人に最初から強い学びの主体があったとしても、何かの明確な下地がゼロで、ただの興味関心だけで、ネット上(当然、原著論文も含む)の関連項目を見渡していくように「自分のやりたいこと」を見つけても、それは長続きせず、かなり長くても2年くらいで厭きてしまうようなことなのではないだろうか。
 そして、それをすることを喜んで引き受けてくれる研究室というのは、"その程度"の研究室だということである。つまり、きちんと教育課程で理解すべきことを未だ理解してもいない状態の君を受け入れてくれるような研究室主宰者は、基礎を蔑ろにした状態で、本来のサイエンスとは関係のないことをしながら、キャッチーな言葉で誤魔化している可能性が極めて高いのだ。だから、彼ら(早熟な子もそういう研究室主宰者も)は、とにもかくにも専門用語を使いたがって、頭の回転がめちゃくちゃ速く、ナメられないようにすることに必死だったりする傾向がある。

 「目の前の相手の要求だけに最適化すれば良い」という方法に慣れてしまうと、より大きなシステムに最適化してきた人間に、ある日突然、容易く負けてしまう。私は普段から「論文を書くことに最適化させてはいけない」とよく言ってるが、本当の本当に「論文を書くこと」に最適化させているなら、それはまだマシで、たいていの場合は「著者間の要求をself-consistentに解いているだけ」なんじゃないかと思っている。だが、それでも、大学教育までまともに過ごしていればまだまだマシで、早い時期から「著者間の要求」に最適化し、自分の研究にとって必要な論文や書物だけを読むことに馴れてしまうと、その子が本来得れるはずの価値観と実力の「伸びしろ」を捨てていることになる。
 例えば、君が、本当の本当に優秀で、大学の物理学科・数学科の修士課程までで学ぶような内容は本当にすべてマスターしており、生物学や化学の実験スキルはもちろん、地質学に関する知識、かなり厄介な数値計算・計算物理の方法でも具体的な言語で落とし込めるくらいのプログラミングスキルがある、高校1年生だとしよう。そうだとしても、私は、いきなり研究室に行くよりも、普通に高校を卒業し大学に行くことを勧める(少なくとも今の状況では(10年後は状況がかなり変わるはずなので意見は変わるかもしれないが))。何故かといえば、一人の権威者に最適化して名を馳せようとすることは、非常に危険だからである。そして、何かのキッカケで、その権威者にフラれた時点で、その子には信用がなくなる。

 実は、この構造は援助交際とそっくりなのだ。

 援助交際している子に、私が「それはマズいよ」と言えば、「なんで?おじさんはキモチイイ思いをするし、女の子はお金貰えるから良いじゃん。誰も損していないよ」と言うだろう。「なんで?先生は自分の研究が進むだろうし、学生は早くから業績項目書けるし、良いじゃん」と。
 そして、さらにつっこんで話せば、「大丈夫。バカなわけじゃないから、搾取されてるって、わかってる、って。わかってて、手伝ってるんだから、別にいいでしょ?」と。私は、「いや、わかっていない!」と言いたい。君が思っている以上に、遥かに遥かに搾取されているのである。援助交際の場合も早期の研究活動の場合も、その時間ちゃんと学ばなくてはいけないことを学ばないで、まともな人からの信用を永久に失うリスクまで背負い、「若さ」「若い力」という有限なものをすり減らしている。少なくとも、援助交際で得たカネで、その後自己実現している女の子を、私は一人も知らない。
 さらに、何より、公共の福祉に反する[2]。極端に言ってしまえば、まともに学びもせずに早期に研究室で研究するということは、「(露な)被害者なき社会的犯罪」とすら言える。だって、それを、みんながみんなすれば、本来得れるはずの価値観と実力の「伸びしろ」を全員が全員捨てることになるのだから。

 家庭環境が悪く家出がちな19歳の可愛い女の子に、知らないおじさんが「家に泊めてあげるよ、しかも3万円あげるよ。でも、わかってるよね?」と誘っていると知ったら、良識ある大人であるあなたは「それはアカン!」ときちんと止めるだろう。
 しかし、大学の先生の「君、優秀だね。うちの研究室に実験しに来なよ」という言葉は、誰も咎めない。咎めないどころか、咎めようかどうかと、迷うことすら無い。「いいじゃん!やらせてもらいなよ!!」と、むしろ、無条件に肯定してしまうだろう。

 変態おじさんは、普通じゃモテないからカネを払って淫らな行為をしたいわけだ。
 じゃあ、基礎学力が定かどうかもわからない君を、研究室に参画させたい先生は、本当はどういう先生なのだろうか?

 こんなに真面目なはずなのに、歴代の先生たちは認めてくれなかったし、親も認めてくれなかった。真面目で誰かに褒めて欲しかったばっかりに、搾取しようとしている大人と社会システム全体に縋ってしまう。気持ちはわかるし、明確に言っておかなくちゃいけないのは、早期に研究室で研究しようとする当人が悪いわけではないということだ。
 実際、俺自身も、卒研配属前にかなりの回数、研究室に出入りしていたし、キッカケはいくらでもあっただろう。だが、一度も、研究を早期に始めようとはしなかった。それは、俺には、無条件で褒めてくれる環境が他にも沢山あったから(今もそう)。ただのラッキーで、めちゃくちゃ幸福なほうだと思う。

 でも、だからといって、この運・不運の差は変えられない。だから、せめて、最終的に、君のことをきちんと考えてくれるのは、一体誰なのか。もっともっと、考え尽くしてから、行動したほうがいいのではないだろうかと思う。

 「でも、生きていくためには!」
 以前旅行で訪れたイタリア・ローマのTermini駅は、そんな眼をした子供達で溢れていた。いつでも隙さえあれば、財布を盗んでやる!と。「財布○個を盗まないと夕飯抜き!」と親から言われていたりするケースも多いのだそうだ。
 経済的に不利益なだけでなく、精神的に追いつめられた状態は、人を「生きていくためには仕方ないんだ」という瞳にさせる。
 
 「別に、財布を盗んでるわけじゃない」「別に、誰かを傷つけてるわけじゃない」
 その通り!良い子だからこそ、不遇な現状の中で、誰も傷つけないようにと、仕方なく正規ルートから抜けて、正規ルートっぽい権威者に最適化させて、自分だけを傷つける。「君は、きっと将来、大成するよ」と煽てられる。それがベッドの上か研究室の中かの違い。あれだけ口では期待してくれていたのに、結局大した結果が出なかったり、若くなくなったりすると、「いつまでそんなことしてるの?」「自分で選んだんでしょ。自己責任でしょ」と言われる。

 こんな腐った世を、少しだけでも良くしたい。そう思ったら、俺自身が、自発的に少しだけやる気が出てきた。
 今すぐには、どーしても、どーにもできない。申し訳ない。私は私が今できること(毎回の相談メールに真剣に応える、など)を取り組みながら、抜本的に具体的にどうしたらいいかと、引き続き考え続けなくちゃいけないだろう。ここでは問題提起だけで、、でも、正直、それも誰も言っていないので、それなりには誰かの今後の役に立ってくれたらなぁと、小さく願ってみたりする。

[1] 芦田宏直「ソーシャルメディアと現代社会論」講演
[2] UenoWeb【お悩み相談第46回】援助交際と褒められたいだけの”いい子ちゃん”
http://ueno.link/2017/09/09/%E3%80%90%E3%81%8A%E6%82%A9%E3%81%BF%E7%9B%B8%E8%AB%87%E7%AC%AC46%E5%9B%9E%E3%80%91%E6%8F%B4%E5%8A%A9%E4%BA%A4%E9%9A%9B%E3%81%A8%E8%A4%92%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%A0%E3%81%91/

研究室生活や大学生生活での悩みについて、私に直接相談したいと思ってくださる場合は、相談内容を明記の上、こちらにメールしてください(_attoma-ku_を@に変えて送信してください)。基本的にどんな相談もお受け致します。匿名で構いませんが、所属や名前を仰ってくださったほうが、相談にはのりやすいです。相談内容は決して口外しませんのでご安心ください。
soudan.atamanonaka.2.718_attoma-ku_gmail.com

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